友として

 

 

 

 モニターから今も果敢に一人で実況しているMCの声が聞こえる中、二台のD-ホイールがプラズマによって破壊されているシティを走る。

 先頭を走るのは、赤いD-ホイール。

 そしてその後を追うように走るのは、白く巨大なD-ホイールである。

 二台は街を駆け抜けていく。

 あのまま行けば旧BADエリアに行きつくことだろう。

 ジャックはそれを理解し、目を閉じる。

 そして目を開けたと同時に、口を開いた。

「深影」

「はい!」

 ジャックの呼ぶ声に、深影は反射的に答えながらも身構えた。

 断固たる決意を持って放たれた声。

 この声を出すときのジャックは必ず無理をしでかす。

 深影の不安をよそにジャックは彼女を見ると、こう言い放った。

「ホイール・オブ・フォーチュンの整備を手配しろ。出る」

「アトラス様!」

 ジャックの言葉を深影の悲鳴に近い声にその場にいた者全員が一斉にジャックを見た。

「ジャック! 何考えてるの!?」

「そんな体で行くなんて無茶よ!」

 カーリーが身を乗り出すようにジャックへと一歩前に出るとステファニーもカーリーの言葉に両手を握り合わせて何度も頷く。

 しかし、ジャックは何も言わずに深影をただ見つめている。

「おいジャック、流石にそれは…」

 牛尾もまた困惑したようにジャックを諌めようとしたそのとき。

「深影さん」

 遮るような意思の強い声が、もう一つ。

 名前を呼ばれた深影が嫌な予感を感じつつそちらを見ると、クロウが片目を瞑り片手で拝むように手を上げて、にへらと笑った。

「わりぃ。ブラック・バードも頼めるかな?」

 緩い笑顔を浮かべるクロウもまた、ジャック同様に強い意思を湛えた瞳を見せていた。

「クロウ! お前まで!!」

 牛尾の声が部屋中に響き渡る。

 しかし、クロウもジャックも目を逸らさない。

 目を細めて牛尾は問いかける。

「あの場所に行くって事は、どう言う事になるか解ってて言ってんのか?」

「当たり前だ」

 ジャックが鋭く返す。

 機皇帝の影響で、衝撃は全て実態のものと化し、自らの体を蝕む。

 傷ついた体でD-ホイールに乗り、もし機皇帝の攻撃を受けてしまったら、無事では済まされない。

「例えこの身が灰になろうとも、オレたちは行かなくてはならんのだ」

「そうだ」

 クロウがジャックの意思に応える様に頷く。

「アイツに…遊星に全部押し付けて、ジッとなんてしてられねぇんだよ」

 ジャックが、クロウが、静かにモニターを見つめる。

 走る赤いD-ホイール。

 向かう先は旧BADエリア。

 そこにあるものを思い出し、クロウはかすかに目を細めた。

 まるで引き寄せられるかのように全てがあそこに向かう。

 全ての因果があそこにあるかのように。

 ジャックおそらくも同じ事を考えている筈だ。

「遊星…あいつはなんでも一人で背負い込むヤツだ」

 ジャックが静かに声を出す。

 彼もまた深影から目を離しモニターに映る赤いD-ホイールを見つめていた。

「誰かのために、何かのために。あいつは全部一人で抱え込む」

 見ている者が痛々しく思えるほどに全てを、一人で。

「オレたちはアイツの抱えてるモノを一緒に背負ってやりてぇんだ」

 そこまで言うと、二人は互いに顔を合わせて頷いた。

 

「友として」

「ダチとして」

 沈黙が降り注ぐ。

 ジャックとクロウの目の輝きはいっそう強まるように見えるのは間違いではないのだろう。

 深影は目を閉じた。

 しばらく目を閉じて考えた後、答えが出たのか目を開いて、頷いた。

「解りました。牛尾くん、行くわよ」

「深影さん!?」

 深影の答えに牛尾は目を剥く。

 ここで止めるべき人が行ってこいと言ったのだ。無理もない。

 牛尾の引き止めるような声に、深影は苦笑を浮かべてこたえた。

「こうなったらこの二人が止まらないの、牛尾くんも知ってるしょう? それに他の部署に色々指示しなくちゃいけないし。私たちもここでジッとしているわけにはいかないのよ」

