旅の途中で訪れた楽しい時間。

敵も味方も関係無く接する事が出来たらどんなにか・・・。

これは真夏の夜の夢。

 

 

夏の終わりに

 

 

「あっちぃ〜!俺もう絶えらんねぇよ!」

「うっせーぞ蒸し猿!暑いのはお前だけじゃねーんだよ!」

「お前だってさっきから暑い暑いってほざいてるじゃねーか!焼きゴキブリ河童!」

「あっ!お前またゴキブリって言いやがって!このぉっ!」

「何だよやるってのか?!勝負だエロ河童!!」

ガウン!ガウン!!

「二人ともいい加減にしないと三蔵がキレますよv・・・ってもう遅いみたいですね」

八月ももう終わろうというのにうだる様なこの暑さはいったいどういったことだろう。

どんな天気であろうとオープンカー全開のジープの中は最高潮に暑い。

川沿いの道を走っていると言うのにやってくるのは生暖かい風ばかり。

「あ〜も〜まだ次の街につかないのかよ〜」

「そうですね〜この地図によるともう少しなんですが・・・」

「ホントその地図使い物になんねぇな」

「お前の頭と同じだな。悟浄」

ここで何時もなら悟浄がお約束の様に三蔵に絡むシーンだが今日はそんな気分になれない。

もうすぐ日も暮れようとしているのにこの暑さ。おまけに宿屋も見つからない。

まったく・・・冗談じゃねぇぜ・・・。

「これはどうやら野宿決定!って所でしょうかv」

「オイ!冗談だろ!ってうわぁーーー!」

突然ジープのボンネット上に人影が現れた。

これに驚いた八戒が急ブレーキを踏んだ為悟浄の体は運転席側に突っ込まれた。

「イテテ・・・。なんだよ八戒、急ブレーキ踏みやがって」

「だって・・・悟浄。アレ・・・」

八戒が指を差した方向には仁王立ちした一人の女の子。

こちらを向いて得意げに笑っているその子は紅孩児の妹李厘だった。

「ヤッホー三蔵!久しぶり!」

「久しぶりってこの間も会ったじゃねぇか・・・」

「行き成り登場すると危ないって何時も言ってるじゃないですか」

「えへへ・・・」

「ところで李厘。こんな所で何してるんです?」

「何って・・・」

李厘の後方から声が聞こえる。聞き覚えのある声。忘れたくても忘れるものか。

「李厘様〜!こんな所に・・・。ってまぁ!皆さんお久しぶりです」

「久しぶりって・・・八百鼡。この間会ったばっかりじゃねぇか」

「あら?そうだったかしらv」

独角の苦笑いも何処やら・・・。八百鼡は終始笑顔のままだ。

「ところでよ独角。お前らの君主はどうした?」

「あぁ?紅か。アイツなら今こっちに向かっていると・・・」

と、その時牛魔王の息子でありカリスマ的存在の紅孩児が何処からとも無く現れた。

「久しぶりだな・・・三蔵一行」

「だから・・・久しぶりじゃねぇっての・・・」

悟浄の言葉を聞いて素直に頷く三蔵、悟空、八戒。そして独角。

「紅孩児。お前たちが経文を集めていると聞いた」

「その通りだ。いずれお前の魔天経文も頂く事になる・・・」

ピリピリした空気をかもし出している二人の間に突然李厘が入り込んでくる。

「ねぇお兄ちゃん。折角だから遊んでこうよ!」

「な、何言ってんだ李厘!俺達にはまだやらなければならない仕事が・・・」

紅孩児にとって三蔵一行と遊ぶなど突拍子も無い事。思わずしどろもどろにもなる。

それは三蔵にとっても同じ事。先を急ぐ身分で、ましてや敵と遊ぶなど・・・。

「まぁまぁ、そう硬い事言うなって。なぁ?悟浄」

「そうそう、独角の言う通り。たまには生き抜きも必要よ」

固まっている三蔵と紅孩児に悟浄は軽くウィンクをかました。

「貴様!何を考えている!!」

「独角!お前は何を考えている!!」

一寸狂わず同じタイミングで発せられた言葉に思わず八戒が凄いですね〜と拍手を送る。

「まぁまぁ、今日ぐらい良いんじゃないですか?僕らこのままここで野宿決定!ですしどうせなら楽しい夜にしましょうよvv」

そう笑顔で言われた三蔵は軽く舌打ちをする。

あいつの笑顔は怖いんだよ・・・。

八戒とあまり接したこの無い紅孩児さえ八戒独特のオーラにしり込みをする。

これは勘だが・・・この男には逆らわない方が良いのかも・・・。

「そうだ!僕いい物持ってるんですよ」

そう言って自分のバックから何やら取り出してきた。

それは大きな筒状の透明バックに入った花火であった。

「うわぁ〜花火だ〜!!俺やりたいっ!!」

「オイラも!オイラも!」

