感謝の気持ちを贈りましょう…
何よりも純粋で
誰よりも素直な
綺麗な金の眼をした弟に
なんか、甘い匂いがしないか?」
とある町の宿の一室で新聞を呼んでいた三蔵はかすかだが階下から漂ってくる匂いに顔を顰めた。
八戒はそんな三蔵の表情に薄く笑いながら彼の目の前にコーヒーを差し出す。
「静夜じゃないですか」
「どうして分かる?」
コーヒーのカップを受け取りながら、怪訝な顔で八戒を見上げる。
八戒は今度こそ顔に笑顔を浮かべて答えを口にした。
「静夜、バレンタインだからあたしもチョコ作ってくる!! って言って勢い良く台所に行くの見ましたから」
「誰にやるんだ、そんなもの」
「僕たちだって事は確かだと思いますけど」
「…………くだらねえ」
呟いて三蔵は再び新聞に眼を向ける。
と思ったらもう一度八戒のほうを向いた。
その行動に視線を向けられた人物は驚いた。
が、その理由が分かってすぐに笑顔になる。
「……悟空は?」
やっぱりと思って八戒は吹き出してしまった。
「…なにがおかしい」
「いいえ。すいません」
睨んできた三蔵を笑顔で返した後八戒は保護者に被保護者の居場所を伝えた。
「静夜のところですよ。すっごく楽しみにしてたみたいですから」
甘い匂いが台所じゅうに広がっている中、青い髪の女性が甘い匂いの発生源のかけらを口にしていた。
「……うん。これでよし。後は適当に渡すだけだな」
甘いものを咽喉に通した後でにっと笑った。
ふと、人の気配を感じて後ろを振り向く。
その気配が誰のものか分かっているから、静夜は笑顔でドアの陰に隠れている人物に声をかけた。
「悟空、そこにいるのは分かってるぜ。出てこい」
笑い声を含んだ声を送って少しするとひょこっと一人の少年が出てきた。
少年は恥ずかしそうに頭を掻いてから静夜に近づいていった。
「お前の目的はコレだろ」
とテーブルの上に置いてある物を指差した。
そこには甘い香りを漂わせている、チョコレートが置いてあった。
静夜が眼を向けると少年、悟空は頷いた。
「うん。静夜の作るもんって何でもウマイからさ。スッゲー楽しみにしてたんだ」
「八戒よりはウマくないけどね」
「そんなこと無いって、静夜のほうが菓子作るの上手いじゃん」
「他の料理は負けてるってコトか、それは」
「あ………!!!」
しまったと思わず口を押さえる悟空を見て、静夜は声を出して笑う。
からかわれたと悟空が気付いて顔を赤くするのは、それから30秒後のこと。
「悟空ってホントに素直だよな」
笑い過ぎて出てしまった涙を拭きながら言うと悟空はプクッと頬を膨らます。
「何だよ! 悪かったな素直で!!」
「悪かったな、て…褒めてやってんのに」
「――静夜の今の表情じゃ全然説得力ないよ」
「ごめんごめん。コレやるから許して」
テーブルの上に置かれているチョコを手にとり悟空に渡した。
ポンと手渡されたチョコを見たあと、静夜を見ると彼女はにこっと笑って頷いた。
悟空はパアッと顔を輝かせてからチョコを食べる。
「………どう? おいし?」
悟空がモゴモゴと口を動かしているのを興味津々に見つめる静夜。
ゴクンと飲み込んでから嬉しそうに悟空は笑った。
「スッゲーウマい!! サンキュ!! 静夜!!」
嬉しそうな悟空の笑顔に釣られるように静夜は微笑んだ。
「でもさ静夜。俺は静夜にたくさん感謝してるけど、静夜が俺に感謝することってあるのか?」
チョコ食ったあとで言うのもなんだけど、と言う悟空に向かって静夜は笑って頷いた。
「あるよ。悟空に感謝すること、きちんとね」
笑顔のまま静夜は悟空の目を見た。
「悟空の真っ直ぐさにいつも助けられてる。へこみそうになった気持ちをいつでも浮上させてくれてる。
悟空って弟みたいなんだけどさ、実はあたしなんかよりずっと大きいのかもな」
金色の目はいつも素直に真っ直ぐに輝いて
それはいつも彼を幼くさせているけど
それは時に
迷ってしまった仲間を優しく強引なまでに
それでいて力強く導く
最後には負かされてしまうけど
でも、みな分かってる
その心に助けられていると
それは、自分も例外ではない
だから、感謝を贈る
「……俺、静夜より背低いけど?」
キョトンと目を見開いてから悟空はどこか呆けたように答えると静夜はおかしそうにクスクス笑った。
「身長の話じゃないって。外見じゃなくて中身のハナシ」
「そうかな…静夜のほうが大きいと思うけど」
良く分からないと視線で訴えながら言葉を紡いでいく悟空に静夜はもう一度くすっと笑い小首を傾げる。
「そう? まあ、いつも賑やかにしててくれてありがとうって事だな」
「はあ!!?? さっきと言ってること違うじゃんか!!??」
「両方とも本心よ。いつもありがとう。そんで、これからもよろしく」
ふわっと優しく微笑むのを見て悟空は少し赤くなりながらも頷いた。
「おう!!! 俺の方もよろしくな」
2人は顔を見合わせて笑いあった。
弟みたいだけど
真っ直ぐに輝く金の瞳に
本当に助けられてるから
だから、それを感謝に
貴方に贈りましょう
そして、これからもずっと
その力強さを無くさないようにと
願いながら
感謝を贈る
Fin
あとがき
お前もう期間切れてるだろう?と言う突っ込みはこの際なしです。
悟空「ってか短いな」
これぞまさしくSS。
悟空「内容も変だ」
ごめん。
悟空「でも、俺って本当に静夜から見ると弟だよな」
あ、自覚あるんだ?
悟空「静夜がお姉さんだったら俺スッゲー嬉しいもん!!」
そっか、まあこれからも仲良し兄弟でやっていってくれ。
2002.2.22
改稿 2005.11.5