着飾るよりもその笑顔を

 

 

「あたし、町ん中見てくるわ」

 静夜は食事をし終えた後、八戒に言うと町の中へと消えていった。

「じゃ、俺もナンパしに行くとしますか」

 続いて悟浄も街の喧騒の中にはいっていく。

「これからどうします、三蔵?」

 少しして八戒が隣の男に話し掛ける。

「別にやることもなかろう。宿も既にとってあるしな」

「それじゃあ、三人で買い出しに行きますか。ね、悟空」

 八戒が悟空に話しかけた。

「うん! 行こうぜ、三蔵」

「ちょっと待て、何で俺まで……」

「三蔵」

 三蔵の言葉を八戒がにこやかに遮る。

「さっき何もする事がないって言ってましたよね。

今回買うものが多くて僕と悟空だけじゃ全部持てないかもしれないんです。

静夜も外に出てしまったし……。付き合って下さい。いいですよね、三蔵?」

 八戒のにこにこ笑顔に勝った人がいままでいただろうか? いや無い。

さすがの三蔵も例外ではなく、仕方なく付き合う事となった。

 

 

「おっきな街だな〜」

 静夜は街を見渡しながら言った。

ここは妖怪の影響も無いらしく、活気に満ち溢れている。

「さ〜て、どこに行こうかな」

 と言った瞬間。

 

ザッバ〜ン!!

 

「冷て〜ッ!!」

 どこからか降って来た水にかかり、あっという間に静夜は水浸しとなった。

「もう、誰だ!」

 あたりを見渡す。その時…

「ごめんなさい! 大丈夫……じゃなさそう」

 一人の女性が駆け寄ってきた。

「当たり前だ。どうしてくれ……ん?」

 静夜は文句を言おうと女性の顔を見ると目を細めた。

「…もしかして、明蓮?」

「そうです。どうして………静夜、静夜なの?」

「やっぱり、明蓮なのか!?」

 思わず声が大きくなる。

「静夜! 久しぶり〜!!」

「ああ、お前も元気そうだな」

 明蓮は静夜と同じ施設で育った者の一人で育ての親が決まったので静夜より早くに施設を出ていた。

「ごめん静夜! 服びしょびしょ」

 明蓮が手を合わせて頭を下げた。

「あっ、気にすんなよ。そのうちに乾くだろうし」

 口調も昔のものになる。

「でも風邪ひかれたら、私が困るもの。そうだ! 私の家、この近くなの。一緒に来て!」

 そういうや否や明蓮は静夜の手を握ると彼女を引っ張る様にして歩き出した。

「お、おい明蓮! 俺は別にいいって……」

「だ〜め、その服洗濯しないと私の気が済まないの」

「だからってな!」

「もう、いいから。ほら、あれよ、私の家」

 静夜の言葉に耳を貸さずに明蓮はずるずると静夜を家に連れていった。

 

 

「誰もいないんだな」

 洗濯機の音がする。

静夜は明蓮から借りた服を着ている。

真紅のチャイナドレスだ。

「うん。今姉さんが遠くまで買い出しに行ってるの」

 家の中を見渡している静夜に向って明蓮は洗面所から声を出した。

「両親は?」

「去年、亡くなったの」

 沈んだ、明蓮の声。

「そうか、感じのいい人だったのにな」

「そうね、でも姉さんもいるし、平気よ」

 明蓮は居間に戻ってきて言った。

「なら、いいんだけど」

 静夜は笑顔を向けた。

「…ありがと」

 明蓮も笑うとまじまじと静夜を見る。

「どうした?」

 静夜は首を傾げた。

「ん? その服……」

「ああ、この服か…。悪いな借りちまって」

 決まり悪そうに頭を掻く。

「そうじゃなくって……」

 明蓮はかぶりを振る。

「とっても似合うわ、静夜」

「似合う…?」

 怪訝とした顔で静夜は言う。

「うん、そう。ねえ静夜、こうしてみない?」

「こうしてって何を……ってオイ!」

 言い終わらないうちに再び明蓮に引っ張られ行き着いたにはドレッサーの前。

「おい、明………!!」

「黙って、目をつぶって、いいって言うまで開けちゃ駄目よ!」

 脅迫にも聞こえる明蓮の言葉に静夜はただ大人しくするしかなかった。

 

 

「いいわよ、目開けて」

 明蓮に言われ、目を開けるとそこには青眼の美人がいた。

「…………俺?」

 かなりの間があって静夜がつぶやいた。

「そう、やっぱり私の思ってた通り! 静夜って美人なのに女らしい格好した事ないでしょ?

 一度やってみたかったのよ」

 嬉々とした声で明蓮が言う。

「やってみたかったってお前なあ」

 呆れて何も言えない、そんな感じで静夜が言う。

「まあいいじゃない。外出てみなさいよ。誰もが貴女を見て振り返るわ」

 ポンっと肩を叩かれた。

「そこまではいかないと思うぜ」

「あら、そんなことないわ。なんたって私の自慢の友人なんだから」

 

 

 

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