二月に入り所々で沢山のチョコレートが並べられる。
右を向いても左を向いても前を見ても後ろを見ても、チョコチョコチョコ。
それこそ、普段お目にかかれないような高級なものから可愛らしいリーズナブルなものまで。
それらを見てこう叫ぶ人が一人。
「私が食べたい!」
私と彼女は今バレンタインのチョコ探しの途中であまりの人の多さとチョコの種類に歩き疲れて、一端休憩として近くのファースト
フードの店に入った。
チョコを探しにデパートに行ったはいいのだが、あまりにも高そうでおいしそうなチョコが並んでいるのを見て、こう思いたくなる
のも無理はないと思う。
彼女はドリンクを飲みながら眉間に皺を寄せつつ更に言葉を重ねた。
「あんなにおいしそうなチョコがたくさん並ぶのに何で男にあげなくちゃいけないワケ? むしろあんなに高そうなの!
むしろコッチが食べたいわよ! ああいうの」
理不尽だ、と叫ぶ彼女は大の甘い物好きだから。
「だいたい3粒で一万円ってどういうこと? 何でチョコ一つであんなに高いのかしら? ってかむしろそれを男にやらなくちゃいけ
ないって言うのが腹立つわ」
「じゃあ自分用に買えば良いじゃない」
と私が言うと彼女は嫌そうな顔をして頬杖を付き私を見た。
「自分用にねぇ…確かに考えたんだけどさ、別に自分が食べるためにあんな派手綺麗な包装紙いらないじゃん。
かといって包装紙いりません、なんて言ったらさぁ…」
「バレンタインに男がいない可哀相な女?」
「私は別にいいんだけど、でも何にも知らないヤツにそう見られるってのもなんかイヤなんだもん」
私と彼女は付き合って三年になる恋人がいる。
今日は彼のためにチョコを探しに来たんだけど…。
周りの高級チョコを見てそれを食べられない理不尽さにキレたらしい彼女。
じゃあ彼に分けて貰えばいいじゃない、って言いたいんだけどでも言ったら言ったできっと
「そんなんじゃ足りない」
とか言い出しそうなのでやめておく。
私と彼女の間に沈黙が下りる。
二分たったかな、と思ったその瞬間、彼女はおもむろに立ち上がり店を出た。
私は一瞬呆気に取られたんだけどすぐに彼女の後を追った。
「どうしたの?」
私が息を切らしながら聞くと、彼女はニヤリと笑った。
「デパ地下に行って安い板チョコ買おうと思って」
「板チョコ…?」
私が眼を丸めると彼女ははっきりと頷いた。
「何も自分が我慢しておいしいチョコを買ってあげなくてもいいんじゃないかって思ってさ。それだったら板チョコ買って溶かして
別の形にしてあげりゃいいなって、そう思ったの」
それなら手間と時間はかかるけどお金はかからないし、彼だけに美味しい思いをさせることもないでしょ?
とにこやかに笑い出した彼女を見て私もクスクスと笑いだした。
「でもそんな簡単なものこそ、彼が一番喜びそうな気がするけどね」
何せ彼女は料理全般が得意だ。
きっとどこの店よりも美味しくて愛が詰まったチョコが出来るだろう。
私が言った言葉に彼女は眼を丸め、もう一度ニヤリと笑った。
「男って単純だしね。わざわざいちいち高いの買わなくったって、愛があればいいのよ、愛があれば」
「確かにね」
私たちは顔を見合わせクスクスと笑い合うと高級チョコを横目で流して地下の食品売り場へと足を運んでいった。
手間暇はかかるけど、単純で、安くて。
でも、愛する人には最高に喜んでもらえるチョコを手にするために。
Fin
あとがき
バレンタインです。
またしても企画が死んだので(爆)せっかくお題にバレンタインがあるのでやってみました。
44《バレンタイン》です。
って全然バレンタインじゃないですが(笑)
こうバレンタイン近くになるといろんなところでチョコ売るじゃないですか。
しかも凄く高級そうなチョコがずらり。
私はこの横を通るたびに思いましたさ。
「私が食べたい!」
と(笑)
そんな思いをぶつけてみましたが、どうでしょうか?(どうでしょうかって?←セルフ突っ込み)
こんなもんが食べられる男っていいよなぁ。
(何せホワイトデーはマシュマロとかキャンディでしょ? こっちの方が全然手ごろだと思うのは私の錯覚ですか?)
なら男にこんないい思いさせるわけにはいかないぜ、って事で板チョコ使って溶かして作るチョコをプレゼントってことでこの話です。
高い市販のチョコと安く作れる手作りチョコ(この場合は変に色々混ぜないで美味しく作った場合です)。
どっちの方が世の男は喜ぶんでしょうかね?
気になるところです。
2005.2.14