潤色の空から、雫が落ちている。
激しすぎず、静か過ぎず。多くも無く少なくも無く。
一定のリズムと量を落としながら、雫は空から落ちている。
は、ぼんやりとその様を見上げていると隣に人の気配を感じた。
特に深い意味は無かった。なんとなく振り返って見ただけだったが、これが良かったのだろう。
視線の先には、大切な友人がたいそう困った顔をして空を見上げていたのだから。
「バッツ」
は友人の名を呼びつつ、近づいていった。
六月の雨
「助かったぜ。ありがとな!」
嬉しそうににかりと笑うバッツを見て、も笑みを返した。
「タイミングが良かったわよねぇ」
「ほんとほんと」
うんうんと、何度も頷くバッツの手には一本のかさ。
桜色の生地に小さな珊瑚色の花が散らばっている、愛らしい傘だ。
「でも、こんな可愛いのをおれに持たせるとか、って酷いよな」
おれ男なんだけど、と笑顔で傘を差し出してきたを思い出しながらぼやくバッツ。
そのときのの無言の笑顔はちょっと怖かったと思っていた彼に、
「あら、私がこれを持ってなきゃバッツは濡れて帰るところだったのよ?」
はさも心外だと言った感じで声を出す。
「それを考えたら、バッツが傘を持つのは当然じゃない? それとも何? 私が持って中腰で歩いて帰りたかった?」
とバッツの身長差を考えると、彼女が傘を持てば必然的にバッツは中腰になる。
中腰で歩く自分を想像して、バッツは首を横に振った。
「いえ、この傘はおれが持つに相応しいものです。なのでこのまま持たせてください様。お願いします」
傘を持ちながらを見て、できる限り深々と頭を下げるバッツ。
「うむ。解ればヨロシイ」
恭しく頭を下げるバッツを見て、偉そうな態度で答え大きく頷く。
そんな動作をして見せて、互いに目を見合わせると、どちらとも無く噴き出した。
「ホントにありがとな。助かった」
「いえいえ、こちらこそ」
ひとつの傘の中、笑いながら肩を並べて歩く姿は、第三者が見たら、恋人のように見えただろう。
実際、彼らを通り過ぎていく人々は仲の良い恋人たちだと思っている者が多かった。
しかし、そんな他人の評価などとバッツにはどこ吹く風だ。
大切な友人であり、仲間である二人はのんびりと一つの傘で歩いていく。
「それにしても、がこういう傘持ってるなんてなー」
傘を見上げながら呟くバッツに対し、は苦笑いを浮かべた。
「ヤッパリ私のキャラじゃないか、とは思ったんだけど。一目惚れしちゃったから思わず買っちゃったのよ」
苦笑いから一変、はにんまりとした表情になる。
「たまにはキャラ崩しも面白いかなって。雨の日しか使えないしね」
笑うの言葉を聴いて、なるほどとバッツは頭の中で答える。
「良いと思うぜ。初め見たときはちょっとビックリしたけど、こういうのもに合ってるよ」
「そう?」
バッツの言葉にがバッツを見ると、彼は大きく頷いた。
「おう。新しいを発見! って感じでなんか得した気分」
「なにそれ」
クスクス。
おかしそうに笑いながらとバッツは雨の中を歩いていく。
雨脚は未だ変わらず、一定のリズムと量を落としている。
「久しぶりだな、こういう雨」
「そうねぇ。昔は六月の雨って言ったらこういうのが普通だったのに」
強くも無く弱くも無く、少なくもなく多くもなく。
いつまでも降っていそうなそんな錯覚に陥らせる。
大地を潤し、川を潤し、夏を導き、後の実りを引き寄せる。
恵みの雨。
「今じゃスコールみたいだもんな。あ、あっちのスコールじゃないぞ」
「解ってるって」
雨の音にかろうじて負けないくらいの声で二人は話す。
「ずっと降ってるのも気が滅入るけど、やっぱり梅雨はこれくらいの方がちょうどいいのよね」
「バーって一度に降っても、意味無いもんな」
「そうそう。溜めるどころか流れていっちゃうわよね」
「鬱陶しいなって思うけど、これでいいんだよな」
二人は目の前に降る雨を見た。
うっすらと、空から降りてくる雨はしっかりと二人の視線に映っていた。
潤色の雲から流れる恵みの雨はしばらく止む事はなさそうだ。
Fin
あとがき
私的夢100のお題13『初夏の出来事』でした。
一応学パラでバッツと一緒に雨の中を帰ってみました。
何気ない会話をしながら雨の中を帰る、それをイメージしたときにバッツが浮かんできました。
一番、のんびりと話ができそうだなと、そう思ったんだと思います(あいまいな)
最近の雨はバーっと夕立みたいに降るのが多くて、昔みたいに長く降ると言うもの見ていないような気がします。
なんにせよ、6月中にアップできて良かった(爆)
2009.6.29