寺に帰ってきたシゲに和尚はある一通の手紙を差し出した。

「なんやねん、ソレ」

「お前宛じゃ」

「俺?」

 シゲは訝しげな表情を浮かべながらも和尚から手紙を受け取り差出人を見るために手紙を裏返す。

見る見るうちにシゲの表情が驚きに変わっていくと思えば大慌てで走って部屋に戻って行ってしまった。

それを見た和尚は楽しげにニヤリと笑う。

「若いのぅ〜〜」

 

 

 

 

一通の手紙

 

 

 

 

シゲはもう一度手紙の差出人を見た。

シンプルなライトブルーの封筒には大切な友人の名前。

と書かれている。

「アイツ…なんでここに俺が居るって解ったんや…?」

 誰にも、何も言わぬまま京都を出て数年。

「ナオキにでも聞いたんか…?」

 物言わぬ封筒に向かって独り言を呟くが当然返事はない。

暫くシゲは中身も見ずに封筒を眺めていたがそのうちに意を決したように机からカッターを取り出すと慎重に封を切って行った。

中に入っていたのは封筒と同じ色をした便箋。

シゲはゆっくりとそれを取り出すと読むべく便箋を広げる。

手紙の最初の行にはこう書かれていた。

 

 

 

 

《親愛なる成樹様へ》

 

 

 

『おひさ〜〜〜元気でやっとる? あたしは元気にやっとるで。シゲが京都出てもう3年位か? 長いようで短いもんやな。

あ、急に手紙来て吃驚してるやろ? ナオキに聞いたんや。

アイツ今東京のほうに行くってことでなんかシゲの事で解ったら連絡してくれるように頼んでおったん』

「ヤッパリ………」

 思っていた通りのことにシゲは苦笑する。

まあ、彼女と自分を繋ぐことができるのは今のところ彼しかいないのだから当然か。

『まさか寺に居候してるとは思わなかったで〜。まあ、他にアテなかったんやから当たり前か。

東京のほうはどう? 楽しゅうやっとる? シゲん事だからすぐにダチは出来るだろうけど…結構心配してるんやで、コレでもさ。

サッカーも続けとるみたいで安心したわ。東京のプレイヤーは凄いヤツおる? 

シゲめっちゃ上手いからそうそう見つからんとは思うけど…でもな。

コレはあたしのカンなんやけど…いるとちゃう? めっちゃ凄いヤツがさ。…シゲが本気出せるようなヤツ。

もしいたら会ってみたいわ〜〜凄く気になるし(笑)』

「いるで…こっちにも凄いヤツがおる…しかもぎょうさんな」

 クスクス笑いながら手紙の差出人へと声かかける。

その後はの近況や経験したことの感想時折愚痴交じりに辛い事などへの文句も書いてあったが、それでも元気そうに過ごしていることにシゲは安心

していた。

そして、の話題はサッカーへと変わって行った。

『あたしは京都の中学でサッカー部のマネージャーやっとる。

でな!! 聞いてやシゲ!! あたし関西選抜マネに選ばれてん!! どや! 凄いやろ?』

「…………………………マジ?」

 コレにはシゲも驚きを隠せない。

確かに選抜には、マネージャーがいてもおかしくない…現に都選抜には同じ学校の梓がいる。

「あ〜〜のやつも頑張ったんやな〜〜〜」

 口の端が上がる。自分のことのようで嬉しい。

「良かったな、

 ポツリと呟いて再び手紙を読み始めるシゲ。

その表情が段々に変わってきたのは読み始めてからすぐのことだった。

 

 

『あたしサッカー凄い好きだからめっさ嬉しいねん。

それにさ……。

それに……………。

シゲに会えると思ったから。

シゲの腕前なら選抜なんて軽いもんやろ?

お互いに敵になるけど…でも逢えると思うたら嬉しくてな。

         ………シゲのコト好きだから。

あたし、シゲのコト好きやから。

だから、一瞬でも目が合えばほんまに嬉しいねん。

――手紙でこんなん書くのちょっと卑怯くさい思う。

でも、シゲ…なんも言わんと京都から出て行ってしまうたから。だから、こうでしか伝えられんのや。

でもな、シゲ、しかと聞いとき。

トレセンでおうた時には面と向かって告白したるから。

好きやってきちんと言葉で伝えるから。

だから、応え考えといてや。

…なんか少ししんみしてしもうたな!

まあ、告白の話はトレセンでおうた時にってことで。

はぐらかした答えだったら承知せんからな!

正直な応え期待して待っとるわ!

ほなな、シゲ、あまり無理せんとサッカー頑張りや。                                                     親愛なる友人

 

 

 

 

 

シゲはからの手紙を見ては〜〜っと盛大な溜息をついた。

「……やられた」

 そのままベッドに突っ付してしまう。

「お前からこんな形でコクられるなんて…想いもよらなかったで…

 頬は熱いのに顔がにやけてしまう。

シゲはうつ伏せの体と仰向けにするとにっと笑って見せた。

「トレセンまで待たなくてもええで…」

 なにせ、自分はそっちに行くのだから。

シゲはもう一度ライトブルーの便箋を見た。

「………応えはそん時に言ったるわ」

 でも…

シゲは勢いよくベッドから起き上がると大きく伸びをした。

「ん〜〜〜〜〜〜〜! さてと。レターセットでも買いに行くか」

 手紙を机の上においてシゲは部屋を後にする。

 

 

 

「返事はきちんと書かなあかんしな」

 

 

 

自分も好きだとほのめかす手紙を送ってやろう。

 

 

 

シゲはイタズラ好きな子供の表情を浮かべて町へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、の元に一通の手紙が届いた。

黄色の封筒から出てきた同色の便箋の第一行には、こう書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《親愛なる様へ》

 

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

夢お題095:一通の手紙でした。

エセ関西弁です。ごめんなさい。

anam関西弁で着ないんでス<m(__)m>

シゲ「行きなり95番目かい」

別に何番からはじめてもいいんだからいいじゃん。

それともシゲじゃなくて違う人の方が良かった?

シゲ「…それも困るけどな。でもコレはドリームじゃないで」

…………あはははは。ヤッパソウデスカ?

シゲ「…ま、俺は別にええけどな」

シゲ………(ウルウル)

シゲ「バッシング受けんのお前やし」

………………一瞬でも感動したあたしがバカだったよ。

 

シゲ「、手紙読んだで。答えはきちんと言うから、楽しみにしたってや」

 

2003.2.23

 

 

 

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