真っ白な紙に、自分を好きな色を描いて。

白い世界に表れるのは、だーれ?

 

 

 

クレヨン

 

 

久方ぶりに観音の城を訪れた太真は金蝉の部屋を見て目を丸めた。

いないのだ。

美しい金晴眼<きん>を持つ幼子が。

「金蝉様?」

 仕事中にいけないと思いつつ太真は机の上で判を押している金蝉に声をかけた。

金蝉は太真の言いたいことが解ったのか、判を押しながら口を開く。

「隣だ」

「……えっ?」

 返ってきた言葉に太真はますます空の目を丸める。

隣の部屋に悟空がいると言ったのか?

静かな、あの部屋に?

いつもは元気な(騒がしいの間違いだろ?by捲廉)悟空が大人しいなどど驚いた太真は首を傾げたが金蝉が嘘を言うとも思えずに彼女は頷いた。

「解りました。それじゃあ、お邪魔いたします」

 すっと頭を下げて金蝉の部屋に入ると仕事の邪魔をしないためだろう素早く隣の部屋に入っていった。

女神の気遣いに、ふっと金蝉は口元を緩めた。

 

 

真っ白な紙と

いろいろな色で埋め尽くされた紙

 

足の踏み場もないくらいに2つの紙で床が埋め尽くされていた。

あまりの状況に太真がまたしても目を丸めていると。

「太姉ちゃん!!」

 ギュッと腰に抱きついてきた暖かい者。

「いらっしゃい!」

 顔を上げれば金の眼と眩しい笑顔。

太真は抱きついて来た幼子を見てふわりと笑う。

「こんにちは、悟空。お邪魔しますわね」

「おう!」

 柔らかい微笑みに悟空が満足そうに頷くと太真の腰から離れある物を握ると白い紙に何かを書き始めた。

悟空の手に握られた物、太真にも見覚えのあるもので。

「悟空。そのクレヨン、どうしたのですか?」

「えっ? ああ、これ」

 絵を描くことに夢中になっていた悟空は太真の問いに一瞬遅れたがすぐさま頷き、とても嬉しそうに笑う。

「天ちゃんが持ってきてくれたんだ。絵を描く道具だって」

「天蓬様が?」

「うん!」

 にっこりと本当に嬉しそうに頷く悟空。

太真も足元に気をつけながら悟空の傍に近付くと寝転がって絵を描く悟空の手元にある箱を見た。

十二色の色とりどりのクレヨン。

貰ってまだ早いだろうに半分以上減っているクレヨンもあって太真はくすっと笑った。

「……? なに、太姉ちゃん?」

 笑った太真に気付いて悟空が紙から顔を離す。

不思議そうに顔を見上げる悟空に太真は首を振る。

「いいえ。悟空は絵を描くのがお好きなんだなと思って…」

「うん! 俺、絵描くの大好きだよ!」

 楽しそうに笑って悟空は言うと今まで描いていたものを太真に見せた。

絵には五人の人らしきものが描かれていて。

黒い長髪の人。

青い髪の人。

茶色の髪の小さい人。

金の長い髪の人

黒い短い髪の人。

太真はそれが何の絵か理解した。

「とても上手に描けてますわ」

 ふわっと微笑みながら太真は悟空の頭を撫でる。

「ほんと?!」

「ええ」

 悟空の目がキラキラ輝いている。

褒められたのが嬉しいのだろう。

太真はもう一度絵を見る。

「こちらが天蓬様」

 黒い長髪の人は笑っていて。

「これがわたくし」

青い髪の人は微笑んでいる。

「この方が金蝉様」

金の長い髪の人は笑ってはいないが、嫌がってもなさそうだ。

「そして、捲廉様ですわね」

黒い短い髪の人も楽しそうに笑っている。

「これが悟空ですわね」

中央にいる茶色の髪の小さい人は弾けんばかりの笑顔。

 

皆が、穏やか表情をしている。

手を繋いで、とても楽しそうに。

 

太真はクレヨンで描かれた絵を見てもう一度微笑む。

「悟空は絵の才能がありますわよ」

「マジ!!」

「ええ」

「じゃあ、今度は太姉ちゃんを描いてあげる!」

「はい、楽しみにしていますわ」

「おう!」

 悟空は嬉しさで飛び跳ねんくらいに喜んだ。

太真は喜ぶ悟空を見て、もう一度絵を見た。

 

 

 

色とりどりのクレヨンで描かれた自分たち。

白い紙に描かれた色はきっと褪せることはないだろう。

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

文字書きさんに100のお題1:クレヨン。

これ見た瞬間からチビ悟空で書こうと思ってたんだけどなかなか上手い話が決まらず。

ショートストーリーで頑張ってみた。

悟空「まあ、100のお題は短いのでやっていくのがコツだって聞いたことあるし」

うん、あまり意味不明にならんように、しかし想像を膨らませるようなものを書きたいよね」

悟空「………無理だろ?」

………ハッキリ言うでないよ!

 

 

2003.10.29

 

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