もしも、ワタシがこの世から消えてしまったら

アナタは、どうする?

 

 

IF

 

 

 

「こんなところで、何をしている?」

 大きな桜の木の花びらがゆらゆら落ちる。

彼女が尤も気に入っている場所に、金蝉は来ていた。

「桜を見上げていましたわ。それがなにか?」

「…いや。しかし、何で桜なんか今更見上げるんだ?」

「なんででしょうね」

 

 

くすくす笑う彼女が儚く見えるのは気の所為か?

 

 

金蝉が隣に座ると青の髪がサラサラ揺れた。

「悟空はどうしたのですか?」

「天蓬のところに行った」

「ここに御一人で来ると、あとで悟空が怒りますわよ」

「そうかもな」

 くすくす笑って空を眺めた。

その空色の瞳は優しくて。

いつまでも見ていたいと心からそう思った。

そのとき、不意に空色の瞳をこちらに向けた。

「金蝉様」

 

 

声色は、心なしか、硬かった。

 

 

「なんだ?」

「もしも…」

「?」

「もしも…わたくしがこの世から消えたら、どうします?」

 

 

 

モシモ、ワタクシガコノヨカラキエタラ、ドウシマス?

 

 

 

ドウシマス?

 

 

 

 

「………何言ってんだ」

「わたくしは、本気で聞いているんですのよ」

「《もしも》なんて言葉は、意味がねぇものなんだよ」

 怒ったように聞こえるのは、決して気のせいではなく。

少し、困ったように顔をゆがめてから、薄く笑った。

「それは、過去において、のことですわ。もう決まってしまい、過ぎ去った過去に《もしも》は必要ありません。

でも、これから先の未来には、《もしも》はありますわ」

 

 

 

幾千の可能性がある未来

その幾千の中のひとつを、拾い上げたものが《もしも》

それは、誰もが完全に否定できない

幾千の可能性がもつたったひとつ

 

 

 

金蝉は機嫌を完全に悪くしてそっぽを向いてしまった。

こうなるともう笑うしかない。

自分が悪いと思いつつ、しかし、そう思ってしまうのも確か。

不穏な空気はもうそこまで来ているように感じてならなくて。

そうしたら、まず、自分がこの身を投げ出すだろうことを感じてならなくて。

だから、怒ることを覚悟で聞いてみたのだ。

愛している人に

 

 

 

「お前は死なない」

 突然、こういわれて何のことだと分からなくなった。

呆けたように金蝉を見ると彼は彼を良く知らぬものが見たら不機嫌そうに見つめていた。

付き合いがある彼女はその表情にどこか何かを決意したような感じがした。

「お前は死なない、そうだろ?」

 天界の人間は不死なのだから。

そう言って見せた表情は不器用な笑顔で。

でも、どこかで

 

 

お前を、死なせない。

 

 

そう言われたような気がした。

 

 

しかし、その言葉を聞こえないふりをして、

「そうですわね」

「当たり前だ。急に変なことを聞くな、心臓に悪い」

「ここのところ、忙しかったものですから」

「疲れをためるのは良くないな」

「分かりました。今日はこれで帰りますわ」

「そうしとけ」

「…はい」

 2人は立ち上がり、金蝉とは逆の方向に歩き出す。

「太真」

「はい? ……」

 

 

 

 

 

死ぬな

 

 

 

 

唇を重ねて、

聞こえた声は、

本当に聞こえたのか

心の声だったのか

分からなかったけど

 

 

 

 

 

はい

 

 

 

 

天女は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

もしも、ワタシがいなくなったら

この世から消えてしまったら

ワタシを、

どうか、ワタシを

 

 

 

忘れてください

 

 

 

 

そうすれば、

 

 

アナタは泣かなくても、

 

 

 

 

すむから

 

 

 

 

 

Fin

 


あとがき

脱走だ!!! 殺される!!!

だだだだだだだだだだだだだだだ

金蝉「逃げやがった(怒)」

太真「逃げ足だけは相変わらず速いですわね」

悟空「ねえねえ、俺たちの出番は?」

ナッシング!!!(遠くから聞こえる)

天蓬「今回は金蝉と太真2人だけの話を書きたかったって言ってました」

捲廉「にしてもなんで、何時も暗いんだよ。天界編は」

天蓬「まあ、そういう話ですからね」

捲廉「……あとで、たたきに行くか?」

「「「「おう(はい)!!!」」」」

なして〜〜〜〜〜(TロT)

 

2001.8,18

 

 

 

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