悟空が大きな金の眼で太真を見上げていた。

太真がなんだとばかりに悟空を見れば悟空はこう聞いてきた。

 

 

「ねえ、太姉ちゃん、くりすますってナニ?」

 

 

 

 

 

White Christmas

 

 

 

 

 

太真はキョトンと目を丸めた。

そして、悟空に確認の意を込めてもう一度聞く。

「クリスマスって言いました? 悟空」

「うん!」

 元気一杯に笑って頷く悟空。

太真は口に手を当てて暫く考えていたがそのうちにおもむろに立ち上がった。

「ごめんなさい悟空。少し待っててくださいな」

 そう悟空に向かって言うと太真は本棚から一冊の分厚い本を取り出した。

百科事典である。

ここは天蓬の部屋なのでこんな本があるのは当然の事。

ちなみについさっきまで天蓬も捲廉もこの部屋にいて掃除をしていたのだ。

急な軍の会議が入って太真と悟空に留守番をさせいたという経緯である。

 

きちんと本棚に入れられた百貨辞典を持って悟空のところに戻ってくると太真は分厚い本のページを捲りだした。

「ええっと、ク……ク…クリスマス、クリスマス………と。あ、ありましたわ」

「なんて書いてあるの?」

 悟空が目を輝かして太真と一緒に本を覗き込むが難しい字ばかりで頭が痛くなってしまった。

読めなくてちょっと悔しいと思いながらもそれを真剣に読んでいる太真の服の袖を引っ張る。

「ねーねー太姉ちゃん、なんて書いてあるの?」

 袖を引っ張られて太真は悟空のほうを向いた。

そしてニコッと笑う。

「クリスマスというのは簡単に言えば西洋で毎年12月の25日に行われている催し物のことです。

西洋の宗教の祖が生まれた日を祝うという日でその日は教会という建物へ皆がお祈りに行く日だと書いてありますわ」

 辞典に載っていた事柄を出来るだけ解りやすく伝える。

しかし、悟空は首を振った。

「それ違うよ」

「? 何が違うんですの?」

 今度は太真が首を傾げる番だった。

悟空は真剣な眼で太真に訴える。

「だって、くりすますにはさんたさんって言う白髭のおじいちゃんがプレセントを持ってくるって書いてあったもん」

 そういって悟空はある絵本を太真に見せた。

その絵は赤と白の暖かそうな服を着た白髭の老人が大きな袋を担いで煙突の中へと入ろうとしている絵だった。

それを見て太真はすぐに理解した。

「それはクリスマスイブの日に来てくれるサンタクロースのことですわ」

「くりすますいぶ? さんたくろーす??」

 悟空が首を捻る。

太真はもう一度丁寧に辞典を見る。

そこにはきちんとイブのこととサンタクロースのことが書いていった。

「昔、わたくしもお母様に尋ねたことがありましたわ…懐かしい。クリスマスの前の日のことをクリスマスイブと言うんです。

この日はクリスマスと違って美味しい物やケーキを食べたりして家族と楽しく過ごす日なんですって。

サンタクロースというのはイブの日の夜にいい子に素敵なプレゼントを運んでくださる方のことですわ」

「………いい子?」

 悟空が本と太真を交互に見る。

太真は頷いた。

「ええ。悪い子のところには石炭を送ってしまうそうです」

 悟空の目に涙がたまってきた。

太真は急な悟空の涙に慌てた。

「ご、悟空…! どうしたんですの!! どこか痛いのですか?」

 慌てている太真をよそに悟空は今にも泣きそうな表情を浮かべた。

「………貰えない」

「えっ?」

 太真は眼を点にした。

悟空はとうとう眼から涙を溢れさせてしまった。

「…俺、悪い子だから、サンタさんにプレゼント貰えない」

「………あ」

 太真はほーっと安堵の息をついた。

良かった、急に泣くから何事かと思いましたわ。

でも、悟空にとってはどうやら一大事らしい。

太真は悟空の顔を覗き込んだ。

そしてふわっと優しい笑みを浮かべる。

「どうして悟空はサンタさんからプレゼントをもらえないと思うのです?」

「だ、だって…俺いっつも金蝉の仕事の邪魔してるし…イタズラしてるし。こんなんじゃサンタさんからプレゼント、貰えない」

 金晴眼からぽろぽろ流れる涙。

太真は気合を入れて悟空を抱き上げると自分の膝の上に乗せた。

数十キロもある枷の重さでキツイが今はそんなことよりも悟空を泣き止ますことの方が先決だ。

悟空ははじめて乗る太真の膝に驚いて太真を見上げる。

太真はもう一度ふわりと笑えばこつんと悟空の額に自分の額をくっつけた。

空色の目が金晴眼に合わさる。

「悟空、サンタさんからのプレゼントが欲しいんですか?」

 優しい空の目で聞かれて悟空は頷いた。

「うん…」

「なら、いい子になればいいじゃありませんか」

「でも…間に合うかな?」

 悟空が心配そうな視線を向けてくる。

太真は額をつけたままでコクリと頷いた。

「大丈夫ですわ。悟空が良い子になればきっとサンタさんも悟空のことを認めてくださいます」

「………プレゼント、くれるかな?」

「もちろん」

 もう一度微笑むと悟空はぱあっと顔を輝かせた。

涙はすでにひいている。

悟空は太真を真っ直ぐに見ながら笑顔で言った。

「俺、いい子にしてるよ! いい子にしてサンタさんからプレゼントもらうんだ!」

 輝く笑顔を見て太真は嬉しそうに眼を細める。

そして表情を引き締めると悟空にこう言い聞かせた。

「じゃあ、これからクリスマスイブまで金蝉様のお仕事の邪魔はしませんね?」

「うん!」

「イタズラは、しませんね?」

「うん!!」

「約束、出来ますわね?」

「うん!!!」

 キラキラと嬉しそうに頷く悟空を見て太真は悟空から額を離し、大地色の頭を撫でた。

「イブの日にはケーキを焼きますわ。悟空、手伝ってくださいね」

「おう!!」

 太真は元気よく頷く悟空に向かって優しく微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

To Be Continue…?


あとがき

去年は静夜総受けクリスマスでしたが、今年は外伝で言って見たいと思います。

悟空「外伝、今それどころじゃないしな」

ほのぼのとはかなりかけ離れてしまったからせめてここだけでもほのぼのに…

悟空「あと4日だけど大丈夫?」

…かなり修羅場でございます。

悟空「………がんばれ」

…そうね(遠い目)

 

 

2002.12.19

 

 

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