血が繋がってなくても
私はあの時決めたのよ。
この子達を…
『守って』みせるって。
太陽が高く天上を指した頃、一人の女性が自分の肉親たちが篭りっきりになっている図書室へと足を運んでいた。
始めてきたこの町の図書館が予想以上に大きくしかも禁書が沢山だと聞いて目を輝かせた弟2人が国家資格の特権を
使って禁書のある部屋へと入っていたのが朝。
もう5時間近く部屋から出てこない2人に呆れつつ女性はコンコンとドアを叩いた。
「おーい、もう昼だぞー出てこい」
自分の好きなことになると全く持って凄まじい集中力を持つ弟たちだ。
こんなノックでは気付きもしないだろうと思っていたら案の定出てこなかった。
女性は盛大に溜息を付いてドアノブに手をかける。
鍵が掛かっているのがこの場合は仕方がない。
あとで直させよう、と思いマナは力いっぱいにドアノブを引く。
バキッ!
鍵が壊れた瞬間であった。
しかし女性はそんなことには我関せずにそのままドアを開ける。
「ちょっといい加減にしてよ、あたしお腹すい………」
最後まで言葉を言うことが出来なかった。
女性は頭上のから降りてくる影を見上げ、悲鳴を上げた。
「うわあああーーーーー!!!」
ずうぅぅぅぅん。
大量の本が降ってきたのである。
「「えっ?」」
女性の上げた盛大な悲鳴でようやく彼女の弟たちが我に戻る。
弟2人はほんの雪崩に巻き込まれたのが誰だか悟るとサーッと、血の気が引いた。
どうしようと顔を青くした弟2人が顔を見合わせる中、本の雪崩からガバッと手が出る。
「「ヒィッ!」」
2人が固まる。
これは間違いない…。
殺されるっ!
部屋を充満していく殺気に完全に血の気が引き顔が白くなる弟たちが見守る(?)なか、手が出た本の山が盛り上がり。
「お前らーーーーーー!!!」
「「ご、ごめんなさーーーーーーい!!!」」
静かなはずの図書館が一気に騒がしくなった。
女性は膨れ面のままパスタを頬張る。
その前には大きなたんこぶを作った小柄な少年と心なしか頭が凹んでいる大きな鎧が頭をたれて座っていた。
小柄な少年はエドワード・エルリック。
幼い齢にして国家錬金術師の資格を持つ『鋼の錬金術師』。
鎧はエドワードの弟のアルフォンス・エルリック。
そして…。
「全く! アンタ達は!」
怒りが冷めやらぬままにパスタを頬張るのは。
「ゴメン、姉貴」
「ゴメンなさい、姉さん」
沈んでいる2人の声。
ごめんなさい、と謝る2人を見て姉と呼ばれる女性はフウと軽く息を吐くとエドワードとアルフォンスを見て苦笑を浮かべて
2人に向かって手を伸ばし、ぽんぽんとエドワードの頭を、アルフォンスの腕を叩く。
「大丈夫よ、もう怒ってないから」
「「ホント?」」
おっかなびっくりといった様子で見る2人に頷いた。
「あたしがあんまり怒りを持続することが出来ないって、解ってて言ってるんだからタチ悪いわよね?」
ニヤリと意地悪そうに言えば2人は決まり悪そうに笑い、声を揃えて言った。
「「ありがとう、姉さん」」
『鋼の兄弟』の姉、・エルリックだった。
とエドワードが食事をしているのをアルフォンスが見守る。
これが彼ら姉弟の食事風景である。
食べ終わった皿がウェイトレスが取りに来る前に大量に重ねられているのは、眼を逸らしていただきたい。
メインの肉料理を飲み込んでからが口を開いた。
「で、何か面白そうなのはあった?」
「石に関しての記述があるものはまだ見つかってないけど、面白いのだったらたくさん見つかったよ」
肉を口に入れて喋れないエドワードの代わりにアルフォンスが答えるとは嬉しそうに笑った。
「そう、良かったじゃない」
「これで石の記述がある本が見つかったらもっと嬉しいんだけどね」
「まあ、まだ時間はあるんだし焦らないで探しなさい」
ニコッと笑うにアルフォンスも笑い返す。
鎧のため、表情が出るわけではないが雰囲気で解る。
