今も500年前も、

その味は変わらない?

 

 

Chocolate Cake

 

新聞を捲りながら今日も観世音菩薩は地上の三蔵一行を看ていた。

彼らは今宿にいて相変わらずの行動を起こしていた。

つまり、悟空と悟浄が暴れ三蔵が銃を撃ち、八戒が笑いながら我関せずを突き通していると言う風景だ。

「うるせぇテメェら !いい加減にしやがれ!!!」

「銃で撃つなっつんてんだろうがこの生臭!」

「そうだぞ三蔵のハゲ!」

「誰がハゲだ!!!」

「あははは。もうそこまでにしといたらどうですか?」

 本当にいつもどおりで観世音はくっと笑った。

「変わんないねぇ、コイツからは…っとそういや」

 一人見当たらない。

現世(いま)前世(むかし)では真逆な気質を宿した少女の姿が無いのだ。

「何処に消えたんだ?」

 観世音が首を傾げたその瞬間うるさい部屋のドアが開いた。

「お前らウルセェぞ、宿の人が怯えてたぜ」

 手に何か持って、青い髪を後ろで一纏めにした少女が入って来た。

少女の手にしている物を見て最初に大きく反応したのは悟空だった。

「静夜! それってもしかして……」

 悟浄と一緒になって三蔵に文句を言っていたのが嘘みたいに悟空は嬉しそうに静夜に近付いた。

彼女の手には大きいケーキがあった。

静夜は金の眼をキラキラさせて近寄ってきた悟空ににっと笑って頷いた。

「ああ。静夜様特製のデコレーションケーキだよ」

「スッゲー! 美味そう!!」

 大きな眼をさらに大きくしてケーキを見つめる悟空に笑いながら静夜はケーキを近くのテーブルに置く。

悟浄もケーキに近付くと口笛を一つ。

「こりゃスゲェな」

「今年のバレンタインチョコはケーキですか」

 悟浄の隣に来た八戒が静夜に向けて声をかけると静夜はそうだと声を返す。

「今年は無性にケーキが作りたくなってさ。厨房を借りて作ったんだ」

 静夜は毎年バレンタインとなれば男4人チョコレートを渡していた。

恋愛としてではなく親愛の証としてなのは一目瞭然であるが。

毎年4人別々に渡していたのでケーキという今年のカタチに多少なりとも驚いたのだ。

「って言うか人別々に作るの面倒くさくなったんだろ?」

「それもあるかもな」

 悟浄がニヤリと笑いながら言えば静夜はアッサリと頷く。

皮肉を言ったつもりだったが、静夜には効かなかったらしい。

「長安にいたときはみんなバラバラだったから別々に作ってたけど、今は一緒に寝泊りしてるんだから別にバラバラじゃなくてもいいよ

なって思ってさ」

 それがどうしたよ? とニヤリと笑い返せば悟浄は薄く笑って、

「違いねぇや」

 と返した。

「そんなことどうでもいいじゃんか! 早く食おうぜ!!!」

 悟浄と静夜のやり取りに業を煮やしたのか悟空が叫ぶように言えば、八戒が頷いた。

「そうですね。せっかくのケーキですし、食べましょうか? 悟空下に行ってお皿貰ってきてください」

「おう!!」

 八戒の言葉に悟空は嬉々として部屋を飛び出していった。

よほど食べたかったのか、そう思い静夜はクスクス笑った。

「ったくしょうがないな、悟空は…。よし、じゃああたしはお茶でも入れてくるか」

 笑うのと止めずに静夜も再び部屋を出て行く。

「食べるなよ〜」

 部屋を出てから少しして静夜のセリフが聞こえてきた。

三蔵がそれを聞いて眉間に皺を寄せた。

「悟空じゃねぇんだから食わねぇよ」

 小さく呟いた言葉を聞けたのは、天にいる観世音一人のみ。

「チョコレートケーキ、ねぇ」

 きっとあの部屋は今、甘い香りで一杯になっているのだろう。

あの時と、変わらない匂いなのだろうか。

ふと観世音は昔を思い出していった。

 

 

 

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