ハイヒールで全力疾走出来る人っていると思う?
ハイヒール
ここは駅前の某有名ファーストフード店。
禁煙席で向かい合うように座っている悟空がキラキラと金の眼を輝かせて静夜を見ていた。
目を輝かせている悟空に静夜はフウと大きな溜息を吐く。
「悟空…なんでそんなに嬉しそうにしてるのか、教えてくれない?」
「だってさ! 静夜スッゲーじゃん!」
即答。
静夜は頭が少し痛いと感じながらもハッキリ言った。
「…スリを伸すなんていつものことだろ?」
呆れたように目の前に置いてある飲み物を口に入れると悟空は首を振る。
「そうじゃなくて! 静夜ハイヒール履いてんのに、いつもと変わらないスピード出してたからさ!」
要はそういうこと。
休日だと言うことで静夜は悟空をつれて駅前まで買い物に来ていた。
いろいろ買うものも買ったと言うことで昼食でもと思いファーストフードに足を運ぼうとしたそのとき、静夜が誰かとぶつかったのだ。
明らかに不自然なぶつかり方に悟空も静夜もすぐにソイツがスリだと察知してソイツを追って走り出した。
ちなみにこの日、静夜はハイヒールを履いていた。
水色のシャツに白のパンツに白のハイヒールを履いていた静夜。
明らかに走ることが不利だと思った悟空が彼女の代わりにスリと捕まえようと決心した瞬間、驚くべきことが起こった。
静夜が走っていたのだ。
ハイヒールを履いているのが嘘のように颯爽と走ってスリを追っていた。
もともと運動神経が良い静夜はすぐにスリを捕まえた。
スリは相手が女性だと思って油断していたのか静夜を殴ろうとしたのだが、相手が悪かった。
静夜はスリの拳を無駄のない動きでかわすと、これまた無駄のない美しい膝蹴りでスリを伸したのだった。
「俺今までハイヒール履いてた女の人見てきたけど、誰も静夜みたいに走ってたヤツ、見たことないもんな!」
金の眼を感動の光で輝かせていた悟空を見て静夜は苦笑した。
「フツーはそうなんだよ。ハイヒールって踵が高い分、結構歩きづらいんだ。前のめりになるせいで歩き方が綺麗じゃなかったりするしな」
「あ〜、それは俺も良く見るから解るけど……あれ? でも静夜全然そんな風にならないよな」
悟空は歩いている静夜の姿を思い浮かべて首をかしげた。
ハイヒールを履く静夜はいつも綺麗に背筋を伸ばしてしゃんと歩いている。
まるでいつも履いているスニーカーのときみたいに。
しかし、静夜自身そんなことは全然気にしていなかったらしく。
「へ? そう?」
と逆に悟空に聞いてくる始末。
目を少し丸める静夜に悟空はハッキリと頷いた。
「うん、ハイヒールでもスニーカーでも全然関係ないって感じで歩いてるぜ」
「ふ〜ん、自分じゃよく解らないからな」
「でも静夜すっげーカッコ良かった!」
再び静夜の勇姿を思い出したのか、悟空は目を輝かせた。
本当にカッコ良かったのだ。
濃紺の長い髪をサラリとなびかせ。
相手の動きを抑え、反撃する一寸の無駄のない動き。
流れるような動作であのスリに膝蹴りを当てたときの美しさ。
ハイヒールを履いていた所為かいつもよりその戦う静夜の姿に華やかさがあったのは決して見間違いではないはずだ。
白いハイヒールが彼女の無駄のない美しさをより引き出していた。
その気になれば、10人中10人は確実に振り向かせることの出来る美しさを持ちながら静夜は別にそんな気がないためか
特別に着飾ることもせずに普通に過ごしている。
だが、その中にもきちんとその美しさが反映されているのを悟空は今日初めて知った。
そして、彼女の強さも改めて思い知らされて悟空はますます静夜が好きになった。
「ハイヒールで全力疾走できるヤツってないと思ってたけど、そうでもないんだな!」
「……………出来る人は少ないと思うけどね」
なんでハイヒールで走れたことでこんなに顔を輝かせることが出来るんだ? と思いつつ、静夜は暫く苦笑いをしながら昼食を食べていた。
Fin
あとがき
bW1:ハイヒールでした。
悟空「なんか凄い話だよな」
イメージとしては某警察官の女王様なんだけど。
悟空「…あの人?」
そう、彼女ハイヒールなのにスッゴク早く走るからスゲ〜って思って…。
悟空「anam、強い女の人好きだもんな」
それはもう!!
強い女の人は大好きです!
悟空「でもこれはあんまりな文章だよな〜〜」
…言わないで。
悟空「しかもパラレルってもう2年くらい……」
………………………すいません!!!!!<(_ _)>
2003.9.2