「あら、三蔵様はどこに行ったのよ?」
買って来た煙草を片手に悟浄は入ってくると、部屋にいるはずの最高僧の姿がない事に首を傾げた。
「静夜、外にいませんでしたか?」
八戒が悟浄に向かって振り返りながら聞く。
どうして三蔵の事を聞いているのに静夜の名前が出るのだろうと怪訝に思いながら頷いた。
「おお、いたぜ。なんか嬉しそうに笑って……! ああ、なるほどね」
「そういうことです」
悟浄の納得するのを見て微笑む八戒。
「珍しいな、いつもなら一緒に行くって騒ぐ奴が大人しく三蔵を行かせるなんて」
「…うるせー。…俺だって三蔵と静夜の仲くらい分ってるよ」
枕を抱きかかえている悟空は悟浄と視線が合わさると不貞腐れた表情をする。
太陽を思わせる金の光を持つ三蔵。
透き通るような空の青を持つ静夜。
悟空は2人の色がとても好きだ。
だから2人が一緒にいると嬉しくなるし、いくら疎い悟空でも静夜の三蔵に対する態度を見ればもういいというほどに分かる。
2人が互いを思い合っているという事に。
「ここのところ忙しかったんですからいいじゃないですか。デートくらいしたって」
「まあな。イイんじゃないの」
「邪魔しに行くなよ、悟浄」
「どっかのバカザルじゃないから大丈夫だって」
「バカザルって…俺の事か?!」
悟浄を食入るように見ると悟浄はにやっと笑う。
「お、自覚あったのね。お兄さんびっくり」
「ウキー!!」
今にも噛み付きそうな勢いの悟空を見て、
「2人とも、夜遅いんですからあまり騒がないで下さいよ。でないと僕、怒りますからねv」
「………ハイ」
絶対零度のにこやか笑顔で言われ、大人しくなった悟空と悟浄であった。
森に囲まれた村を出て、静夜は先を歩く三蔵を睨んでいた。
「三蔵ちょっと待てよ、早い!!」
「てめーが遅いだけだろ」
「三蔵が早いんだよ! もう少しゆっくり歩け!」
三蔵の背中に怒鳴り声を浴びせながら静夜は懸命についていく。
しかし、遅くなってくれそうにないのに気付き、静夜は小走りになって三蔵のすぐ後ろまで来ると袖を掴んだ。
「おい、てめー!!」
「三蔵が悪いんだからね」
不機嫌極まりない静夜の声に嫌そうな顔で振り返った三蔵は溜め息を吐く。
「…持つだけだ、引っ張んじゃねぇぞ」
「あ、なにその態度。三蔵が外に出ないかって誘うからついてきたのに、そーゆー態度とるわけ? ふ〜ん、そうなんだ〜、へ〜」
拗ねたような、刺々しい口調に堪え切れなくなったのか三蔵は静夜の耳元で何かを呟いた。
小さい声だったが静夜にはきちんと聞こえた。
「…仕方ない。許してやるかな。感謝しろよ」
楽しそうに笑ったのを見て三蔵はばれないように息を吐いた。
敵わない、と。
「ところで、どこまで行くのさ?」
「この森を抜ける」
「ここ抜けたら湖じゃない。散歩にしては長い距離だな」
「まあな。…静夜」
「なに?」
「…今日は、月は出るのか?」
「え? うん、出るよ…って昨日皆で見たじゃんか、ジープの上で満月をさ」
「そうだったな」
「月がどうしたの?」
「ついてくればわかる」
「ふーん」
袖を持ったまま静夜は曖昧に返事を返した。
これ以上追求しても答えてくれないだろうという事は今までの付き合いで分っている。
しかし、顔はとても嬉しそうに綻んでいた。
「久しぶりだよね。2人でどっか行くなんて」
紅孩児や焔のよこしてくる刺客の奇襲がここのところ多く疲れる事もさることながら、ゆっくりする事もなかった。
当然三蔵と2人きりになれる事など出来なかった。
だから、三蔵とガラにもなく誘ってきてくれたときは本当に嬉しかったのだ。
「そうだな」
静夜には振り返らずに三蔵は前へと歩く。
必要以上に振り返らない、彼らしい動作に静夜は薄く笑った。
しばらく歩いて視界が広がった。森を抜けたのだ。
月の光が大地を照らし淡く光っている。
どこかいつもと月光の色と違う。
袖から手を放し天上を見上げると目を見開いた。
「三蔵! 見て見て、月が蒼い!」
宝物を見つけたように声を弾ませて静夜は笑った。
「あたし、蒼月ってはじめて見た! 凄く嬉しい! ありがと、三蔵!!」
「なんで俺に礼なんて言うんだ」
「だって三蔵、これをあたしに見せにここまで来たんでしょ」
随分前に蒼月を見たと言う悟空の話を聞いて今まで一度もそれを見たことがなかった静夜は見たいな、と小さく呟いたことが
あった。
三蔵は自分の小さな呟きを覚えていた。
だから、蒼月が出ると宿の女将に聞いて彼女を誘ったのだ。