花火を見て興奮した悟空と李厘を八戒がなだめつつ一本の花火を渡す。

そしてローソクに火を灯すと残りのメンバーにも花火を渡していく。

「はい。悟浄はコレですよv」

「って言うかさ・・・お前、何時の間に花火なんて買ったんだ?」

「つい最近ですよ。みんなで出来れば楽しいだろうなって思って」

「あっ・・・そっ・・・」

みんなでって最初からこいつらとやる気だったのかよ。

悟浄の気持ちなど全くわかっていない八戒は未だ固まり続ける三蔵と紅孩児にも花火を渡し終えると再びバックの中をあさり始める。

「何やってんの?八戒」

「悟空の好きな物を今から作ってあげますからね」

そう言って取り出されてのはペンギン型したカキ氷機。

「何?それ?」

「カキ氷を作る道具です」

「カキ氷?!」

お子様二人の瞳が輝いたのは言うまでも無い。

「さぁ、悟空達は先に花火を楽しんでて下さい。その間に僕がカキ氷を作ってあげますから」

「うん!わかった!」

「くれぐれも火傷には気をつけて下さいね。あぁ、八百鼡さんちょっと手伝ってもらえます?」

「えぇ、良いですよ」

すっかりこの場を仕切っている八戒が八百鼡と共にカキ氷を作り始めたその横でお子様二人に悟浄、独角の二人が加わり小さな花火大会が

始まった。

 

「うわぁ!李厘!振り回すんじぇねぇって!」

「だって〜独角〜こうやって回した方が綺麗なんだよ〜」

 

      

両手いっぱいに花火を握りしめて李厘は勢い欲回してみせる。

それをみた悟空は何故か対抗意識を燃やす。あんなチビには負けらんねぇ!

「それっ!俺の方がもっと綺麗だぜ!」

「オイ、チビ猿!俺の方まで火の粉が飛んでくるだろうがぁ!」

騒がしくも楽しそうに花火を満喫する4人を見つめる八戒と八百鼡の瞳はまるで現役の保父さんと保母さんの様だ。

保父さんがカキ氷を作りながら何気に三蔵の方を見てみる。

その姿はまだ固まったまま。まったく・・・。一つ溜息を付いて八戒は三蔵に近寄った。

「そうやって何時まで固まってるつもりですか?」

「うるさい。だいたいお前が余計な事を・・・」

「確かに!花火をやろうと言ったのは僕ですしカキ氷を作るといったのも僕です。でもね三蔵そうやっていつでも気ばってると神経疲れますよ。

悟浄じゃないですけど今日ぐらいは息抜きしたらどうです?」

確かに八戒の言うことは正しいのかもしれない。

息抜きか・・・・。今まで考えた事も無い・・・。

「ほら、悟空達も呼んでますし。ね?紅孩児も・・・」

笑顔で促された二人は一瞬顔を見合わせた後ようやく最初の一歩を踏み出した。

うるさいまでに騒ぎまくる4人の輪に入った三蔵と紅孩児は持っている花火に火を付ける。

ジジッと化薬が燃え色鮮やかな光が何時の間にか暗くなった景色に華を添える。

それはとても綺麗で暖かくて・・・。

 

 

「なぁ?綺麗だろ」

自分を見上げる悟空の笑顔。化薬と煙草が燃える匂い。シャコシャコと氷が削れる涼しい音。

甘いシロップの香り。どうしてだか全てが心地よくて・・・。

「皆さんお待たせしました!カキ氷出来ましたよ!」

大きなおぼんに乗せられたカキ氷を八百鼡が一人一人に配っていく。

 

「どうぞ。紅孩児様」

「あぁ・・・ありがとう」

「はい。三蔵様も・・・」

八百鼡から手渡されたカキ氷をスプーンですくって口の中に入れてみる。

冷たい感触と共に甘い香りが口の中いっぱに広がる。

カキ氷か・・・。ガキの頃に食べてそれっきりだったな。

昔は心地良いと感じたことはなかった。それは今の今まで変わる事は無かった。

でも、たった今自分は感じた。心地良いと。倒さなければならない敵が目の前にいるのに。

やりずらい相手だな・・・。まったく・・・。

そう思う気持ちは紅孩児も同じ。それでも彼の中には迷いは無い。

三蔵一行を倒す。母上を忌まわしい呪縛から解放する為に・・・。

それでも今はこの心地良さに触れていたいと思う三蔵と紅孩児であった。

 

 

 


お礼

miyukiさんの暑中見舞いの小説でスv

ありがとうございます。

ここのところ出番のない紅孩児ご一行が出てて楽しかったです。

八戒はやっぱり無敵ですな〜〜(笑)

楽しい話をどうもありがとうございました。

 

2002.8.29

 

 

 

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