初詣

 

 

「あけましておめでとー!」

 ポッポハウスの扉が勢いよく開いたと同時に響いてきた元気な声に、遊星たちは顔を上げる。

 そして、各々表情を緩めた。

 彼らの視界に映るのは、大切な仲間たち。

「もう、龍亞ったら、もう少し大人しくできないの?」

「なんだよー、龍可だってはしゃいでたくせに〜!」

「ほらほら、そんなにはしゃいでると足取られて転ぶわよ」

「彗雫の言う通りよ。危ないから大人しくしてなさい」

 階段を下りる間に繰り広げられる会話に遊星たちの表情はますます緩くなる。

 四人は遊星たちの元まで来ると、

「明けましておめでとう」

「今年もよろしく!!」

「明けましておめでとう、今年もよろしく」

「よろしくね」

 龍可、龍亞、アキ、彗雫がもう一度声をかけた。

「ああ。おめでとう」

「今年もよろしくな」

「おめでとう!」

「おめでとう、今年もよろしく頼む」

 ジャック、クロウ、ブルーノ、遊星の順番で声をかけ終えると、ブルーノがにこにこと笑顔を浮かべたまま目の前にいる仲間の姿を見て口を開いた。

「みんな、良く似合ってるね!」

 ハウスにやってきた四人はいつもの出で立ちとは違っていた。

 龍亞は袴を、残りの女性三人は美しい着物を着ていたのだ。

 防寒対策か女性陣の首には暖かそうなもこっとしたファーが巻かれて、龍亞も暖かそうな上着を羽織っている。

 偽りのない笑顔のブルーノに似合っていると言われて、女性陣は顔を見合わせると嬉しそうにはにかんだ。

 ひとしきり喜びを噛み締めた後、アキが遊星たちを見て問いかけてきた。

「これから初詣に行こうと思うんだけど、一緒にいかない?」

 アキの言葉に遊星たちは顔を見合わせる。

「初詣か」

「せっかくだし、いいんじゃないかな?」

 呟く遊星におっとりとした口調でブルーノが笑うその隣でクロウは頷いた。

「だな、遊星とブルーノは息抜きにいいんじゃね?」

「せっかくの誘いだ。断る理由もない」

 ジャックの言葉に遊星がチラリと彼を見る。

 他の仲間の期待に満ちた目。着替えているアキたち。

 遊星は笑った。

「行くか」

 もとより断るつもりが無かったのは遊星含め、皆解っていた。

 それでも嬉しいものは嬉しい。

 全員、顔を見合わせて、一斉に笑みを浮かべた。

 