 苦笑を浮かべているが、彼女もついに覚悟を決めたのか目に一切の迷いはない。

 それを見て、牛尾は困ったもんだと言った様子で頭を盛大に掻くと、最後に大きな溜息を吐いた。

「まったく。しょうがねぇな」

 牛尾はクロウとジャックを見る。

 そして、モニターに映る今も闘うD-ホイーラーの姿を。

「結局また、こいつらに頼るしかねえってのか」

 苦々しげに呟き、拳をきつく握り締める。

 街の命運も世界の未来も、ずべてまだ若い彼らに懸かっている。

 それがどうしようもなく悔しい。

 しかし、自分には自分にしか出来ないことがある。

 牛尾は拳を解くと、深影に向かって頷いた。

「解りました。急ぎましょう」

 頷く牛尾を見て、深影は足早に部屋を出る。

 牛尾もそれに続くように部屋を出ていった。

 二人を見送りつつ、カーリーは再びジャックに問いかける。

「ジャック、ホントに行くの?」

 真っ直ぐに、ジャックの目を見るカーリー。

 ジャックはただ無言でカーリーの視線を受け止めた。

 揺るがない目。なにもかもを覚悟してそれでも行くと決めた目。

 いや、これは…。

「―――もう、ホントにしょうがないんだから」

 カーリーは思わず呆れて苦笑を浮かべた。

 ジャックは今、ここにはいない。

 確かに彼はここにいる。しかし心が。

 心がすでに遊星の元へと走り出していた。

 クロウもジャック同様に走り出しているのだろう。

 おそらく誰が止めようとしても、きっと体も止まらずに遊星の元へと走り出す。

 深影もそれが解ったからこそ、整備の手配をする事に決めたに違いない。

 せめて、無事に帰ってこれる確立が上がるようにと。

 苦笑を浮かべたカーリーを見てジャックも小さく目を緩める。

 その表情を見てカーリーはステファニーの手を引いて部屋を出るべく歩き始めた。

「さ! 私たちも行くわよー」

「え!? ちょ! ええー!?」

 半ば引きづられる形でステファニーとカーリーが部屋を出て行く。

 残ったのはジャックとクロウの二人だけだ。

 二人は再び顔を見合わせる。

「後悔はしないな?」

「誰に言ってんだよ」

「それもそうだ」

 にやり。

 二人は笑い、ベッドから立ち上がった。

 

 

 ヘルメットを被り、エンジンをふかせる。

 エンジン音は二台分。

 ホイール・オブ・フォーチュンとブラック・バード。

「それじゃあ、行ってくるぜ」

「住民の避難は頼んだぞ」

 それだけ言ってジャックとクロウは走り始めていた。

 見送る4人の視線を背にして。

「気を付けて」

 その言葉は、友のために走って行った二人へか、それとも今も闘っている決闘者へのものか。

 答えられる者は、誰もいなかった。

 

 

Fin

 

 

 

 

 

Back

 


あとがき

136話の遊星のデュエルに颯爽とやってきてくれたジャックとクロウに思いっきり感動して勢いで書いた品。

二人が遊星の元へ行くとき絶対狭霧さんたちとひと悶着あったはずだと思う。

二人とも体ボロボロだし、絶対に止めるんだけどでも二人の決意が固くて折れてくれたんじゃないかなぁ。

 

 

サイト掲載日:2010.12.1

作成日:2010.11.25

 

 

そういえば。

感想とか小話とかブログで書いてたりしたけど、完全新作って二年ぶりだ。

しかも、それがオリキャラの彗雫がいない話か…。

こう言うのも良いよね!