星に願いをかけましょう
ずっとこの幸せが続くように
「ところで、太真、こんなところにいていいんですか?」
「え?」
天蓬の部屋でくつろいでいた太真は天蓬の台詞に首をかしげた。
隣で本を読んでいた悟空も首をかしげる。
忘れたんですか、と呆れた天蓬の言葉に太真は思い出したかのように目を見開いた。
「あ!! そういえばそうでしたわね。 でも、大丈夫ですわ。まだ準備に時間がかかっているとのことで、
用意が出来たらこちらの方に来るように言っておきましたから」
「なあ!! 何の話!? おしえてよ!!」
悟空が興味深々に聞いてくると太真は笑って悟空の方に向く。
「七夕祭りの話ですわ、悟空」
「たなばた?」
「ええ」
「それなに?」
小首を傾げる悟空に太真は笑顔を浮かべて説明をする。
「七夕というのは織女星と牽牛星が年に一度天の川を渡って会える日のことです。下界ではその日に笹の葉
に願いを書いた短冊というのもをかけるとその願いがかなうと云われているんですのよ」
「へえ。そうなんだ。でもさ、何で年に一度しか会えないんだ?」
悟空がもう1度首をかしげた。
太真はくすりと薄く笑った。
「しっかり者の2人は自分の仕事を精一杯頑張っていたの、それで神様はその褒美に織女星と牽牛星を一緒に
したんです。
お互いを好き合っていた2人はそれはそれは喜んでいましたわ。
でも、2人は互いの仕事を忘れて遊びほうけてしまったの。
それに神様が怒ってしまって2人を天の川で隔てて別れさせてしまったというわけです」
「なんだよそれ!! ひでえじゃん!!」
悟空が頬を膨らました。
太真は苦笑いをした。
「悟空がそう言うのも尤もですわね。でも、2人の仕事はとても大切なものだったんですのよ」
織女星の織った布は着物となり人々に着られ、牽牛星の育ては牛は人々を育む糧となる。
2人は人々が生きていくに大切なものを作ることを忘れてしまったのだ。
「神様が怒るのも当然でしょう?」
「確かにそうだけどさ、でもなんか、可哀想じゃん」
「だから、年に一度、会わしてくれるのでしょう?」
「…うん!! そうだな!! でも、それに何で太姉ちゃんがでてくるの」
「旧暦の七月七日である八月七日に天宮で七夕祭りが行われるんです」
「太真は今年の祭りで舞を舞うんですよ」
天蓬が悟空を見て言う。
「え? 太姉ちゃんが?」
「はい、でも、その準備がまだなのでここにいるというわけですわ」
「へえ、太姉ちゃん、忙しいんだな」
「そんなことも無いですわ。七夕は当分先ですが、しっかり予定どうりになっているはずですから」
「ところで太真」
天蓬が急に何かを思い出したかのように話し掛けた。
「何か?」
「その祭りには、誰が出席するんですか?」
それを聞いて太真は何を聞きたいのかが分かってふわっと笑った。
「大丈夫です。天蓬様と捲廉様、金蝉様。それに、悟空も、きちんとお呼びしますわ」
八月七日 陰暦 七月七日
この日、天宮では盛大な祭りが行われようとしていた。
「太姉ちゃん!!」
悟空が太真に飛びつこうとした瞬間首根っこを掴まれた。
「何やってんだよ。サル」
「び、びっくりしたじゃんか!? 何すんだよケン兄ちゃん!!」
「王婦人様に向かって抱きつこうとする奴がいるか?」
「まあまあ」
にこっと笑った太真の姿は舞姫の服であった。
「正装のときの格好と違うんだな」
「ええ。七夕仕様ってことですわね」
ふわっと笑ってから太真はあることに気付いた。
「そういえば、金蝉様と、天蓬様がいらっしょいませんわね」
「ああ、あいつらなら台風に巻き込まれるのはごめんだって言って先に会場のほうに行ってるぜ」
「台風って…ああ」
「何々? 台風ってなんだよ!? ねえ〜」
いまいち話についてこれない悟空が捲廉の軍服の裾を掴む。
捲廉はそんな悟空を見て口を開こうとしたそのとき、
「太真!! 準備はどうって……きゃ〜〜〜〜!!!」
ある天女が入ってきたかと思えば悟空を見つけるなり天女は悟空に抱きついた。
「この子がお母様が仰っていた観世音菩薩の甥ごさんの金ちゃんが引き取ったって言う悟空君ね!!
