ふと机の上を見たら、なにやら赤い箱。
それは、彼が吸っている煙草の箱だった。
部屋の主に用事があったのだがあいにく留守らしい。
「ッたく何処にいるんだか」
八戒が呼んで来てくれと言ったから来たと言うのに。
静夜は三蔵が来るまで待とうと、傍にあったテーブルの椅子に腰掛ける。
何の気なしもなく部屋を見渡していると視界に赤い箱が視界に映った。
ゆるりと首を赤い箱に向ければ、
「なんだ、マルボロか」
三蔵が愛用している煙草があった。
赤と白の背景に、黒の文字。
何も考えずに静夜はその箱を取ろうと手を伸ばした瞬間。
「それにはもう入ってねぇぞ」
部屋の主の登場だ。
静夜はそちらを見ずにそのまま手を伸ばし箱を掴んだ。
そのまま手を引き寄せると箱を見る。
「別に吸おうとか思って取ろうとした訳じゃないから」
箱をも弄びながら言う静夜の耳に溜息が聞こえた。
ようやく静夜が顔を後ろに向ければそこには眉間に皺を寄せた、三蔵の姿があった。
彼はそのまま静夜を咎めるでもなく静かに歩き出し彼女と向かいの椅子に座った。
その手には、赤い箱。
「買いに行ってた?」
部屋にいなかった理由を聞けば、彼は頷いた。
「ああ」
「鍵くらい掛けとけよ」
呆れて言えば三蔵は何も言わずに買ってきた真新しいマルボロの封を切り煙草を取り出した。
煙草を唇に挟んでライターで火をつける。
小さく、紙が焼ける匂いがした。
「他の誰かが入ってくるかも知れねぇのにイチイチ鍵なんか掛けられるか、めんどくせえ」
「夜は掛けとけ」
今度は静夜が溜息を吐いた。
その手には煙草が入っていない箱が転がっている。
三蔵は転がされている箱を見ながら煙草を吸い、吐き出す。
「で」
「ん?」
転がすことに夢中になっていたのか、三蔵が声を掛けると静夜は呆けた声を返した。
「なんか用か?」
箱を転がすことに夢中になる少女とは言えない女。
どこかも子供っぽいしぐさに頭痛を覚えつつ聞けば、静夜は頷く。
「ああ。八戒がなんか呼んで来てくれって言うから来たんだよ。そしたら三蔵いないしさ、待ってた」
そしたら視界に煙草が切れた箱を見つけて、手に取ったということだ。
「八戒は?」
「自分の部屋にいるよ」
「そうか」
別に慌てることもなく三蔵はジリジリと燃えている煙草をもう一度吸う。
静夜も何も言わずに箱を弄っている。
沈黙が流れていく。
沈黙を破ったのは三蔵だった。
「静夜」
「なに」
呆けることなく答える静夜に三蔵は煙草を手元にあった灰皿に押し付けながら聞いてきた。
「お前は煙草、吸わないんだな」
ころり。
箱を動かす手が止まった。
静夜が三蔵を見ると彼は静夜を見ていた。
彼女は薄く笑って見せるともう一度手を動かし始めた。
「別に煙草を吸わなくても男のナリは出来たしな」
ころり。
「それに体に悪いし」
ころり。
「そういう三蔵だって坊主のクセして煙草吸ってるじゃんか」
ころ…。
静夜は煙草の箱を止めてにっと笑い三蔵を見た。
三蔵はからかっているような表情の静夜を無視して新しい煙草を取り出し、火を点ける。
「俺の勝手だろ?」
「じゃあ、煙草吸わないのもあたしの勝手じゃない?」
にっと笑ったままの表情で言えば三蔵はフウと煙を吐き出す。
「…そうだな」
「そうそう」
静夜は手にしてあった箱を見て、もう一度転がし始めた。
ころり、ころり。
「…何時までやってんだ?」
呆れて言えば静夜はアッサリと答える。
「三蔵が八戒のとこ行くまで」
「テメェ、それまでここにいるつもりだろ?」
嫌そうに睨む三蔵を楽しそうに静夜は見て、笑った。
「あったりまえじゃん」
遊ぶためのものではない赤と白の箱は、彼女にとっては格好のおもちゃとなるみたいで。
ころりと転がされている無残なマルボロの箱とそれで遊ぶ青い髪のはねっかえりを見やりながら三蔵はもう一本吸ったら行くかと思っていた。
煙草を吸う男と、その空き箱を転がす女。
どこか、のんびりとした空気が漂っていた。
Fin
あとがき
小説書きさんに100のお題 004:マルボロでした。
三蔵「なんなんだこれは?」
マルボロの話?
静夜と三蔵のほのぼのが書きたかったのか?
静夜が三蔵の部屋のマルボロ発見!って言うのを思いえがいて…それを元に書いてったらこれが出来て…。
どうよ?
三蔵「メテェで書いたものが俺に解るわけないだろ」(怒)
ギャー! 銃はやめて銃は!!
三蔵「相変わらずこんな駄文書きやがって!!!」
ぶわーーーーーーーーーー!!!(銃殺)
2003.7.22