「わぁ! ティナ! 凄く可愛い!」

 弾むの声に、思わずウォーリア・オブ・ライトは顔を上げていた。

 

 

 

 

「…何をしているんだ、彼らは」

 少し離れた場所を映す視線の先には、とティナを中心に人だかりが出来ている。

 良く見ると、ティナの頭の上には、綺麗に整えられた(うすもの)がのっていた。

「あれは……?」

 今まで見た事も無かった(うすもの)―この場合はヴェールと言うべきか―の存在に、戦士の目が丸くなる。

 その様子を見ていたスコールがポツリと口を開いた。

「バッツとジタンがどこかで拾ってきた物らしい…」

 スコールの一言で全てが納得出来てしまうのはバッツとジタン、あの二人の成せる業なのだろうか?

「あの二人らしいね」

 咽喉を震わせてセシルが声に出して言うと、ますます現実味を帯びてくるから不思議だ。

「しかし、出所もハッキリしてない物を付けて大丈夫なのか?」

 クラウドが心配そうに呟くと、スコールがすぐに答えを出した。

「心配ない。のお墨付きだ」

 武器や防具、アクセサリーなどの能力を見るのもの仕事の一つである。

 危険な物であれば、彼女が警告するはずだ。

 しかし、ティナを見て一番はしゃいでいるのがなので、危険な物ではないのだろう。

「そうか」

 ホッと安堵の息を言葉に乗せたクラウドは他の3人と共に、ティナとと彼女たちを取り巻く者達を見守っていた。

 

 