静夜は月を見れたことも嬉しいが、三蔵のさりげない優しさも嬉しくて。
笑顔になった。
「お前が見たい見たい煩かったからだ」
嬉しさ満開の静夜の笑顔を見て三蔵は月を見上げた。
照れてるんだと思ったがここでからかって機嫌を損ねてしまったらせっかくの蒼月が見れなくなってしまう、静夜はくすくす笑うだけに
とどまった。
しかし、三蔵には彼女の考えなどお見通しらしく「ふん」とつまらなそうに月を見上げたままであった。
しばらく2人は月を見ていた。
言葉をかける必要はない。
沈黙は時に多くの言葉を伝えているから。
寄り添うでもなく自分の足で立って見上げていた月がたいぶ傾いてきた頃静夜は言葉を投げかけた。
「ホントに綺麗だよね、蒼月って」
「ああ…」
「でも、やっぱ金色に輝く月が一番いいな。なんかいかにも三蔵って感じがするもの」
「ちょっと待て、なんで月に俺の名前がででくるんだ」
眉をひそめる三蔵を見て静夜はあっけらかんと答える。
「だって、三蔵は月だってイメージあるんだもん」
髪の色もそうだが、月は三蔵の心自身を表しているように感じる。
闇夜を照らす月のように、人の心の闇を照らし道を諭す三蔵。
決して意図的にやってはいないのに結果的にはそうなるそれは空をただ照らしている月に似ている。
そしてどこか冷たい感じがするのに暖かく感じるのも。
「悟空は三蔵のこと太陽って言うけど、あたしは月って言う方がしっくりくるんだけな」
両腕を組んで考える静夜を見て三蔵は知らず知らずのうちに口を開いて言葉を紡いでいた。
「…じゃあお前はその月を支える空ってことか」
「え? …それって」
瑠璃色の――月の色より濃い夜の空の色をした――目を大きく見開いて三蔵を見る。
静夜の表情で三蔵は自分がなにを言ったのか分ったらしく、顔を赤くするのを静夜から顔を背けることで見られないようにした。
「もういいだろう、さっさと帰るぞ」
赤くなった顔を見られないように歩き出した三蔵を見て静夜は笑い出しながら歩き出す。
「三蔵、自分で言って自分で照れんなよ」
「うるさい、殺すぞ」
「三蔵に殺されるんならいいな、本望だよ」
「…静夜、お前な…」
思わず立ち止まってしまう。
冗談で言っているんだろうが、本気にも聞こえて怖い。
何せ彼女は悟空に負けず貶らず、思っていることを言ってのける素直な感情を持っているから。
おそらくそんな部分に惹かれたのだろう己を苦笑して、しかしたまにはいいかと思って愛しい人のように思ったことを口にする。
「殺さねぇよ。殺しちまったら支えてもらえなくなるからな」
「……。…珍しくハズいこと言ってんじゃないわよ。言っておくけど空は月を支えんのは嫌いなんだからね」
三蔵の口調から感じた素直な気持ちに頬が熱くなりながらも静夜は悪態をつく。
「きちんと自分で光ってなさいよ。そしたら空も付き合ってあげるから」
一方的に寄り掛かるのではない。
いつでも対等な関係で、肩を並べて歩いていきたい。
今も、これからも。
「いいだろう。そうしてもらった方がありがたいしな」
振りかえった三蔵の表情は珍しい、しかし静夜にとっては当たり前の顔。
静夜はそれに返すように微笑んだ。
「そりゃそうよ、だってそれがあたしたちのあり方なんだから」
月の色より濃い瞳で、魅入るには十分すぎる笑顔を返されるのを見て三蔵は村へと向かって歩き出す。
口元を綻ばせたままで。
静夜は来たときよりもゆっくりな速度で歩いている三蔵の隣に追いついて一緒に帰っていった。
空に浮かぶ月を明かりとして。
あとがき、
すみません〜!! ホント激駄文!!(T_T)
「anam! こんなもんをアイズさんに送るのか、恥を知れ! 恥を!!
しかも三蔵偽者すぎるぞ!」
ああ〜!!/(@ロ@)/
で、でも、なんか三蔵って本当に大切な人には素直になるんじゃないの。
「悟空と三蔵を見てもそう思うか?」
あれはみんながいるからでしょ?
「さあな。…ま、とりあえず、お疲れ様」
ありがと、静夜。(^^;)今度は天界編書いてみようかなって思ってんだけど。
「アイズさん、許してくれないだろ、今回こんな駄文おくるんだし」
そうだね…。
とりあえず、こんな駄文です! 許してアイズさん!!
初めて水人さんに送った駄文がこれ。
んで、これ以外にも一杯ストックあったわけでしょ?
でもでも、全部送ったら水人さんに迷惑かけるしってことでHP始めたのがきっかけ。
と言う、記念すべき駄文であったのでした。
2001.9.15