下には湖
空には月
今日は特別な日なワケじゃないけど
でも
忘れられない日だから
貴方に
あたしは百合の花を持って町の近くの湖に来ていた。
こんなもんはアイツには似合わないってみんなに笑われたけど。
「じゃあ、どんな花がいいのさ?」
と聞いてみれば
「サボテンとか?」
「ギャハハ、それいいじゃん!!」
「それじゃあ、いくらなんでも可哀相ですよ」
「くだらねぇコト聞くな」
こう返してくる始末。
でも知ってる。
みんな私が気落ちしないようにしてくれたんだよね。
ありがと。
湖に映る月は十六夜。
死者を送る月だ。
…なんか切ない。
今日は貴方が逝ってしまって丁度一年。
貴方が彼の地で眠りについて一年。
彼の地は今、どこにあるんだろうね。
三蔵が封印して、もう一年か…。
百合を手にして立ったままであたしは空を仰ぐ。
「ホントは今日にしたくなかったんだけど…でも貴方に関して知ってるコトって…コレしかなかったから。
ゆるしてね」
始めて出会った日がいつか、忘れた。
そのときは敵でしかなかったから。
そのうちにどんどん貴方に惹かれて…
貴方を愛した。
いつか決着をつけるそのときまで、愛してくれたよね。
あたしも、愛してた。
天界の人間だから誕生日がいつか分からないって言った。
それもそうだと言って笑い合ってたけど、少し淋しかったのがホンネ。
だって貴方が生まれた日が分かってたら、今日にしなくてもよかったんだから。
でも、あたしが貴方に関する知ってることって言ったら貴方の最後の瞬間の日しかなくて。
それしかなかったから、今日にしたの。
唯一、貴方を思い出せる日。
貴方を振り返ることが出来る日。
それ以外は思い出さないことにしてるから。
そう――決めた。
先へ進むために。
でも、この日は特別。
貴方を思い出そうと決めた。
「死んだら全部忘れてくれって言ったけどさ。今日くらいは許してよ」
夜空に向かってにっと笑ってから百合の花を湖に捧げた。
月の光で美しく映える花はこの世のものではない証拠
貴方に贈る百合の花
届いたね
あたしはもう一度空を仰ぎ見る。
その名を呼ぶために
「焔……」
貴方にあの百合をあげる。
貴方に色々話してあげる。
貴方に
出会えてよかった。
Fin
あとがき
焔一周忌ドリームならぬ独白。
幻想魔伝が終わって絡もう一年たつんですね。
時が経つのは早いっす。
この話は前々からイメージしてたんです。
湖に百合の花を持って焔の弔いに来るシーン。
駄文では上手く表せません。残念。
でも、焔、アンタはいろいろな人に今でも愛されてるよ。
そう、今もね。
2002・3・26