目の前には色とりどりのカラフルな棒。

これは何? と顔を見ると

ニコッて笑ったんだ。

 

 

 

A Sparkler

 

 

 

 

悟空は目の前にさし出されたカラフルな棒を見て首を傾げた。

「これ、何?」

 悟空は天蓬の方を向くと彼はにこっと笑った。

「花火ですよ」

「花火?」

 花火と言われたものを手に取ると悟空はいろいろな角度から花火を見る。

そして不思議そうに天蓬を見ると一言。

「…花なんて咲いてないよ?」

「ぶっ!」

 悟空の言葉に捲廉は思わず吹き出した。

「あははははははは!!!!」

「何だよ! 俺なんか変なコト言ったのか!?」

 悟空は笑っている捲廉を振り返ると捲廉は笑いを無理やり噛み殺して悟空を見た。

しかし、悟空の顔を見ると再び吹き出した。

「…なんだよ〜〜〜」

 悟空は不貞腐れた顔をしてムーッと手の中にある花火を見た。

そんな悟空の手を包む暖かい感触がした。

悟空が上を見上げると太真がふわっと笑って悟空の手を花火ごと包んでいた。

「悟空は、花火を見るのが初めてなんですか?」

 太真が優しく聞くと悟空は頷いた。

「うん。俺、こんなの始めてみた。ねぇ太姉ちゃん、これってどんな花が咲くの?」

 無邪気に、本当に無邪気に聞く悟空に太真は微笑んだまま答えた。

「夜になれば、解りますわ」

「夜…?」

「ええ」

 キョトンと上目で太真を見れば、彼女は微笑んで頷いた。

悟空は太真と手にある花火を見て金蝉を見た。

「金蝉……」

 悟空はじっと何かを頼むように金蝉を見る。

金蝉は暫く悟空を見ていたがそのうちに大きく溜息をついた。

「仕事の邪魔をしなければ付き合ってやるよ」

 そう答えた途端悟空の顔がパァっと輝いた。

「絶対だからな!!!」

 念を押すように、嬉しそうに金蝉に向かって言うと悟空は太真の手を掴んだ。

太真は嬉しそうな悟空の顔を見て掴まれた手を握ると捲廉と天蓬を見て言った。

「天蓬様のお部屋で本を読みたいのですが…」

 その申し出に反対するものは、当然いない。

天蓬はニコッと笑ってその申し出を受け入れた。

「よろこんで」

 

 

 

 

 

 

 