 ハウスから少し離れた場所にある小さな神社。

 そこに着いたとき、目の前の光景に遊星は息を吐くように言葉を放った。

「これは、すごいな…」

 目前に広がるのは人の後ろ姿。

 遊星の隣に立った彗雫もまた目の前の光景を見てやっぱりと溜息を吐いた。

「あー、やっぱりここもかぁ。普段あんまり人が来なくて静かだから、そんなに人がいないと思ってたんだけど…」

 普段はあまり人がいない神社を選んだが日が日なので混んでいる。

「考えることはみんな同じってことね」

「失敗したなぁ」

 人の多さに圧倒されるアキの呟きに、困ったように彗雫も呟く。

 さてどうしようかと思った時。

「でもせっかくここまで来たんだから行こうよ!」

「そうだ。ここまで来て引き下がるわけにはいかん」

 龍亞が先頭に立つ遊星と彗雫の前に飛び出してグッと両手に拳を作り、ジャックも龍亞の言葉に大きく頷いた。

「そうね、せっかくここまで来たんだし」

「行くしかねぇよな!」

 アキとクロウが顔を見合わせて頷く

 どうやらこのまま進む事に異論はないようだ。

 それならば、この混雑の中を進むために準備をしなくてはならない。

「龍可、はぐれないように私と手を繋ぎましょう」

「はい!」

 アキの申し出に龍可が喜んでアキの手を握る。

「えー、オレとじゃないのかよ龍可ー」

 その姿を見て龍亞が不満げな声を出す。

 プクッと頬を膨らませる龍亞の頭にぽんと誰かの手が乗る。

 龍亞が上を見上げると彗雫が苦笑を浮かべて龍亞を見ていた。

「小さい子二人で繋いでも迷子になるでしょう? 前に手を繋いだまま二人して迷子になったの忘れたの?」

「うっ…」

 どうやら過去に手を繋いで龍可と龍亞、二人とも迷子になった事があるらしい。

 ぐっと息を詰める龍亞に彗雫は龍亞の頭を撫でていた手を差し出す。

「あたしと一緒じゃ、嫌?」

「そんなことないよ!」

 困った風に笑う彗雫に龍亞は勢いよく首を横に振ると手を繋いだ。

 その光景を見て遊星たちはゆっくりと歩き出す。

 自然と遊星とジャックが前に、その後ろにアキと龍可。

 彗雫と龍亞の順番になり、最後をクロウとブルーノと言う順番になった。

「遊星とジャックはなにをお願いするの?」

 人の波にゆっくりと流される様に歩きながら、龍亞が声を上げる。

 遊星は龍亞の言葉に目を丸めて、顎に手を当てた。

「考えてなかったな」

「WRGPに優勝するぞ、とかじゃないの?」

「それは自らの手で必ず成し遂げるものだ、わざわざ神頼みするものでもない」

 遊星の代わりにジャックが答える。

 遊星も異論がないようで首を縦に振って龍亞に答えた。

「オレは商売繁盛でも頼もうかな」

 ポケットに手を入れながら歩くクロウが言う。

「龍亞は?」

 龍亞の方へと顔を向けてアキが聞くと、龍亞は繋がれていない方の手で拳を作る。

「オレはデュエルがもっと強くなりますように!!」

「龍亞らしいわね」

 目を輝かせて宣言する龍亞を見てアキは微笑んだ。

 ゆっくりと境内が近くなってくる。

「龍可は何をお願いするか決まった?」

 人の波でバランスを崩されないようにさりげなく龍可を庇いながら、彗雫がにこりと問いかけると龍可はふるふると首を横に振る。

「まだ決まってないの。やっぱり何か考えなきゃダメかな?」

「良いんじゃない。決まってなかったら今年もよろしくお願いしますとか、挨拶みたいなものでも」

「そっか。そうね」

 あんまり気難しく考えなくても良いのだと言われた気がして、龍可も彗雫に釣られて笑顔を浮かべた。

「ボクは今年もD-ホイールにたくさん触れれば良いなぁ」

「ブルーノは本当にD-ホイール好きよね」

「まあね」

 そのとき、ようやく遊星たちの前に境内が現れた。

 少し広くなっている境内に遊星たちは横に一列に並ぶと礼をし手を合わせて目を瞑る。

 いろいろと願うことはあるが、それでも心の奥で思う事は皆同じだった。

 

 

今年も、この素晴らしき仲間たちと共に過ごせますように。

 

 

Happy New Year!

 

 

 

 

 

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あとがき

着物を着た龍亞たちがポッポハウスにやってきて初詣行こうぜ! と言う話。

特に深い意味はない(おい)

女性陣が来ていた着物を描写しようかと思ったんだが、着物の描写難しいと思って投げた(爆)

個人的に、アキは紅赤で。龍可が桃色。彗雫が萌黄色かなぁとか思ったり。

龍亞は緑が入った黒です。

ちなみに下地の色(下地ッつって良いのか解らんが)柄まで思いつかなかったんだorz

ハウス組はお金がないので普段着(笑)

もし着るとして、遊星は濃い青。ジャックは白。クロウは黒で、ブルーノは茶系の羽織袴かなぁ。

 

三が日過ぎてしまいましたが、今年もよろしくお願いします。

 

2011/01/04