笑っていたとアルフォンスの耳にエドワードの咽る声が聞こえてきた。
見ると、何かを咽喉に詰まらせたのだろう苦しそうに胸を叩いている。
「ああ、ほら」
がさっと手元にあった水をエドワードに渡す。
エドワードは引っ手繰るように水を取ると一気に飲み込んだ。
はぁ、と大きな息が出る。
「ああ、死ぬかと思った」
「そんなに急いで食べるからでしょうが。文献は逃げないんだからそんなに慌てて食べない」
呆れたように笑いながらぺしっとエドワードの額を軽く叩くに彼は憮然とした表情を浮かべる。
「でもさ、ヤッパリ少しでも多くの情報がほしいし…」
「エド」
時間が惜しいと追いエドワードにが声をかける。
明らかに怒りが含まれている呼び名にエドワードは恐る恐るの方を見ると彼女はジッとエドワードを真っ直ぐ見ていた。
金とエメラルドグリーンの瞳が射抜くように見つめているのを見てエドワードは居心地が悪くなるが
それでも真っ直ぐにを見つめ返す。
「あたしとの約束は、覚えてるわね?」
「…………あ」
旅に出る前に来て間、彼女との約束事を思い出しエドワードは素直に頷いた。
「ゴメン」
「解れば宜しい……で、どんな面白い内容だったの?」
素直に謝ったエドワードを見てはふっと笑みを浮かべるとそう問う。
エドワードは一瞬目を丸めるが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべた。
「姉貴、錬金術のコト解んねぇじゃん」
「煩いわね。いいのよ、ちょっとは解るかもしれないじゃない」
意地の悪い笑みを浮かべる弟に姉は苦虫を噛み潰したように顔を顰める。
はっきり言うが、には錬金術の才能がない。
そのため、弟2人の錬金術の会話を聞いてもさっぱり解らないのだが。
「それに、私は2人が楽しそうに笑って話をしてくれるのが嬉しいから」
だから錬金術が解らなくても、貴方たちの笑顔が見られればそれで充分、と笑う顔は柔らかくて。
エドワードはアルフォンスと顔を見合わせ、
「そうだった」
と笑った。
歳相応に笑うエドワードとアルフォンスを見てはそっと心の中で再び誓う。
私は錬金術が使えないけど。
でもこの子達を守ってみせる。
この子達の優しい心を…歳相応の子供の心を失わせはしない、傷付けさせない。
守ってみせる。
血が繋がっていなくても…。
愛してるのだから。
「姉貴?」
「姉さん?」
急に静かになったを心配したのか、エドワードとアルフォンスがの顔を覗き込んでいた。
弟2人に顔を覗き込まれ、は一瞬驚いたが首を振り笑顔を浮かべた。
「なんでもないよ」
誓いを新たにしただけ、と心で呟き笑いながらは2人に言った。
「食べたことだし、そろそろ出ようか?」
「おう」
「うん」
コクリと頷くエドワードとアルフォンス。
「夕飯の時間になったらまた呼びに来るから。それまでは頑張っていい情報探しとけよ」
「まかしとけって」
胸を張って答えるエドワードに今度はが意地の悪い笑みを浮かべた。
「ちなみに今度また本の雪崩を起こしてくれた場合は本気でボコるから」
ピシッ! と固まったエドワードとアルフォンスを見て、は思わず吹き出してしまう。
自分の前では弟としていてくれる2人に鋼の姉君はただ笑い続けていた。
守ってみせる。
私の命と共に。
何よりもいとおしい、貴方たちを。
Fin
あとがき
エルリック兄弟ヒロイン、・エルリックの話でした。
本の雪崩云々はあまり深く突っ込まないでください。
頭に浮かんだら消えなかった(爆)
血の繋がりはないエルリック姉ですがエドとアルを思う心は人一倍。
その分怒ると怖いです、師匠並(笑)
彼女が『守る』と決めたのは兄弟の心です。
荊の道を歩いて急いで大人になろうとする彼らの歳相応の優しい心を。
…全然内容とかけ離れてしまいましたが(爆)
ちなみに、が壊したドアのガキはアルが直しました。(エドだと、ほらディティールが…)
2004.9.21