「バレンタインって、なに?」
静夜の感謝のチョコ作りは悟空のこのひと言から始まった。
食事のとき、悟空の何気ないひと言は一緒の席にいた三蔵たちの動きを見事に止めた。
最初に動く事が出来たのは、悟浄だった。
「なに、お前そんなことも知らなかったのかよ」
「何だよ!! じゃあ悟浄は知ってるのかよ! バレンタイン!!」
「知ってるぜ…てか。一般常識なんだけどな…。ま、悟空は脳ミソが小さい馬鹿猿だから仕方ないか」
「馬鹿ザルいうな!! しらねぇもんは仕方ないだろ!! もったいぶらずに教えろよ!!」
青筋を立てて悟浄に噛み付いている悟空を見てるだけで答えない悟浄の代わりに静夜が手早く答えた。
「バレンタインっていうのはね。女の子が自分の好きな人にチョコレートと一緒に好きですって言う気持ちを男の人に渡す
日なんだよ」
静夜の声を聞いて悟空は悟浄から離れ、彼女の方を向く。
静夜は悟空の目を見てにっと笑った。
悟空はそれを聞いてにこっと静夜に笑みを返す。
「へえ。そんな日があったんだ」
「ま、西洋のほうから来たイベントだからね。長安とかの方じゃあんまりやってなかったから。知らなくて当然っていえば、当然かもな…」
そう言った後静夜はなにを思いついたのか、口元に手を当てて暫く黙ってしまった。
「…静夜。どうした? 腹でも痛いのか?」
いつまでたっても静夜が黙ったままなので悟空が心配して静夜の顔を覗き込んだ。
静夜は視界に金の輝きが入ってきたので驚いたように顔を上げた。
呆けた様子の静夜に悟空はもう一度、声をかける。
「静夜、大丈夫か?」
心配そうな悟空に向かい静夜は薄く笑ってからポンポンと悟空の頭を軽く叩いた。
「大丈夫、少し考え事してただけ」
にこっと今度はきちんと笑ったあと、三蔵に向かって口を開いた。
「この町にはいつまでいる予定?」
「ここにはもうあと2、3日滞在しようとは思っているが…どうしてそんなことを聞く?」
考えて答えてから三蔵は怪訝な顔つきで静夜に聞いてきた。
「べっつに、丁度いいかなって思ってね」
そんな三蔵の顔を笑って受け流すと席を立った。
先に部屋に戻っていると目で言ってから静夜は2階にある自分の部屋に向かっていった。
「…一体何が丁度いいんでしょうね、静夜は?」
「俺が知るか」
八戒の呟きに三蔵は興味が全く無しと言う様に手元にあった茶を飲んでいた。
「長安じゃやってなかったけど、あたしの村ではやってたんだよ」
「え! マジ! 静夜のところでもやってたの?」
「ああ。あの日は村の若い娘たちがいつも以上に逞しく見えたな」
買出しを頼まれた静夜は一緒について来た悟空に向かって過去の思い出を話し出す。
幼心に残っていた記憶はどこかうすぼんやりとしていたが、あのときの娘たちの頑張ろうという気持ちは強く残っている。
そして、その日に贈られるもうひとつの意味も。
「でもね、その日は愛を伝えるだけじゃなくて感謝を贈る日でもあったんだ」
「感謝を伝える日?」
「そっ。日ごろお世話になっている人、親や友人とかにね。《ありがとう》って気持ちを込めてチョコを贈ってたよ」
感謝というのも愛を伝えることと同じことだと誰かが言っていた。
この世で大切な感情を恥ずかしがらずに伝えられることが出来る貴重な日だと。
「だから、あたしも贈ろうって思ってさ」
「贈るって、俺たちに?」
「もちろん。お前ら以外に誰に渡せって言うんだよ」
唖然としたように自分を指差す悟空を見て静夜は可笑しそうに笑った。
そして、不機嫌な顔を作る。
「もしかして、あたしからチョコ貰うのイヤ?」
その瞬間、悟空は思いっきり首を振った。
「イヤじゃないよ!! 静夜の作ったの激ウマイもん!! 俺楽しみにしてるよ!!」
悟空らしい言い方だったが静夜はとても嬉しくなって笑顔を向けた。
感謝という愛を送ります。
普段照れて全然言えないこの気持ちを。
誰よりも大好きな貴方たちに…
To Be Continu…
あとがき
最遊記よ!! ようやく出来た!!
悟浄「こんなローペースで本当に大丈夫なのかよ?」
まずいっすね!!!
八戒「(怒)…………………………………ふざけてますね」
……………………………………………………………………脱出!!!!!
三蔵「逃げやがった…」
悟空「本当に大丈夫かな〜、俺激不安…」
2002・2・10
改稿 2005.11.5