 日の光を柔らかく遮るヴェールは、ひらりとティナの輪郭を隠す。

 ティナの目に前には、先ほどから可愛い可愛いと言うの笑顔がある。

 そして彼女の周りには、大切な仲間たちがいた。

「本当に良く似合ってるよ、ティナ」

「やっぱり女の子はこういう格好が似合うッスね!」

 オニオンナイトが心なしか緊張した面持ちで言う隣で、ティーダが腕を組みながらウンウンと力強く頷いている。

「これ、誰がやったんだ? 凄く似合ってるじゃないか」

 美しく整えられたヴェールとティナを見てフリオニールが問いかけると、

「ジタンだよ。すっげぇ手際良くて驚いたぜ」

 バッツが本当に驚いたように感嘆の声を上げれば、ジタンが誇らしげに胸を張った。

「これでもオレ、一応劇団員なんだぜ? こういう衣装のセッティングも出来ないとな!」

「へぇ! 盗賊だけじゃなかったんだな!」

 今まで知らなかったジタンの姿を垣間見て、バッツが楽しそうに声をかける。

「ま、副業みたいなもんだけどね。それにしても」

 肩を少し竦ませて、それでもやはり誇らしげにジタンは答えるとティナにウインクを送った。

「自分でやったとはいえ、やっぱり付けてるレディ自身が良いからな。いや〜良い仕事したぜ」

 ティナとヴェールを見て、満足げに笑うジタンのウインクを貰ったティナは目を少し丸めていたが。

 すぐに表情がほころんだ。

「ありがとうジタン。綺麗にしてもらって」

 ヴェールを被った自分の姿を鏡で見せてもらった時、本当に綺麗で驚いた。

 ティナは外見の醜美にあまりこだわる性質ではないが、それでもジタンが丹精込めて作ってくれたヴェールを付けた自分を見た時、

本当に嬉しくなったのだ。

 自分でもこういう物を身に付ければ嬉しくなるのだと、一人の普通の少女として感じて当然の気持ちを、ティナは始めて感じた様な

気にさえなった。

 だから、感謝の言葉と心からの笑顔が湧き出てくる。

 嬉しそうなティナの微笑が見れて、ジタンは照れ臭そうに頬を掻いた。

 その姿を微笑ましく思いながら、ティナはに顔を向けた。

「どうしたの、ティナ?」

 今までの仲間たちのやり取りを見ていたはとても穏やかにティナを見つめ返す。

 ヴェールを付けて皆に褒めてもらっているうちに、ティナは目の前の彼女の事を考えた。

 世界の為に戦う、自分と同じ女の子。

 ティナを見て、まるで自分の事のように嬉しそうに似合うと笑ってくれた

 が感じた気持ちを、ティナも感じたくなった。

「ん? なあに?」

 笑って小首を傾げるにとって、ある種の爆弾発言が聞えてきたのは次の瞬間だった。

「これ……も付けてみない?」

「………………ん!?」

 の笑顔が、見事に固まった。

 しかし、自分の発言で段々興奮してきたのか、ティナはの変化に気づく事はなかった。

「折角だしも付けてみましょう! 私一人だけじゃ勿体無いわ!」

「―――――え、ちょ…はい!?」

 ティナの言葉にの固まった笑顔は解かれたが、彼女の暴走は止まらない。

「ね、! 付けて!! 私、のこれを付けてるところが見たい!」

 違う意味で、魔力の暴走より性質の悪いティナの暴走を混乱したは止めることが出来なかった。

(…そういえばティナって、結構おしゃれとか好きだったよーな気が…)

 とある野生児の服選びの事をは思い出していたが、思い出しているだけではティナを止められない。

 だんだん、頭の中の整理が付いてきたは、とりあえず暴走している少女の名前を呼ぶところから始めた。

「えーっと、ティナさん?」

、付けてくれるの?」

 名を呼ばれたティナはキラキラと目を輝かせている。

 今までに見た事もないくらい生き生きして、楽しそうだ。

 この顔を見ていると、これから言わなくてはいけない事を言うのが躊躇われる。しかし言わなくてはならない。

「ティナ。私、精神体。ヴェール乗っけて整えるとか無理だから。すり抜けるから」

 水先案内人(ナビゲーター)として、十人の戦士一人一人に付くことが出来るのは、精神体だから成せる荒業である。

 しかし精神体という事は、実体が無いに等しい。

 ティナのようにヴェールを綺麗に着飾る事は厳しい。

 しかし彼女は、ティナは諦めなかった。

「解ってる。でも、整えることが出きなくても、被せることは出来るわ」

 キッパリと言い放つ。

は精神体だけど、でもある程度の物質干渉が出来る。私の手を握ってくれたりとか出来るんだもの。

ヴェールを被るくらい、なんて事は無いはずよ」

 ティナの目は真剣だ、これ以上ないくらいに真剣だ。

 確かにはある程度の物質干渉は出来る。

 しかし、それを今ここで強力なカードとして出されるとは、も思っていなかった。

 と言うより、思い付かなかった。当たり前だが。

 物理的に無理だから、で諦めてもらおうと思っていたの目論見は見事に外れた。

 長い付き合いの仲間にこの理屈は無理だったかと、はティナを見つめる。

 キラキラとティナの目は未だに輝いている。

 むしろ、さっきより増している気がする。

(…あんまり似合わないと思うんだけどなぁ)

 そう心の中で呟きつつも、はとうとうティナに向かって首を縦に下げていた。

 

 

