3er:[g

 

 

差し入れ。

そう言われて目の前に置かれたのは、箱だった。

何の前触れも無く現れた黒髪の男と箱に、ナディアはただ目を丸めるだけ。

「あの…ザックス」

「開けてみろよ」

 ワクワクと言った雰囲気を惜しげもなく出すザックスにナディアはますます不安になっていく。

「あ、いえ、あの…」

「なに?」

  戸惑うナディアにムッとしたのか憮然とした表情を浮かべた黒髪の男にナディアはようやく訊きたいことを訊き出せた。

「事務所、私以外出払ってて、玄関に鍵がかかってた筈なんですけど…」

「………」

「………」

 沈黙が二人に降りかかる。

「…ほら、俺ソルジャーだし」

 数秒後、ザックスの口から出た言葉はあまりにも意味が無く。

ナディアはため息を吐いた。

「あとで怒られても知りませんから」

「うっ…」

 今、ザックスの脳裏には自分のマネージャーと事務所の社長の冷ややかな笑顔が浮かんでいる事だろう。

冷や汗を浮かべるザックスを見て自業自得とばかりにもう一度ため息を吐くと、ナディアはザックスが持ってきた箱を見つめる。

箱から白い煙のようなものが出ているは見間違いでは無いだろう。

「ザックス、これは?」

 いつまでも冷や汗をかかせておくのも忍びないと、ナディアはザックスに声をかける。

しかし、どうやら彼には聞こえていないようだ。

仮にもソルジャーなのだから、そんなに怖がることも無いだろうにと思いつつ、もう一度声をかける。

「ザックス」

「え、ああ」

 ようやく戻ってきたザックスはナディアを見て箱の方を向く。

「これだろ?」 

「はい」

 箱には最近ミッドガルに出来たアイスクリーム専門店の名前が書いてあるシールが付いている。

「最近ディナが忙しいって聞いたもんだからさ、差し入れ」

 ザックスが蓋と開けると、もわっとドライアイスが周囲に広がっていく。

そして、その中には。

「うわぁ…!」

 チョコレートブラウニーとナッツの乗っているアイスケーキが姿を現した。

「ザックス! ありがとうございます!」

「いや、こっちこそ喜んでもらえて良かったよ」

 ナディアの嬉しそうな表情にザックスが満足そうに笑う。

ナディアはもう一度ありがとうと伝えると、すくっと立ち上がり部屋の奥にある給湯室に入っていく。

給湯室から出てきたナディアの手には、ケーキを切り取るためのナイフ一本と食べるためのスプーンと皿が二枚。

ナディアはにこりと笑う。

「折角ですから、ザックスも食べて行きましょう」

 彼女の誘いにザックスはニヤリと笑う。

「実は半分そのつもりで来たんだ」

 ザックスの言葉にナディアは一瞬キョトンとなり、すぐにクスクスと笑い出した。

 

 

 

数分後。

 

ケーキを食べている最中にマネージャーと社長が帰ってきて。

不法侵入を果たしたザックスがボロボロに怒られたのは…。

いまさらな話である。

 

 

 

Fin

 

 


 

あとがき

拍手ありがとうございました。

FF7でクラウドに得あう前のナディア&ザックスでした。

補足として、ザックスはナディアの事務所の社長とナディアのマネージャーに随分と世話になっていたため、

彼女たちには頭が上がらないのです。

 

2006.2.21

 

 

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