太陽少年の話

 

 

 

 一閃。

 弓から放たれた矢がイミテーションを貫く。

 イミテーションの姿が消えると、フリオニールは隣を見た。

。どうだ?」

 と呼ばれた存在は辺りを見渡し、目を閉じる。

 数秒経ってから目を開けると、はフリオニールに笑いかけた。

「この近くにはイミテーションは居ないみたい」

「そうか。ありがとう」

 フリオニールは真剣に感謝の言葉を述べる。

 彼女が居なければ、この広い空間の中にある混沌の烙印の場所に辿り付く事が容易ではなくなってしまう。

 烙印だけではない。

 敵の位置や宝箱、召喚石の察知。

 そしてスキルの使用など、彼女にはとても助けられている。

 真剣に礼を述べるフリオニールを見て、はクスクスと声を立てて笑った。

「どういたしまして」

 自身としては大した事をしているつもりは無い。

 むしろ、このくらいしか皆の役に立てないことを悔しく思うばかりだ。

 しかし、今出来ること以外でが出来ることは皆無に等しい。

 だから、おそらくこれで良いのだろうとは心の中で思う。

「暫くはイミテーションに遭遇することも無いから、フリオも少し肩の力を抜いたら?」

 さっきからずっと戦いっぱなしで疲れてるでしょ?

 フリオニールを見上げてくるに彼は一瞬考えて、頷いた。

「そうだな。敵が近付いたら教えてくれ」

「了解」

 弓をいつもの位置に戻すとフリオニールはゆっくりと歩き出し、はその後を追った。

 敵が居なければこの空間はとても静かだ。

 

 ティーダは、大丈夫だろうか?

 

 歩きながらフリオニールは先ほど違う道を駆けて行ったティーダの背中を思い浮かべた。

 後で落ち合うことになってはいるが、少し不安が募る。

 しかし、その不安もすぐに打ち消された。

 彼の強さは確かなモノであるし、あの天性の明るさがあればどんな時でもめげることは無いだろう。

 ふと。

 フリオニールはティーダと別れる前の会話を思い出すし、クスリと小さく笑った。

「どうしたのフリオ。急に笑い出して?」

 顔を緩ませたフリオニールを見て、は目を丸くしながら隣に居る青年に声をかける。

 笑っている表情のまま、フリオニールはの顔を見た。

「いや、ティーダと別れる前のことを思い出して」

「………あー」

 フリオニールの思い出し笑いの原因をも思い出したようで、彼女はなんとも表現しがたい微妙な笑みを浮かべた。

 ティーダはゴルべーザ――兄の事で悩むセシルを励まし、その背を押した。

 結果、セシルは兄の真意を確かめるべくティーダたちの許から離れ、今は一人で行動している。

 セシルを一人行かせたティーダは、フリオニールへ色んな言葉や表情で誤魔化そうとしていた。

 しかし、結果はも容易く想像出来た。

「根が正直で素直だからね。すぐに顔に出ちゃうのよ」

 ティーダが隠そうとしていた事は、すぐにフリオニールにバレる事となった。

「あいつ、隠し事とか絶対出来ないよな」

 誤魔化しきれなかった時のティーダの表情を思い出しているのだろう、フリオニールの肩が少し揺れている。

「そうねぇ…」

 もフリオニールの言葉に頷こうとした時、脳裏にある記憶が浮かび上がってきた。

 この世界で、だけが知っている。ティーダという少年の未来。

 確かにティーダは素直で正直で明るくて、どんな時だって未来を信じて行ける強さを持っている。

 しかし、単純と言うには複雑だ。

 単純であるなら、ティーダは父ジェクトの事であんなに考える事は無かっただろう。

 そして…。

「確かにティーダ君は隠し事出来ない感じだけど…。でもそれって、フリオニールを信頼してるからじゃない?」

「―――信頼?」

 笑っていた顔を止めて、フリオニールはを見つめた。

 少し驚いている表情に見えるのは、見間違いでは無いだろう。

 はシッカリと首と縦に振って見せた。

「もしバレても、フリオニールなら解ってくれるって言う信頼。

フリオニールならティーダや私と一緒にセシルを信じてくれるって言う信頼。

甘えって言っちゃえばそれまでなんだろうけど…。

自分の大切な仲間だから、きっと解ってくれる筈だって信じるのは、十分信頼されてる証拠よね。

だからきっと、ティーダにとってはバレてもバレなくてもどっちも結果は変わらなかったと思うわよ」

 私たち、大切にされてるわよねぇ。

 のんびりとした口調と共に微笑むを見つめていたフリオニールは目を丸めていたが。

 そのうちに口の端を上げていた。

「そうか…そういう考え方もあるのか」

 あの明快さは、いつだって自分たちを引っ張り上げてくれる。

 大切な仲間だから、尚更。

「でも、もうちょっと上手い誤魔化し方とかも覚えた方が良いと思うけどな」

「まあ、それはおいおい覚えてくんじゃない? ティーダ君だって子供じゃないんだから」

「そうだな」

 笑うフリオニールを見て、はここには居ないティーダへと思いを馳せる。

 大切な仲間だからこそ、彼は上手く誤魔化せない。

 それはティーダ自身が笑って、再会出来るという絶対の未来と仲間を信じいるからに他ならない。

 笑って再会できる未来だからこそ、彼は上手く偽れない。

 しかし。

 もし、未来で仲間が悲しみにくれるようなことがあれば。

 もし、未来で自分が悲しみにくれるようなことがあれば。

 彼は、ティーダは、絶対に上手く誤魔化し切ってみせるだろう。

 仲間の、大切な人の悲しむ顔を最期まで見たくないが故に。

 

 フリオニール。

 

 ティーダは絶対に隠さなくちゃいけない事は、最期まで隠し通せる。

 そんな変な優しさと悲しい強さを、きちんと持っているのよ。

 だが、今はそれを言うべきではないだろうし、言わなくても良い事なのだ。

 今、自分たちの目の前にいるティーダと言う少年が、全てなのだから。

「あ、フリオ。あっちから宝箱の気配がする」

「本当か? イミテーションは?」

「一体いるわ。どうする?」

「行ってみよう」

「オッケー」

 ティーダと合流するべく、二人は崩れていく世界を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

ティーダ編でセシルのことをフリオニールに誤魔化そうと必死になっているティーダを見て、

「あ、こりゃバレるな」

とか思ってたら本当にバレて思わず噴きました。

ティーダ君らしいなぁとか思って。

絶対隠し事とか出来ない、彼らしいなと。

でもふと、]本編の事を思い出したのです。

終盤、彼は自分が何者であるのかを知り、最期はどうなるのかを知った。

でも彼はいつもと変わらぬ姿で、最期まで見事ユウナたちと旅を続けてみせた。

多少の違和感をユウナに感じさせつつもそれでも結局、彼は最後まで隠し通せたんですよね。

そう考えた時、ティーダは決して隠し事が下手では無いんだと思い直しました。

大切な人や仲間の為なら、彼は誰にも悟らせずに心の奥底に何かを隠してしまえるんだと。

すぐにバレてしまうのは、仲間を信じているからで。

最期まで隠し通すのは、仲間を思っているからで。

どちらが良いのかなんてのは、ティーダ本人にしか解らないんでしょうけどね。

 

 

執筆日:2009.1.5

掲載日:2009.1.19

 

 

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