白いドレスがなびく
まるで彼女を気高く魅せるように
White Wedding
なにやら下界が騒がしいと二郎神は近くにいた菩薩に声をかけた。
「観世音菩薩。今日はなにやら下界の方が騒がしいのですが」
「ん〜〜??」
新聞を読んでいた観世音はゆっくりとした動作で首を二郎神に向けた。
そして首を傾げると一人勝手に納得したようにポツリと呟いた。
「ああ。そいやー今日だったな」
悟空は朱に塗りたぐられた大門の前で手を大きく振っていた。
「おお〜〜い!! 悟浄、八戒!! 早く早く!!」
「…ったくサルは元気で結構なことだぜ」
「まあまあ。いいじゃないですか、今日くらい」
悟空の嬉しそうな表情を見て八戒はにこっと笑う。
いかにも自分も幸せですという笑みを浮かべる八戒を見て悟浄は苦笑した。
しかし、それは本人のみが思った表情で、本当は悟浄も八戒や悟空に負けないくらいに幸せそうに笑っていた。
大門まで着いた2人は悟空に導かれて寺の中に入っていく。
「それにしてもよ。ボーズが結婚してもイイワケ? 確かいけないんじゃなかったか」
回廊を歩きながら悟浄が今までずっと引きずっていたことを口にした。
僧侶の、特にその中でも最高の地位にいる三蔵法師。
結婚は仏教ではご法度のはずなのに。
そんな悟浄の問いに八戒が答えた。
「ある本に書いてあったんですけどね、三蔵法師は玉女との交わりは許されているらしいんです」
「玉女ってナニ?」
初めて聞く単語に悟空が八戒の方を向く。
興味深々で聞いてくる悟空を見て八戒はにこっと笑って答えた。
「玉女と言うのは仙女や天女のことですよ。おそらく月龍の龍巫女はその玉女に入るんでしょう」
金竜の対存在であるといわれる銀を自色とする月龍。
その竜の力を持った巫女。
いわば、龍巫女は三蔵法師と同等な存在だということだ。
「だから結婚も可、なワケね」
「そういうことです」
悟浄は納得したようだが悟空はどこか納得してない様子で「だからなんなんだよ!!」と騒いでいる。
悟浄がそれを見てからかおうとした瞬間、八戒が素早く出た。
「簡単に言えば、静夜は特別な巫女だから三蔵と結婚できるということです」
「…ふ〜〜ん」
八戒のひらた過ぎる答えに悟空は曖昧に相槌を打つ。
そして悟空は2人を見ると。
「静夜が特別がどうかは良くわかんないけどさ静夜は静夜だろ? 静夜は三蔵が好きだから結婚する。それだけでいいじゃん」
屈託のない笑顔。
本当に幸せそうなその笑みに2人は顔を見合わせ、笑い合った。
2人が行き着いたのは三蔵の部屋だった。
「さんぞー入るよ」
と返事を待たずに入るとそこにはどこか落ち着かないように煙草を吸っている三蔵の姿が。
その格好はいつもと変わらない。
よくよく見れば真新しい袈裟であることは分かるが、これはどっからどう見てもいつもの三蔵である。
「な〜んだ三蔵様はタキシーど……って!!」
にやけた顔で悟浄がなにやら言おうとしたが弾丸が顔の横を通りずぎる。
「あんなもん着れるわけねぇだろうが」
「あっぶね〜〜〜…………でもよ、静夜はドレスなんだろ?」
弾丸が飛んだというのに抗議をしなかったのは今日という日がどんな日か分かっているためか。
彼の言い分が分かるためか、悟浄は彼の花嫁について聞く。
しかし、三蔵は首を横に振った。
「知らん」
「――はい?」
「どういうことですか?」
これには八戒も驚いた様で三蔵に聞いてくる。
三蔵が答えないかわりに悟空が答える。
「静夜、昨日っから部屋から出てきてなくてさ。なんか月龍衆の巫女さんとか来て、なんかしてるみたいなんだ」
寺院に女性が入ることも禁止されているのだが、大切な龍巫女に何かあってはたまらないと月龍衆の巫女たちの凄みの
ある勢いに僧侶たちはただただ寺院の出入りを許可してしまったという。
いつの時代も男性は女性にどうしてこうも弱いのか。
「月龍のしきたりですか?」
「さあな」
八戒が聞くが三蔵は首を横に振っただけだった。
彼も心なしか気になるようだ。
まあ自分の妻になる女のことを気にかけないという時点でおかしいのだからこれで良いのだろうが。
全く三蔵も変わりましたよね。
大切な人が出来ると人は変わるものだ。
守っていこうと心も体も強くなる。
強くなった分、大切な人が消えてしまったときにの大きな喪失感は否めない。
それほどまでに愛しているのだから。
だから今以上に強くなりたいという願望も出てくるのだけど。
そう思い八戒は忍び笑いを漏らしたとき、ドアを叩く音が聞こえた。
「なんだ?」
三蔵が聞くとギイとドアが開いた。
そこにはまだ若い巫女が立っていた。
彼女は三蔵に向かい深々と頭を下げる。
「三蔵様、龍巫女様の準備が整いました。こちらへ」
そう言うと巫女は踵を返し歩いていく。
ついて来いということなのだろう、三蔵は顔を顰めて渋々と歩き出した。
その後ろで残りの3人がにーっと笑っているのを彼は気付かなかった。
「静夜スッゲー!!」
「本当に静夜ですか?」
「こりゃ、見事に化けたな」
