彼に対しての感謝…
はっきり言って
無いような気がする
でも、どこか礼を言いたくなるのは
彼の人徳と言うものなのだろうか?
「………紙袋、いる?」
悟浄に会いに酒場を訪れると、そこにはテーブル一杯に積まれているチョコの山。
その陰になってかろうじて見えるのは赤い触角。
それのお陰で静夜のお目当ての存在だとわかり、そちらに歩いていき冒頭のセリフをはいた。
そんな彼女のセリフに、相手は何の躊躇いも無くサラリと頷いた。
「ああ。出来れば欲しいな。こんなに貰うなんて思わなかったし」
悟浄が視線を山積になったチョコに向けるのを見て静夜はふうとため息をつく。
「………二日三日で。何でこんなに貰えんだよ」
「そりゃ、俺がイイ男だからでショ?」
「言うだけならタダ、だよな」
「…お前なら言うと思ったけど、ホントに言うか? フツー」
「言って欲しかったんだろ?」
なにを今更と言う目で悟浄を見下ろすと今度は悟浄が大きなため息を吐く。
そして近くを通った酒場のマスターに紙袋を頼んだ後もう一度静夜を見た。
「で、何でこんなところに来たワケ?」
「悟浄を困らせに来たに決まってんだろ」
にーっと楽しそうに笑って悟浄に手を出すように促す。
訝しげに手を出した悟浄の手にぽんと小さな包みを置いた。
手の上の包みを見て悟浄は目を見開いた。
そしておかしそうに口の端を上げる。
「お前が俺にこんなモンをくれるなんてな〜。俺に惚れたってコト?」
ひらひらとチョコの箱を左右に振る悟浄に静夜はスッと眼を細めた。
「そんなコトあるわけ無いだろ? 悟空にも八戒にも渡したからな。三蔵にも渡すし。悟浄だけ渡さないものどうかと思ってさ。
余ったチョコで作っただけ」
「……そうだと思ったぜ」
呆れたように自分を見る静夜を見た後、静夜に座るように促した。
静夜は促されたままに同じテーブルに置かれている椅子に座ると独り言のようにボソボソと話し出した。
「悟浄にあげる感謝が思いつかなかったんだよな。他の3人はどこと無く感謝したいコトがあったからそんなに困んなかったんだけど。
悟浄だけは何にも思い浮かばなくてさ。何でだろうってずっと考えてたんだ」
テーブルに頬杖を付いてチョコの山を見上げていた静夜は頬杖を付いたまま悟浄に視線を向けた。
心なしかムーっとしたような顔で見られ、その表情がどこか子供っぽくて。
悟浄は笑うのを堪えながら静夜に声をかけた。
「で、どうして俺には感謝を感じなかったのか分かったのか?」
静夜に視線を合わせて聞いたが、当の本人はジッと悟浄を見つめたままだ。
「おい」
「………………あ」
何かに気付いたような静夜の声。
「なんだよ?」
「今分かった」
「なにが」
「悟浄への感謝」
「悪友としての感謝ぁ?」
「うん」
「マジで言ってんのか?」
「ってかそれしかない」
呆れたような驚いたような微妙な表情を顔に浮かべている悟浄とどこか納得したように頷いている静夜。
2人は今マスターから貰った紙袋にチョコをつめていた。
悟浄の微妙な表情を見て静夜は何てこと無いといった感じで言葉を続けた。
「悟空は弟みたい感だし、八戒はどこかお兄さん…みたいな感じだし。
三蔵は…なんて言って良いか分からないけど、どっか我儘な子供相手にしてるみたいだし。
友人って言えるのって悟浄しかいないなって思ったんだ。でも、友人って言うのもなんかしっくりこないから悪友って事で」
バラバラとチョコを袋に詰め込む。
だんだん面倒臭くなってきたのか丁寧さが無くなってきた静夜の動作を見ながら悟浄は確かにと思った。
静夜は女としてみるには充分な年齢なはずなのに性格や一つ一つのしぐさの所為か、どうも女として見れない。
どちらかと言えば一緒にワイワイやって楽しめる友人、そっちの方がしっくりする。
しかもいつも癪に触るようなことを第一声に言ってくるのだから。
これは確かに悪友と言ってもいいだろう。
「なるほど。確かに悪友だな」
「でしょ? でも、あたし悟浄のコト信頼もしてるから。信頼できる悪友が傍にいるってことの感謝ってことでアレ、受け取っといて」
静夜の言葉を聞いて目を丸くしている悟浄を見ずに静夜は全てのチョコが入ったのを確認して「ハイ」と袋を悟浄に渡す。
悟浄が呆然としながらも袋を受け取ると静夜はクスッと笑ってから、
「じゃあ、あたし戻るから」
ちゃんと持って帰って来いよ、と釘を刺して静夜は酒場を出ようと歩き出した。
「静夜」
名前を呼ばれ振り返ると、悟浄が薄く笑いながら口を開いた。
「ありがとな」
感謝の言葉を受け取り静夜は微笑むとすぐにニッとした。
「静夜様のお手製だからな。心して食えよ」
みな、対等に肩を並べて歩いていけるけど
一番近くで対等に出来るのは彼しかいないと思う
それにみんな彼をことを信頼してると思うから
だから、信頼できる悪友に贈る
簡単ながらの感謝を
Fin
あとがき
本当に悟浄は困った。
何の感謝がいいんだか…
悟浄「で、こうなったわけか?」
なんか文がワケわかんないね、ごめん。
悟浄「いいぜ、いつものことだしな」
……………ひどい!!!!(T_T)
沢山貰ったくせにそんなコト言うな!!
悟浄「沢山貰ったのは当然のことだからな仕方ねえだろ?」
…悔しいから静夜から貰ったチョコ没収だ!!!
悟浄「だぁぁぁぁ!!! チョット待て!! それってあり!!!」
没収だ没収だ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぁ!!!!!!(絶叫)
2002.2.26
改稿 2005.11.5