眠れる彼女と獅子

 

 

 

「えーっと…これは…」

 武器や防具、アクセサリと召喚石。

 様々なアイテムがの周りを囲んでいる。

 バッツとジタン、そしてスコールの3人がクリスタルを手に入れて数日。

 を含めた4人は他の仲間と合流するべく旅を続けていた。

 しかし、水先人の案内をもってしても合流には時間がかかり、なかなか皆の所へ行き着くのは難しい。

 運良く森と川のある空間に足を踏み入れる事が出来たので、今日はここでキャンプをすることになった。

 調べ終えた武器と防具を仕舞いながら、は小さく息を吐く。

「スコール、大丈夫かな」

 バッツとジタンが野宿の準備をする中、スコールは一人で辺りの見回りに行ってしまった。

 時間的にイミテーションの活動が終わる頃とはいえ、一人で行かせるわけにはいかない。

 がいつものようにスコールに付いていこうとすると、彼は首を横に振った。

『俺ひとりで大丈夫だ』

『でも…』

『イミテーションの活動時間もそろそろ終わる頃だしな。そんなに遠くへ行くつもりもないから心配するな』

『でもやっぱり…』

『無理はしない。…それとも、俺はそんなに信用がないのか?』

 そう言われてしまえば、これ以上粘ることも出来るはずがなく。

 は今、ジタンたちが最初に作ったアイテム置き場のテントの中にいる。

 ジタンたちを手伝おうと思ったら、こっちも断られてしまった。

はゆっくり休んでくれよ!』

 そう笑顔で言ってくれる仲間たちの気遣いは嬉しいが、何もやることがないのは結構つらい。

 なので、出来ることを。と言うことでアイテムの整理をしている。

「ふあ…」

 アクセサリに手を伸ばそうとした瞬間、の口が大きく開いた。

慌てて開いた口から出た欠伸を噛み殺したものの、次第にの脳裏に靄がかかっていく。

「うー…。やっぱり疲れてるなぁ」

 目を瞬かせながらは呟く。

 精神体であるの疲労回復は専ら睡眠である。

 疲れが溜まると、他のメンバーよりも顕著に眠気が襲ってくるのだ。

「…皆に悪い事しちゃったかも」

 賑やかだが、なかなか聡いバッツとジタン。

 冷静が服を着ているようなスコール。

 の疲れを感じ取っていても何の不思議でもない。

 見回りに同行させなかったのも、野宿の準備をさせなかったのも、を思いやってのこと。

 嬉しさと申し訳なさがの心をよぎるが、それ以上に睡魔がを容赦なく襲ってきていた。

 こくりと、の首が揺れる。

「…ちょっとくらいなら、いいよね」

 アイテムを確認して、はそっと目を閉じ、睡魔に身を任せた。

 

 

 スコールが見回りから帰ってくると、テントがしっかりと張られていた。

 テントの近くにはバッツとジタンが会話の花を咲かせている。

 スコールが二人に向かって歩いていくと、二人も彼に気付いたのか。

 打ち合わせでもしたかのように二人は一斉にニッカリと笑ってスコールを迎えた。

「お帰りスコール」

「どうだった?」

 笑う二人にスコールも口の端を緩める。

「大丈夫だ。イミテーションの気配はなかった」

「そっかぁ」

「まあ、活動時間は過ぎてるしなぁ」

 うんうんと首を動かすバッツとジタンを見つめてからふと、一人いないことにスコールは気付いた。

は?」

 スコールの言葉にバッツとジタンは顔を見合わせる。

「そういや、見てないな」

「アイテム見てくるって言ってテントに入ったきりだ」

「疲れてたみたいだから、もしかして寝てるのかも」

 バッツはスコールを見た。

「スコール、様子見てきてくれないか?」

(なんで俺が…。テントにいるなら大丈夫だろ)

 スコールの心の声が聞こえたのか、ジタンがバッツの援護を始めた。

「オレたち、これからメシの準備しなくちゃいけないんだよ。スコールがやってくれんなら、オレが代わりに行くぜ?」

 ジタンの言葉にスコールはウッと息を詰まらせた。

 コスモスの戦士の中で料理が出来るのは限られている。

 スコールは当然、料理が出来ない側である。

「…………解った」

 小さい沈黙の後に出たスコールの言葉にバッツとジタンは満足そうに頷いた。

 

 

 のいるテントに入った瞬間、スコールの目は丸くなった。

 テントの床に散らばるアクセサリと召喚石。

 その中で眠る、人ひとり。

 横向きになって眠っているを見て、スコールの口からは息しか出なかった。

(この状況でよく眠っていられるな)

 スコールはに近付くと地面に膝を付いた。

 立っていた時よりも近くなるの顔。

 肩を上下に揺らしながら気持ちよさそうに眠る

 しかし、顔にはまだ疲労の色が残っている。

「……無理のしすぎだ」

 彼女が起きているときに言えば、必ずは自分たちよりマシだと言うのだろう。

『私は皆が道に迷わないように案内するだけ。皆みたいに実際命を懸けて戦ってるわけじゃない』

 だから、出来る事を。

 しかしそれがどれだけ自分たちの力になっているのか、は解っているのだろうか。

(解っているからこそ、絶対に妥協したりしない)