夜に城の中庭に集まった5人。

天蓬が花火の入った袋を持っていたのはわかるが、捲廉の手にぶら下がっている大きな水瓶に、悟空は目を丸めた。

「ケン兄ちゃん、これ、何に使うの?」

 と聞けば、

「花火が終わった後に入れる水。その辺にほったらかすとゴミになるし下手すると火事になるからな」

 捲廉の言葉を聞いて驚いたように目を見開く悟空。

何で花が咲くと火事になるんだといいたげな視線を感じながら捲廉は天蓬の手に持っていた花火の袋から一本取り出すとポケットに入っている

ライターで火をつける。

その光景にますます悟空が驚いているのを横目で見て笑いながら「そろそろだぜ」と言う。

その瞬間、ライターをつけた先の花火が美しい光を帯びて咲き出した。

悟空はそれを見て金蝉や太真を見る。

その悟空に金蝉は呆れたような溜息を吐き、太真は優しい微笑を浮かべていた。

悟空はそんな2人に首を傾げながら、目の前で光る花をじっと見詰めていた。

「花火って火で咲く花だったんだ」

 ボーっと始めて見るものに目を惹かれていた悟空の目の前に何かが差し出された。

見れば、それは花火で差し出したのは天蓬だった。

「悟空もやりませんか?」

 にこやかに聞いてくる天蓬を見て悟空はにぱっと笑った。

「いいの!?」

「ええ。でも熱いですからなるべく遠くを持ってくださいね」

「うん!!」

 嬉しそうに天蓬が渡した花火を持って悟空は捲廉の花火から火を貰いに走った。

激しい光の中に咲いていない花火を入れればたちまちその花も激しい光の花を咲かす。

悟空は楽しそうに花火を見る。

やる前に花火を振り回してはいけないと太真と金蝉に散々言われていたので振り回すことはしなかったが、もし言っていなければ、振り回していた

だろう事は、その表情か見れば明らかだった。

そんな悟空につられて天蓬も花火に火をつける。

太真もそれに倣い2本の花火に火をつけて一本を金蝉の前に差し出す。

「なんのつもりだ」

「金蝉様もご一緒にいかがです?」

「俺はいい」

「そんなことを仰らずに。悟空も見ていますわ」

 金蝉は一瞬太真を睨んだが、太真の笑顔を見て悟空の期待に満ちた顔を見て小さく息をつくと太真の手から盛大に咲く花火を受け取る。

花火を受け取った金蝉を見て悟空と太真は顔を見合わせて、笑った。

激しく咲き続ける花火は次第に光を失い、水瓶の中に入っていく。

水瓶の中の花火が多くなった頃、丁度天蓬が持っていた花火も終わりに近付いていた。

「花火の最後って言ったら、これだよな」

 捲廉が取り出したのは、おそらく最後であろう花火。

それは、どのものよりも頼りなく見えた。

「線香花火ですわね」

 太真がどこか淋しげに言う。

その太真の表情に悟空はどうしたんだと彼女を見る。

太真は心配そうに見上げてくる悟空になんでもないとかぶりを振った。

そして、悟空に線香花火を渡す。

細い一本の糸は軽く力を入れたら千切れてしまいそうで。

果たしてこれは、どんな花が咲くのか、悟空は捲廉に火をつけてもらう。

火をつけた線香花火の先は次第に丸くなり仄かな光をおびた。

そして、小さくパチパチと音を立てる。

今までの花火よりも静かなその花はすぐにその命を終えた。

「あ……っ」

 悟空が声を上げたとき、すでに線香花火の光の玉は地面に還っていく。

「終わっちゃった」

 悟空が呟くと太真がもう一本差し出した。

悟空はそれを受け取りもう一度火をつけてもらう。

もう一度光る花を見て、

「まるでヒトの人生のようですね」

 天蓬がポツリと言った。

その隣で、捲廉も頷く。

「ああ。まるで儚く散る桜みたいだな」

 その表情はどこか、悲しそうで。

悟空は金蝉を見た。

彼は、この花を見て何を思うのか。

金蝉は暫く線香花火を見て小さく言った。

 

 

 

 

 

 

「儚い命の灯火のようだな」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、儚い花は光を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悟空は、それを聞いて何か違和感を感じる。

儚い…?

そうかもしれない。

でも、何か違う。

俺は………

そうは思わない。

この光は…

この火は……

まるで…………

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きようとする、ヒトの生命の様ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

太真がふわりと笑いながら悟空に向かって言った。

悟空は弾かれた様に太真を見て。

「…………うん」

 笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

太真の言葉が胸にストンと落ちる。

激しく、光り輝く火は、誰よりも激しく生きようとする人の生命そのもの。

悟空は心の中で頷いた。

 

 

 

 

俺も、そう思ったよ…

 

 

 

 

 

「全部終わったことですし、戻りましょうか?」

 天蓬が言うと4人は同時に頷く。

「捲廉、水瓶お願いしますね」

「わーってるよ」

  軽く言葉を交わす2人。

先ほどの悲しそうな表情はもうなくて。

さっきのは見間違いかと思わせた。

太真も金蝉のいつもの表情で、悟空はホッとした。

何故だか解らないが、それでも、どこか安心した。

「悟空」

 金蝉の声がする。

悟空が顔を上げれば、金蝉が悟空に向かって手を差し出していた。

「帰るぞ」

 珍しい金蝉の行動に悟空は目を丸めたが、嬉しそうにその手を掴んだ。

ギュッと離れないように掴む悟空に金蝉は一瞬顔を顰めたがそのままにしといた。

そんな金蝉を見てクスクス笑う太真。

「悟空、楽しかったですか?」

 と聞けば、輝く笑顔で返す。

「うん!! スッゲー楽しかった!!!」

 嬉しいと満面の笑みで返す悟空を見て金蝉はこう思った。

 

 

「―――――また、やるか」

 

 

 呟くような声。

「えっ?」

 悟空と太真だけでなく天蓬と捲廉も驚いたように金蝉を見た。

思わず、声に出してしまったと口を押さえようとするが、それもどこか馬鹿らしく感じて。

金蝉は恥ずかしさを隠すように早足で歩いて行く。

「わ〜〜〜金蝉! 速いって!!!」

 抗議する悟空の声など届いていない様だ。

微かに顔を赤くし去って行く金蝉を見て天蓬たちは顔を見合わせ、笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

いつか、もう一度、花火をしよう。

今度は、もっと沢山の花火を持って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin

 

 

 

あとがき

紅桜さん、こんなんが出来上がってしまいました。

すごく、変です。

ああ!!!紅桜さんからはあんなに素敵なのを頂いたのに!!

私の恩知らず!!!

これがあの話の裏話なんて…本当にすいません。

こんなんでも気に入っていただければ、嬉しいです。


紅桜さんに送った暑中見舞いの裏話…

気に入っていただけた様でよかったです。

メールが楽しかった(笑)

 

 

2002.8.23

 

 

Back