かわいい〜〜〜vv!!」
ギュウと抱きしめる腕のかなで悟空は苦しそうにもがく。
それを見て捲廉が可笑しそうに口の端を上げていった。
「瑤姫ちゃん、そんなに抱きしめてると悟空が窒息死するぞ」
瑤姫と呼ばれた天女ははたと気付いて悟空を開放した。
「……は〜〜〜死ぬかと思った〜〜〜」
「ごめんなさい悟空」
「誰だよ、こいつ!?」
悟空の云うことは尤もである。
太真は苦笑して説明をした。
「彼女は瑤姫。私の2つ上の姉上ですわ」
「え!? 太姉ちゃんのお姉さんなの!!??」
びっくりしたように悟空は瑤姫を見る。
黒に見えた髪は青く、瞳も太真よりは濃いが青い瞳だ。
顔立ちは当然姉妹だということで似ていた。
「始めまして、太真の姉の瑤姫よ。よろしくね、悟空君v」
「あ、れ? 何で俺の名前…」
「太真に何時も聞いてるよ、君の話」
「そっか、よろしくな瑤姫姉ちゃん!!」
にぱっと笑った子どもを見て微笑むと瑤姫は太真のほうを向いた。
「似合ってるわね。可愛いわよ」
「ありがとう。お姉さま」
太真がにこっと笑うと瑤姫もつられたように笑みを返す。
「準備はオッケーみたいね。そろそろだから行きなさい」
「はい」
こくんと頷いて太真は舞服を翻して出て行った。
「さっ、捲君に悟空君。あたしたちも行きましょう」
「りょ〜かい。四娘様」
「おう!!」
笛や太鼓の音が鳴り響く。
その中を太真王婦人が優美に舞を舞っていた。
桜の花びらが風に乗り舞台を横切る。
青い髪と薄紅の花弁は美しく見るもの全てを虜にしていた。
母も、菩薩も、神も、闘神も、天帝でさえも。
「太姉ちゃん、きれい!!」
悟空は大きな金眼をさらに大きくしていた。
「ああ、すげーな」
捲廉も太真の舞を見て頷くだけだった。
「去年は確か…」
「あたしのすぐ下の妹がやったわ。あの時も綺麗だったけど、太真は本当に綺麗に舞うのよね」
「そうですね〜」
瑤姫は天蓬に向かってまるで自分のとこのように嬉しそうににっと笑った。
「金ちゃん、どう、うちの自慢の妹の舞は」
先ほどから無言で舞を見ている金蝉を見て瑤姫は意味ありげに笑った。
しかし、瑤姫の声など届かないように金蝉は太真に目を向けていた。
瑤姫は呆れたような可笑しそうな微妙な表情になったあと、再び妹の舞を見守った。
「どうでした、悟空?」
舞が終わって宴会になだれ込んだ舞台で、太真は悟空たちを見つけて感想を聞いてみた。
「スッゲー綺麗だったよ!!」
悟空が金晴眼をキラキラさせて言った。
「ああ、この世のもんじゃなかったみたいだったぜ。…綺麗としかいいようがねえよ、あれは」
少し照れくさそうに捲廉。
「本当に綺麗でしたよ。舞いも太真らしくて良かったですし」
にっこり笑って言うのは天蓬。
「さすがよ。一杯練習したもんね。お疲れ様、太真」
嬉しそうに言うのは自分の姉、瑤姫。
綺麗という言葉を聞いて太真は顔を朱に染めてしばらく俯いていた。
しかし誰かがいないことに気付いて顔を上げた。
誰よりも答えてほしい人がいる。
その人に綺麗といってもらいたい。
好きな人たちの中で、誰よりも愛している。
愛しい人。
「金ちゃんだったら、向こうに行ったわ」
太真の表情を読んで瑤姫が薄く笑って指をさす。