 今は閉じているの真っ直ぐに輝く瞳を脳裏に浮かべながら、スコールはに向かって手を伸ばす。

 触れたの頬は少しひんやりとしていた。

 よく見れば先ほどまで気持ち良さそうだった寝顔も寒いのか、眉間に皺がよっている。

 それでも目を覚まさない辺り、余程疲れているのかそれとも寝汚いのか。

 微笑ましさと愛しさがこみ上げてきて、スコールは小さく笑うと、するりとの頬を優しく撫で、顔を近付けた。

 

 

「お!」

 食事の準備をしていたバッツがスコールを見つけて声を上げる。

「スコール、どうだったって……んん?」

 スコールの姿を見て、バッツが首を傾げる。

 何か違和感が。しかしそれが何か解らない。

 首を傾げているバッツの耳にジタンの声が届いた。

「スコール、ジャケットどうしたんだー?」

「ああ、ジャケット!!」

 違和感の正体にようやく気付いてバッツが両手を合わせて音を鳴らす。

 いつも身に着けているジャケットがなく、アンダーのみの姿をスコールは見せていた。

 今頃気付いたバッツに溜め息を吐きながら、スコールは口を開いた。

が眠ってた。寒そうだったから、掛けてきたんだ」

「あー、やっぱり寝てたんだ。凄く疲れてたみたいだったし。これで元気になると良いな!」

 ニカッと笑うバッツに釣られて、スコールの表情も柔らかくなる。

 しかし、次の瞬間、スコールの表情は固まることとなった。

「本当に、ジャケット掛けてきただけなのかなぁ? スコールく、ん?」

 ニヤニヤとスコールに向かって言い放ってきたのはジタンだった。

 ピシリ!

 スコールの全身が凍ったように動かなくなる。

 そして次の瞬間。

「―――なっ!」

 顔が赤くなったのを見逃すバッツとジタンではない。

「なにやったんだぁ? 教えろよスコール!」

 スコールに飛び掛るジタン。

「やっと一歩前進か? いや、は寝てたしなぁ…」

 顎に手を当てて何故か冷静に考えるバッツ。

 二人の行動にスコールはますます混乱していく。

「一歩って…お前たち、まさか!?」

 心なしか震えているスコールの声に対して、確かに首を縦に振るバッツとジタン。

「このオレ様の目は誤魔化せないぜぇ? ってかスコールはこう言うのすぐに顔に出るからなぁ」

 スコールの背中に飛び乗ってニンマリと笑うジタン。

「普段は冷静なのにやっぱり年頃だよなぁ。結構解ってるヤツいるぜ? あ、は解ってない方な!」

 楽しそうに腕を組んで何度も頷くバッツ。

 本人に知られてないのが不幸中の幸い。

 なんて頭で解って冷静になれるほど、スコールは大人ではない。

 勢いでやってしまったことを後悔するべきか否かと悩む、普段は年相応に見えない年頃の少年を見て。

 バッツとジタンは笑顔を見せ合った。

 

 

 ぱちり。

 は目を開けた。

 視界が、暗い。

「………え?」

 今、何時でしょうか?

「ヤバ!!」

 ちょっとだけだと思ってたのに思いっきりガッツリ眠っちゃったの!?

 慌てて、上半身を上げると。

 するり。

 何かがの肩から落ちた。

「ん?」

 なんだろうと、持ち上げてみれば、は目を大きく見開いた。

 ファーの付いたブラックレザーのジャケット。

「スコール…」

 見回りから無事に帰ってきたのだろう。

 そして、様子を見に来てくれたに違いない。

 は目を細めるとジャケットを抱きしめた。

「ありがとう、スコール」

 ポンポンとジャケットのファーを触ってから膝の上に置くと、は大きく伸びをした。

「んんー…。さぁてと、返しに行かなくちゃ」

 ジャケットを持ってが立ち上がる。

 テントから出る瞬間、ふと、は唇に触れていた。

「…ん?」

 予想していなかった自分自身の行動に、は自分で驚いていた。

「何にも、ないわよね?」

 ひとしきり首を傾げていたが、どうにも答えは出てきそうもない。

「…無意識って怖いなぁ」

 そう一応の答えを付けて、はテントから出て行った。

 

 

 

 

 

「スコール、これ。ありがとう」

「…ああ」

「どうしたの? 顔赤いけど? 風邪? 大丈夫??」

「大丈夫だ。だからそんなに近付かないでくれ」

「ホントにぃ? まあ、嘘吐いてもしょうがないだろうから大丈夫だとは思うけど…ってバッツどうしたの? ジタンも。どうして笑ってるの?」

「いや…だって、なぁ?」

「なあ?」

「…なにかあった?」

「―――――――――気にしないでくれ、頼むから」

 

 

 

 

Fin


あとがき

アイテムがごろごろ散らかってる中で眠っている先達が浮かんできまして。

誰かが着てるものを掛けたら面白そうだなぁとか思って最初に浮かんできたのがスコールでした。

マント装備のメンツでも良かったんですが、スコールでやってみようと言うことに。

しかし、ただ上着掛けるだけじゃつまらないかなぁとか思ってたら、脳内スコールが寝込みを襲っててビックリしました(苦笑)

本当にもう折角スコールが体を張ってくれたので書いてみました(笑)

バッツとジタンが出てくるのは趣味です、ええ。ってかこの3人の組み合わせ大好きです!

スコールのジャケット脱いだ姿に突っ込んでくれる人が欲しかったのもあるんですが(爆)

スコールは外見や声、行動姿勢で騙されがち(笑)ですが、結構年相応な所が良いと思います。

 

2009.3.18

 

 

 

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