「ほら、起きて!」
軽快な母の声がしたかと思えば…
ゴロン!
ベッドから転がり起こされた。
今日は日曜日。
空はもうこれ以上ないってくらいに透き通った青。
太陽も機嫌が良いように輝いている。
「こういう日にはいっぱい洗濯しとかないとね!」
凄く嬉しそうに笑いながらそう言う母はどこか子どもみたい。
私が起こされたときにぶってしまった頭を摩っていると母が心配そうに顔を覗き込んだ。
「打ったの? ゴメンね」
申し訳なさそうな表情を浮かべて母は私のぶつけた頭を撫でてくれた。
柔らかくて暖かくて優しい手。
私はそんな母の手が大好きだ。
「………だいじょぶ」
そう言えば母はホッとしたような顔をして私から離れた。
そして服やらシーツやらタオルやらいろいろ洗濯籠の中に入れると洗濯機のほうへと歩いていく。
「よいしょっと」
たくさん入った籠を持ち上げて歩く母の後を私もついて行く。
ガコン!
洗濯物を洗濯機に入れて洗剤を入れてお風呂から水を引く。
ピッピとボタンを押せばお終い。
後は勝手に洗濯機がやってくれる。
「よし」
母はにっこりと笑うと私を抱き上げた。
コツンとおでこが合わさる。
「これから何しようか?」
楽しそうに聞いてくる母。
そんな母を見ていると私も嬉しくなる。
「う〜〜んとね…お話して?」
私が言うと母はコクリと頷いた。
「解りました〜。昨日の絵本最後まで読まずに寝ちゃったもんね」
「ううん、チガウの。ごほんじゃなくて…」
「ご本じゃなくて?」
「………おとうしゃんの話」
私がちょっと恥ずかしげに言うと母は本当に嬉しそうに笑った。
「うん。いいよ。じゃあ今日はね……」
母は私をリビングのソファーに下ろすとその隣に座った。
父の話をする母はとてもいい顔をする。
私は、父のことをあまり知らない。
いつも何処かへと〈試合〉に行ってしまうのだ。
それでも私が生まれてくる前よりはたくさん帰ってくるのだそうだ。
もう少ししたら父もうちへと帰ってくるらしい。
理由は…母のお腹のため。
私は、大きくなっている母のお腹にぴとっと耳をくっつけた。
急な私の行動に母は驚いたようだがすぐに私の頭を撫でてくれた。
「動いてる?」
「うん」
「もう少しでお姉ちゃんになるんだよ」
「おねえちゃん?」
微かに感じる振動から耳を離し、母を見上げればとても穏やかな表情。
「もうじきね、妹か弟が生まれるのよ。そしたら………この子と一緒にいて仲良くしてね」
母は私を撫でるように優しく膨らんだお腹を撫でて私を見て微笑んだ。
私は頷こうと首を縦に振った瞬間…
ピー
洗濯の終わった音がした。
「終わったー」
母が立ち上がる。
ちょっと立ち上がるときい苦しそうになるけどそれでもにこりと微笑む。
「私は洗濯物を干すからちょっと大人しくしててね」
母は私の頭を撫でると洗濯籠を持ってリビングを出て行った。
私はソファーに座って母が来るのを待つ。
少しして母が洗い終わった洗濯物が入った洗濯籠を持って戻ってきた。
座っている私を見て一瞬キョトンとした表情を浮かべたかと思ったらクスクス笑い出していた。
「本当に……にそっくりなんだから」
私だったらこの年のときなんてしっかりソファーになんて座ってなかったのに。
と父の名前を出し笑いながら洗濯物を干しに出て行く。
私には何のことだか解らないけどでも、よくおじいちゃんたちに
「お父さんに似ているね」
って言われるから、多分そういうことなんだと思う。
私は母の後姿をボーっと見ていた。
空は透き通っていて
雲が流れていき
太陽は文句なしに輝いて
洗濯物を干す母が楽しそうに見えた。
色とりどりの服や真っ白なシーツが物干し竿にかかっていく。
風が出てきて干した洗濯物を揺らしす。
どこか、洗濯物も気持ち良さそうだ。
「うん! いい天気!!」
母が太陽に手をかざしながら気持ち良さそうに言っている。
そしてくるりと私の方を振り返った。
とてもあったかい微笑を浮かべて。
「明姫、おいで! とっても気持ちいいよ!」
私の名前を呼ぶ。
私はどうしてだか解らないけど、とても嬉しくなって走って母の元へと走っていった。
風にはためく洗濯物が本当に気持ち良さそうだった。
私も穏やかな風にあたって気持ちよかったから。
「洗濯物も気持ちよさ気だよね」
母が私の手を握りながら聞いてくる。
「うん!」
否定する理由などどこにもないから私もすぐに返事を返す。
パタ…パタ……
洗濯物が風になびく。
「洗濯物日和だよね…本当に」
母が呟く言葉は私には初めて聞くもので。
「おかあしゃん、せんたくものびよりってなあに?」
聞くと母はしゃがんで私と同じ視線になる。
「洗濯物日和って言うのはね……う〜〜〜ん…今日みたいにお洗濯をするのにとってもいいお天気のことを言うんだよ……」
……多分って小声で言った?? お母さん??
私がそういう感じの目で見ていたのだろう母は決まり悪そうに笑うと
「私もあまり良く解らないんだ。お父さんに聞けば解るかも。ごめんね、解ってなくて」
今度はきちんと解ったうえで言うから許してと苦笑する母。
ちょうどそのとき。
リビングの電話が鳴った。
その瞬間母は私を抱き上げると急いで電話へと向かう。
私はお腹の赤ちゃんが心配でならなかったが……どうやら大丈夫なようだ。
そんな私の心配などよそに母は電話の受話器をとった。
「もしもし国光? ………………うん、明姫も元気にしてる。換わろうか? ―――明姫、お父さんから電話だよ」
嬉しそうな母から受話器をくっつけられる。
《………明姫か?》
受話器から聞こえてくるのは久しい父の声。
………緊張してますか? お父さん?
久しぶりの会話に困ってしまったであろうことはすぐに解った。
私も困っているから。
だから、母を話のネタにするのは申し訳ないけどでもきちんとした答えも知りたいから聞いてみることにしよう。
「ねえおとうしゃん……せんたくものびよりってなあに?」
そのとき母のちょっとまずいなって顔の向こうに見えたのは。
青い空
輝く太陽の光
風にはためく白いシーツ
ちょっと解ったかも
洗濯物日和の意味。
Fin
あとがき
64:洗濯物日和です。
Futureから手塚家に出てきていただきました。
しかも第2子はまだお腹の中です。
手塚「優姫の名前が出てきてないぞ」
子どもの……明姫の一人自称だったから…。
手怐uしかも全然お題に合っていない様な気もするんだが」
ほのぼの家族を書きたかったんだけどね……
上手くいきませんな!
手怐u……………」
…………………無言が痛いぜ!
2003.3.8