3人が静夜の姿を見たとたんにそれぞれの言葉を口にする。
静夜はそんな3人を見て睨みつける。
「お前らさ…他に何か言うことはないのかよ?」
相変わらずな花嫁に睨まれ3人は笑みを浮かべた。
「おめでとう! 静夜」
「おめでとうございます、静夜」
「おめっとうーさん」
「………ありがと」
祝福の言葉に静夜は微笑んで答える。
その笑みは本当に幸せそうで、3人もつられて頬が緩む。
だが、そうなるものほんの少しで3人はすぐに隣で固まっている三蔵に声をかけた。
「三蔵、大丈夫かー?」
「三蔵、新郎の貴方がしっかりしないでどうするんですか?」
「三蔵ってば固まっちゃって…」
声をかけると言うよりはからかいを含んでいるその言葉に三蔵は睨んだ。
「殺すぞ」
しかし、3人はひるまない。
「三蔵、結婚式にそんなコト言うなよ」
「全く、新郎新婦揃って友人を睨み付けるんですからね」
「まあ仕方ないか。ってことで俺たちは邪魔したみたいだからな。先に行ってるぜ」
悟浄はそういうと八戒の肩と悟空の頭を掴むと部屋方出て行った。
ばたんと戸が閉まると三蔵は苦虫をつぶしたような顔になる。
静夜はそれを見てクスクス笑った。
「なに笑ってやがる」
「べつに」
クスクス笑う静夜はいつもと同じはずなのにどうして衣装一つでこんなにも違うのだろうか。
2人っきりにするために部屋を出た3人は回廊を歩いていた。
「それにしても悟空。2人が結婚すると言ったときに僕は正直言って貴方が反対するんじゃないかと思ったんですよ」
八戒が急に言い出したことに悟空は目を丸めた。
悟浄は八戒の問いに頷く。
「そうだよな。お前三蔵にベッタリだったのに全然反対とかしなかったよな。取られるって思わなかったのかよ」
悟浄も悟空を見た。
悟空は悟浄を睨んだ。
「ベッタリじゃないよ。それに俺、最初から反対なんてするつもりなかったし」
悟空はそう答えて八戒と悟浄を見た。
「だって俺静夜も好きだもん。三蔵だって静夜のコト思ってるって分かってたしさ。三蔵と静夜が幸せならそれでいいやって。
………それにさ」
「それに、なんです?」
八戒が言葉を切らした悟空の先を促すと悟空はにっと笑った。
「静夜が三蔵にベッタリするなんて思わないし」
悟空の言葉を聞いて2人は顔を見合わせたがそのうちどちらともなく吹き出した。
「た、確かに…」
「そりゃそーだ」
一族の証である濃紺の青髪は高く結わえてある。
顔には珍しく化粧が施してある。
そして、彼女が纏っているもの。
一点の穢れもない美しい純白。
しかし、そこら辺にあるドレスとはどこか違う。
首を傾げている三蔵を見て静夜は簡単に説明を始めた。
「この服、朧族の花嫁衣裳でさ。ちょっと変わってるものそのせい。
本来なら自分で作るって言うのが慣しなんだけど、時間なかったしさ。
そしたら月龍衆の皆が作ってきてくれたんだよ。採寸とか色々あって昨日はずっと部屋にいるしかなかったんだけど」
「――そうか」
「ちょ、三蔵大丈夫? ボーっとしてるけど」
彼らしくない様子に静夜は椅子から立ち上がり三蔵の傍へと寄ってきた。
そして彼に近くまで来て喋り出した。
「いよいよだな」
「ああ」
「ガラにもなく、きんちょーしてる?」
「うるせぇ」
「あたしは緊張してるけど。こんなカッコしたのも初めてだし」
とドレスの裾を摘む。
動きづらいと小さく言っていたが満更でもないようだ。
何もかもがいつもの静夜だというのに純白のドレスは彼女を映えさせる。
とても気高く、美しく。
「三蔵」
静夜の声がしてその方を向くと静夜が真っ直ぐに三蔵を見ていた。
一時も曇ることがなかった瑠璃の瞳で。
「幸せになろう」
すっと手が差し伸べられる。
「2人で一緒に」
三蔵は静夜の顔を見たままだ。
「幸せになって他の人たちも幸せにしよう」
幸せは伝染していくから。
自分たちが幸せならきっと他の人たちも幸せになれると信じているから。
そう言って差し伸べてくる手。
三蔵はふっと笑うと
「静夜、それは俺が言うセリフだと思うが」
「えー、三蔵が言ったらトリ肌立ちそうだから言わないで」
「…テメェ」
ったく、かわんねぇな。
たぶん一生。
三蔵は静夜の手を掴む。
引き寄せて耳元で悟空たちが言いたくても三蔵のために言わないでおいた言葉を囁く。
静夜はいままでで一番嬉しそうに微笑んだ。
そして三蔵も。
気付いていないが、彼もまた微笑んでいた。
本当に幸せそうに
Fin or ……Life
あとがき
プロジェクト始動!!
最初に最遊記、静夜と管理人本命の三蔵との結婚式!!
よかったね三蔵あたしじゃなくて静夜と結婚出来て。
三蔵「ああ。本当にな」
…にやけてる。三蔵怖い。
三蔵「何かいたか?」(小銃のセーフティが…)
な、なんでもないです!!
これからも静夜と周りの人たちと幸せになってね!!
じゃ祝辞終わり。(逃げる)
―――三蔵!!(立ち止まる)
三蔵「?」
幸せにしなよ!! 本当に!!!!(走り去る)
三蔵「…そんなの、当たり前だ。……………(ぼそぼそ)」
2002.6.6