タロットの最後のカード。

それは……

 

 

 

The World

 

 

騒がしい教室の一角がどこか違う雰囲気になったのに気付いた人間は、果たしてどれくらいいたのだろうか?

喧騒の全く聞こえない、荘厳な空気は彼女の占いが始まった証拠。

すっと彼女が一枚のカードを引く。

すると、今までのあのピリピリとした雰囲気は一気に消え去り、彼女の周りに纏っていた空気も普段の教室へと戻っていく。

引いたカードを見て彼女は黒い眼を見開いたが、すぐに薄く綺麗に笑った。

と、同時に、

「かずちゃん!」

  肩に圧し掛かる重みはいつもの馴染みあるもの。

一紗は引いたカードを机に置き抱き付いて来た同じ顔をした妹を見る。

「悠雅…」

「遊びに来たら、なんか占い中だったから終わるまで待ってたんだ」

 首に回していた腕を離すと悠雅はニコッと無邪気に笑った。

一紗も悠雅に釣られて笑うとあたりを見渡した。

「遊戯君たち…」

「あ〜遊戯んたち、占いの邪魔しちゃイケナイよなってことであそこにいるよ」

 一紗の言いたいことが解って悠雅がある方向を指す。

指し示した方向には、いつものメンバーが楽しく笑い合って話していた。

遊戯、杏子、城之内、本田、獏良、御伽。

そして、珍しく表に出ている〈遊戯〉。

「勢揃いね」

「海馬っちがいればカンペキ」

「それは無理よ。海馬君、仕事で忙しいもの」

 クスクス笑う悠雅と一紗に気付いたのか遊戯たちが一紗の元へと近寄ってきた。

「占い終わった?」

 遊戯が聞いてくると一紗は頷く。

「ええ。ごめんなさい、気を遣わせたみたいで」

「別に良いよ。占いって結構気を張るものだって聞いたことあるし」

 バツが悪そうに薄く笑う一紗に遊戯はニコッと笑って首を振った。

遊戯の言葉を聞いて一紗はホッとしたように笑う。

「で、今回は何を占ったんだよ?」

 ヒョイっと一紗の方へ体を傾けてきた城之内が聞いてきた。

一紗が城之内を見たとき獏良が声をかけた。

「一紗ちゃん、これって…」

 机に置いてあったカードを見つけた獏良に一同は一斉に獏良の方へと向き、彼の視線を追った。

 

 

 

そこには大アルカナ…すなわちタロットのカードが一枚置いてあった。

 

 

 

一紗も仲間の視線を追ってカードを見るとああ、と呟いた。

「これがさっきの占いで出たカードなの」

「女の人が中心にいるのね」

 一紗の占いの結果で出たカードを見て杏子がカードを覗き込むように言った。

「これ、何のカードなの?」

 カードを見ながら言う杏子に向かって一紗はハッキリした口調で告げた。

 

 

 

 

「The World ………世界よ」

 

 

 

一紗はカードを手に取ると説明し始めた。

「《世界》のカードは大アルカナ22枚の最後のカードで意味は『物事の完成』。大アルカナの中で一番良いカードなの。

元々プラスの力が強いから逆位置でも、そんなに悪い意味にはならないわ」

「だからさっきカードを見たとき笑ってたんだね」

 悠雅が先程の笑みを思い出したのか一紗に聞いてくると彼女は頷いた。

「ちょっと心配事を占ってたから…このカードが出てちょっと安心したの」

「で、何を占ってたんだよ?」

 城之内が興味津々に聞いてくると一紗は一瞬驚いたように目を丸めて、首を横に振った。

「ホントにちょっとしたことだから」

「でも、一紗の占いって良く中るって良くし、そんなに頻繁にやってねぇだろ?」

 つまり、それほど占いをしたくなるほど気になることだということで。

いつも物静かな一紗の気になることが気になるのは当然のことか。

期待に眼を輝かせる城之内に一紗は本気で困り始めてしまう。

「城之内君。いくら興味のあることだとは言っても一紗ちゃんを困らせるのは良くないよ」

 困ってしまった一紗を見て城之内をたしなめるのは御伽。

「そうだぜ、城之内。一紗だって言いたくない事だってあるんだしよ」

 本田も御伽に加戦すれば城之内はムッと二人に向き直る。

「なんだよ、二人して」

「まあまあ」

 どこか険悪な雰囲気になりそうだったのを止めるのは遊戯。

遊戯は城之内たちを見てニコッと笑う。

「一紗ちゃんがちょっとしたことって言うんだから、そんなに心配することじゃないと思うよ」

「それに占いが良い結果なら、やっぱり言わないほうが良いと思うしね」

 遊戯の言葉に付け加えるように言ったのは獏良だった。

獏良は困ってしまっている一紗を見てにっこりと笑った。

「悪い結果なら言ってしまうのも良いけど、いい結果なら言わないほうが叶いそうな気がしない?」

「獏良君…」

 獏良の人を安心させる笑顔を見て一紗は困っていた表情を消すと、頷いた。

表情を変えた一紗を見て城之内は決まり悪そうに頭を掻いた。

どうやら、自分の発言でどれだけ一紗を困らせていたのか解ったらしい。

「あ〜、一紗…悪かった」

 一紗に向き直り謝る城之内に一紗は首を振る。

「ううん。私の方こそ、教えなくてごめんなさい」

「いや、お前は悪くねぇよ。うん」

城之内がうんうんと頷くと一紗はすっと笑う。

「ありがとう」

 一紗が言葉を放った丁度その瞬間、始業のチャイムが鳴った。

その音に慌てたのは悠雅だ。

「うげっ! もう授業はじまんの!? 僕もう行かなくちゃ! それじゃあね!! またあとで!!」

「またあとでね!」

 杏子の声に手を振って応えながら悠雅は自分の教室へと戻って行った。

そして、他のメンバーたちも教師が来る前に自分の席へと戻っていく。

遊戯の後ろを歩いていた〈遊戯〉が一紗の方を向いた。

一紗は大丈夫だと答えるように笑顔を浮かべた。

〈遊戯〉は一紗の笑顔を見て安堵の表情を浮かべて消えていった。

心の部屋にでも戻ったのだろう。

「ありがとう、〈遊戯〉」

 心配してくれた〈遊戯〉に向かって一紗は小さく呟くと引き当てた《世界》のタロットを見た。

 

 

 

この先遊戯君と〈遊戯〉…それに皆に起こることの吉凶を占っていたなんて…言えないわよね。

言ったら言ったで心配するに決まっているのだから。

占った自分のことを。

彼らはそんな人たちだから。

 

「占いの結果は…《世界》の正位置…。完成、達成…最高の幸せ」

 

 

だから大丈夫だ。

これから先、彼らに何かが起こってもきっと上手くいく。

もし上手くいかなくても、彼らならきっと導くだろう。

 

 

 

 

The World……世界のカードが示した場所へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

bQ6:The Worldでした。

ゲームネタにしようかな〜とか思ってたんだけど…タロットカードに《世界》って言うタロットがあったことを知って…やってみました。

遊戯「でも、管理人、タロットカードのこと良く知らないんでしょ?」

はい、もう全く全然。

〈遊戯〉「………そんなんでよくこんなものが書けたな」

Webを漁りました…なのでanamはタロットの占い方も知らないし…タロットの正確な読み方も出来ません。

もし間違ってたら、申し訳ございません。

遊戯「……仕方ないかな?」

〈遊戯〉「ああ、仕方ないぜ。なんたってこの管理人だからな」

……………アンタ達ってホント言うこと痛いよね。

 

 

2003.9.3

 

 

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