櫻を見ると思い出す。
櫻に似てるからなんだろうけどな。
美しく、儚く
そして…
暖かかったから。
庭を歩いてたらふと櫻に目が行った。
「櫻か…久しぶりに見るな」
いっつも蓮しかない部屋にいるから、上を見上げて見る花もたまには良いもんだな。
櫻を見ると思い出す。
―― 観世音菩薩様!――
青い髪を揺らして走ってくる、おっとりとしたあいつを。
《今》とじゃ全然違うから余計にそう感じんのかもしんねぇし。
「さっきから…何故そんなに貴方らしくない顔をして、櫻を見上げているのかしらね。観世音菩薩」
「……西王母か」
櫻と連なって出てくるあいつを思い出していたら、かなり時間がたってたのか…。
声をかけて来たのは二郎神じゃなくて、天宮の主。
「そう言うお前こそ、何でこんなところにいるんだよ」
「櫻の花びらを、庭で見たからよ。多分、貴方と同じモノを思い出していたと思うわ」
「モノ…って。なんか、母親らしくねぇ言い方だな」
「あの子は、あれで満足だったから」
西王母はその後は何も言わずに櫻を見上げていた。
最初に会ったのはあいつがまだチビの時。
西王母と一緒に来たときだった。
でっけぇ空色の目で俺を見て、にこっと笑って。
――以後、御見知り置を…か…観世音菩薩様――
ぎこちない言葉で言った言葉。
あれはもう何時の話なんだろーな…。
あんときはまだ可愛げがあった俺の甥っ子とも結構遊んでたし。
俺にも懐いててくれたな〜、そーいや。
にっこりというよりもふわっといった表現が似合いそうな笑顔を浮かべて俺のところに来ていた。
天界できっと誰も敵うはずが無かっただろう。
ただただ純粋な心を持った女神。
優しく照らす陽光のようなその心は
この観世音菩薩様だって敵わなかった。
――けど、思い出すのは、楽しいものばかりじゃない。
でも、いつも思い出すのは、楽しいものばかり。
…それが気に食わない。
これじゃあまるで…
「…観世音。貴方が今、何を思っているのか、言いましょうか?」
俺は櫻から目を離して隣にいる母性の塊に目を向けた。
「あの子達のことを考えるのはいつでも楽しい記憶ばかり。
でも、それは辛さから逃げているようでどこか気に食わない。
そうでしょ?」
「…………アタリ。っにしても、お前っていつもヤな奴だよな」
いつでも人の心を理解しやがって。
そういう風に睨むと西王母は可笑しそうにくすくす笑う。
「あら? そうかしら?」
「ああ。そうだぜ。母性を司る女神の長様」
俺が皮肉って言うと今度は薄く笑った。
「貴方と同じ思いに何時も駆られるから、さっきの貴方の顔はそういう感じの表情だったわ」
俺は西王母を見つめていた。
西王母も俺を見つめ返しながら口を開いた。
「逃げてるのでは、無いと思うの。だってわたくし達はしっかりと見てきたでしょう?
すべて……辛いことも、痛いことも…」
「…ああ」
忘れるはずも無い。
あんときの光景はきっと永遠に忘れないだろうよ。
「それでいいと思うのよ。辛いことをしっかりと受け止めて見る優しい記憶は尊い思い出だから。
逃げて見る思い出は、確かに逃げかもしれないわ。
でも、わたくし達は忘れない。あの瞬間達を。愛しい者達との別れの瞬間を。そして…」
櫻を見上げる。
「《今》を生きている彼らを見守れるという一種の感謝の気持ちを」
だから、思い出してもいい
すべてを覚えていれば…
カナシイ記憶をもって見る暖かい思い出を逃げとは思わない
ただ、思い出す。
それだけのコト
「観世音菩薩ーーー!!!」
「あらあら、二郎神様が呼んでいらっしゃるわよ…。行って差し上げないと」
「面倒くせーな。このままどっかいっちまおうか」
「可哀想よ…それに、あの子達の生き様もしっかり見ないといけないでしょう」
「…そうだな。んじゃ俺帰るから。お前もしっかり仕事しろよ」
「ええ。分かってるわ。それじゃあ、御機嫌よう。観世音菩薩様」
「ああ。じゃあな」
西王母に別れを告げて俺は城へと歩いていった。
青い髪も、空色の瞳もふわっと笑うあの笑顔も、
もう見ることはできねぇけど。
「一体どこに行ってらしたんですか。公務が山のように溜まっているというのに」
「二郎神」
「何ですか?」
「…まだまだ…これからだよな」
「……………………そうですね」
ああ、そうだろ。
あいつ…らは、これからを生きてくんだからな
『ちょっと!! 早くしろよ! 置いてくぜ!! ったく…』
違う青を持ったあいつを蓮の池の下から、見守ることは出来る。
許される。
そうだろ?
太真
Fin
あとがき
観音「……誰だよ、こいつ」
…………。
そういいますよね〜貴方じゃありませんもんね。
でも、これは天上天下唯我独尊慈愛と慈悲(自愛と淫猥)の象徴で在らせられる四大菩薩が一人観世音菩薩様でございます。(息切れ)
観音「一言で言い切ったのは褒めてやるけどな…。何でこんなに大人しいんだよ。この…」
…もう一回言わせるつもりっすか…?
観音「そのつもりだぜ」
Σ(@ロ@)ひど!!
今月のGファン見て思いついたんです。何でかしんないけどね。最後のページ見たときに
観音「ああ。俺のあの台詞…」
あれはあんまりだと思ったけど、でも納得してしまった。
ちょっと悔しい。
観音「…こんなやつの駄文を読んでくれてアリガトな。今度は俺らしく書かせるから。懲りないで来てやってくれ」
2001.1.10