q.s
「桜乃ちゃん」
「はい」
「私は今ちょっと危機に瀕しています」
「えっ…」
優姫の突然のセリフに桜乃が目を丸めるのも無理は無い。
なぜならここはケーキ屋。
何も危機に瀕することなど無い場所なのだ。
桜乃が目を丸めているのに気付かないのか、優姫は話を止めることなく進める。
「ここのケーキ凄く美味しいよね」
「はい」
優姫が自分の食べているケーキを見つめながら言うのに桜乃は意味が解らない状態で返事を返す。
「だからこそ、って言うのもなんだけど…やっぱり最後まで綺麗に食べたいもんだと思うのね」
「はい…」
桜乃はもしかして、と優姫の目の前にあるケーキを見る。
「だから、私は危機に瀕しているのです」
ものすごく真剣に語る優姫の目の前にあるケーキ。
冷たいケーキ皿の上にはフォークで崩れてしまったタルト生地がぽろぽろと無残に転がっていた。
桜乃はようやく納得して大きく頷いた。
「タルトって美味しいですけど食べにくいですよね」
「うん。このサクサク感が良いんだけど切ろうとするとすぐ割れちゃうんだよね」
優姫は残念そうに言いながらタルトを一口分に切ろうとフォークを動かす。
当然、タルト生地は綺麗に切れず小さな欠片を残してしまった。
「うう、無念」
「やっぱり難しいですね」
桜乃が自分のケーキを食べつつ言うと、優姫はこくりと頷いた。
「ここでも大変なのに、最後の壁の部分になるともっと大変になるんだもんなぁ。
私いつも切らないで一口で食べてるんだけど…それだと口に入りきらないから凄く辛いんだよね」
優姫の言葉に桜乃は思わず苦笑いを浮かべてしまった。
「それは…辛いと思いますよ」
優姫は彼女の言葉にだよねぇと頷き、フォークをくるくる回す。
「タルトを綺麗に食べる人もいるって言うけど、一体どういう風にして食べてるんだろうっていつも思う…」
「やっぱり練習あるのみ、なんですかね?」
あまりに真剣に悩む優姫につられてしまったのか桜乃も真剣に考え始めてしまい、ポツリと呟いた。
「練習かぁ…」
桜乃の言葉に優姫は目の前に鎮座するタルトを見つめて、頷いた。
「それしかないかも」
「えっ?」
優姫の、何処か決意に満ちた言葉を聴いて桜乃はもしかしてと不安になった。
かくして、不安は現実のものとなってしまう。
「せ、先輩、そんなに頼んで大丈夫なんですか…!?」
「ん、だいじょぶダイジョブ。お小遣いはまだ余裕あるもん…」
さぁて、頑張るぞーっと拳を握る優姫の前にはいろんな種類のタルトが…。
桜乃は呆然としながらタルトと格闘し始めた優姫を見つめ続けるしかなかった。
後日談として、無事にタルトを綺麗に食べたれるようになった優姫がレギュラーと供に走り込みをしている姿を目撃したとかしなかったとか。
Fin
あとがき
拍手ありがとうございました!
テニスの王子様で優姫&桜乃でした。(朋ちゃんは弟たちの世話で今回は不参加でした)
2006.2.21