 ふわり。

 ティナを飾っていたヴェールは布と戻り、今度はへと向かっていた。

 の頭にたどり着いたヴェールは、ティナの時同様ジタンの手で、なんとか布の状態でヴェールを形を綺麗に整えようとしている。

 頭に何かを被せる感覚は久しぶりなのか、の表情が少し戸惑っているように見えた。

「ジタン、そんなに真剣にならんでも良いよ?」

「ダメダメ。ティナのお願いを無碍には出来ないだろ? それに…」

「それに?」

 似合わないよ、と思っているの気持ちを解っているのか。

 ジタンはニッと笑った。

「どんなレディでも綺麗にさせなくちゃ、このジタン様の名折れだろ?」

 の目が丸くなる。

 そして、一言。

「……ごめん、サブいぼ出来そう」

「おい!」

 そんな会話を笑顔で交わしつつジタンは手を動かす。

 周りの仲間たちもジタンとの会話がおかしかったのか、とても楽しそうだ。

「…いよっし!こんなモンかな」

 暫くしてジタンが声を上げると、そこに居たのはヴェールを被った

 ティナの様に形を変えることは出来なかったが、それでも緩やかに波を立たせるヴェールの輪郭がを包んでいた。

「お、なかなか似合ってるじゃん!」

「ほんとだ。布だけでも結構いけるもんだね」

「こういう飾り方もアリだな、似合ってるよ」

「やっぱりも女の子ッスね。似合ってる似合ってる!」

 を見て、周りの面々が声をかける中、はティナを見る。

 ティナはジッとを見詰めていたが、すぐにパッと顔を輝かせた。

、似合ってるよ。凄く綺麗」

 嬉しそうな笑顔のティナを見て、は目を見開いたのは一瞬だった。

 すぐに、にこりとティナに微笑を返す。

「ありがとう。すっごく嬉しい」

 の笑顔を見てティナはが自分の姿を見て、とても喜んでいた気持ちを理解出来た。

 大切な人たちの笑顔は、やはり尊いものだと。

 この笑顔を守りたいと、ティナは強く願った。

 

 

「平和だな」

 ヴェールを飾ったとその周りで楽しそうに騒いでいる仲間を見て、クラウドが言った。

 呆れたような口調の中に穏やかな空気が含まれているのは、決して気のせいでは無い。

「休息は、取れる時に取っておかないといけないからな、良い事だ」

 スコールも普段よりも柔らかい口調で答える中。

 ウォーリア・オブ・ライトは優しくメイたちの光景を見ていると、それは始まっていた。

 ふと。

 ティナたちがから目を離した一瞬。

 は自分の目の前にかかっているヴェールにそっと指先を近づけて、そっと触れた。

 ゆらりと動くそれを見て、は小さく俯くと。

 目を軽く細めて、恥ずかしそうに嬉しそうに頬を薄紅に染めつつも、はにかんで見せた。

 

 ドンッ。

 

 ウォーリア・オブ・ライトは自身の中から突然聞こえてきた音に驚いた。

 かつて一度も経験した事のない音が体中を響かせたのだ。驚かないわけがない。

 胸を押さえようとする手に気付き、とっさにその手の動きを止める戦士と珍しい表情をしたの姿の両方を唯一、セシルだけ

が見ていた。

 セシルはウォーリア・オブ・ライトの珍しい行動を見て驚いていたが、その行動の意味するものを理解して、そっと微笑んだ。

「珍しいよね」

 セシルが声をかけると、戦士はバッとセシルへと顔を向けた。

 表情そのものはいつもと変わらず精悍だが、目が少し驚きに見開いている。

 そして、よく見ないと解らないが、頬にうっすらと朱が注していた。

「…何が、だ?」

 出してくる声も少し震えているのは緊張のためだろうか?

 何もかもが珍しい彼にセシルはただ、のんびりと笑う。

だよ。ああいう顔も出来るんだって思ったんだ」

 といえば、いつだって真っ直ぐで元気で勝気で仲間である自分たちの力になってくれていた。

 照れて顔を真っ赤にする事も確かにあったが、あんな表情を浮かべたことは無かった。

「ああいう顔を見せられると、も普通の女の子なんだなって思うよ」

 綺麗に着飾って褒められて、嬉しそうにする、普通の娘。

「そうだな…」

 当たり前の事なのに、何故か忘れていた。

 自身がそう悟られないようにしているのだろうか?

 ウォーリア・オブ・ライトはセシルから目を離して、もう一度を見た。

 先ほどの表情はどこへやら、彼女はいつもと同じ表情を浮かべている。

 いつもと変わらない、自分たちの仲間の顔だ。

 そのの姿に戦士は無意識に胸を撫で下ろした。

 先ほどの音が何なのか、彼はまだ理解していない。

 

 

 彼女を飾る(うすもの)のように、見えるようで見えない、その姿を隠したまま。

 

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

先達の滅多にしない表情と、その表情を見てドキッとするWOLが脳内に浮かんできて、これはオイシイ! と書き始めたのですが…。

何故かティナが暴走を始めてしまっていて驚いてます。

や、ティナが被っててその後に案内人って言うのは最初からあったんですけど、ここまで頑張ってくれるとは(笑)

メインは最後のシーンなんですけど…これはティナの友情夢とするべきか。それともWOLのデレ夢とするべきか…。

また判断に困るものをι

書いてるうちにセシルがWOLに突っ込みをしてくれました。

多分コスモスの戦士の中でセシルが一番恋愛に強いんじゃないかと思います(公式で最初から恋人が居るのは彼だけですしね)

 

2009/01/24

 

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