指の先には川が流れていた。
「あの橋の向こうよ……行ってきたら」
邪魔者は絶対に入れないから。
とウインクをされて太真は顔を真っ赤にさせたが、嬉しそうに微笑んで頷くと走っていった。
「あれ、太姉ちゃん、どこ行くんだ?」
「金蝉のところですよ」
「そういえば、金蝉、どこいったんだ?」
「さあ、どこにいったんでしょうね」
ハテナマークを頭に載せる悟空を楽しそうに見ていた天蓬であった。
「金蝉様!!」
「……太真」
嬉しそうに自分を見ている恋しい人をどこか惚けて見つめてしまう。
彼女が何時もと違うように見えるのは、ただ単に着物の所為だけではないような気がする。
2人は川を挟んで立っていた。
「すぐ、そちらに行きますわ」
嬉しそうに言って太真は近くにある橋にむかって走り出した。
惚けていた金蝉も我を取り戻して走り出す。
「金蝉様は走ってこなくてもよろしかったのに」
くすくす笑う太真に金蝉はどう答えていいのか分からなくなっていた。
「…お前1人に走らせるわけにはいかなかった」
待っているのは嫌だった、と言葉なしで伝えると、太真はふわっと微笑んだ。
「ありがとうございます」
二人は、橋の上に立っていた。
そして、星を見上げている。
空は何時もにまして綺麗に輝いていた。
「なんだか、織女星になった気分ですわ」
どうしてと、視線を金蝉が向けると、目を細めて太真は言葉を紡ぐ。
「橋の上で、愛しい人と一緒に星を眺めているんですもの。金蝉様は、そうは思いませんか?」
「………さあな」
ふっきらぼうに言っているのは照れ隠しだろう。
少なくとも、彼も自分と同じことを考えていると、そう思って太真は金蝉から再び視線を外し星を見上げる。
しばらく、2人は何も話さなかった。
「金蝉様」
「なんだ?」
急に声がかかってきて金蝉は太真の方を向いた。
「金蝉様は、もし、星に願いをかけるなら、なにを望みます?」
真摯な瞳で聞かれて、一瞬答えを真剣に考える。
「ない、な」
「なぜですの?」
「他力本願は基本的に好きじゃない」
「金蝉様らしいですわね」
「でも…」
「え?」
でももし、星に言って願うのなら。
「ずっと傍に…」
太真はしばらく、その答えをきいて眼を丸めていたが、
「わたくしと同じ願いですわね」
愛しい人よ、ずっと傍にいて。
幸せでいて。
「綺麗、だ」
星ではなく、貴女が
口付けを送られてからのその言葉に、
星姫は幸せそうに微笑んだ。
星に願いをかけましょう
この幸せが続くように
愛しい貴方と
ずっと……
Fin
あとがき
おしゃ〜〜〜!! まにあった!!!
天蓬「一事はどうなるかと思いましたよ」
まん研の部誌が終わってなかったからね。
悟空「でも、まだ、白いよ?」
きゃー!! 見ないで悟空君!!
捲廉「あさってだろ?締め切り…」
大丈夫!!! …だと思う。
だってこれをさ、明日までに仕上げたかったんだもん
太真「旧暦の七夕ですものね」
うん、7月7日には無理だったからどうしても、ね。
金蝉「ま、駄文だがな」
Σ(@@)はう!!ひどいわ金ちゃん!!
金蝉「誰が金ちゃんだ!!(怒)」
キャーーーー!!!
太真「皆様、読んでくださって本当にありがとうございました」
2001.8.6.
改稿 2005.11.6