天空から舞い落ちる、冷たい天使の羽は、やがて全てを包み込む。 

穢れも血の色も憎しみも悲しみも… 

優しく、ただ優しく。

 

 

銀の雪

 

 

「寒い〜!!」

 我慢出来ないというように静夜は叫んだ。

寒さの為が歯がカチカチと音を立てている。

よほど寒いのだろう。

空は青く澄んではいるが、法外なまでの寒さにそれを見る余裕すらない。

「煩い! 少しは静かにしろ!」

 三蔵も寒さが手伝ってかいつも以上に大声を上げた。

「だって寒いもんは寒いんだからしょーがないだろっ!」

「叫んで暖かくなるのか!?」

「多少はね!」

「………」

 はっきり即答した静夜からは見えないが三蔵は不機嫌極まりない顔をした。

とても恋人同士の会話とは思えない。

漫才にも聞こえるその光景に苦笑して八戒は大きく息を吐いた。

吐いた先の息が白い。

「確かに寒いですね…」

「八戒、次の街までは遠いのか?」

 悟浄は前の席の青年に向かって聞く。

「ええ。今日は辛いでしょうが野宿になるでしょうね」

「ゲッ! マジ? こんなに寒いのにか!?」

「仕方ないでしょう? どっかの誰かさん達がいつまでも寝てるから出発が遅れたんですから」

「それって俺とバカザルのコト?」

「あれ? 自覚、あったんですか?」

「…もういい」

大きくため息を吐いて悟浄はドカッとシートに座った。

寒さの所為でいつまでも布団から起き上がれなかった悟空と悟浄の所為で出発の時間が大幅に遅れたのだ。

「だって、布団暖かいのに寒い外出るのヤだったから」

 悟空が反論すると、

「あたしだって寒いの我慢して外出たのに、そんな言い訳効くわけないでしょ!?」

 静夜の会心の一撃をくらって悟空は黙ってしまっていた。

彼女は寒いのが苦手らしい。熱いのも苦手なようだが。

ジープに乗ってる今でも体に掛けてある風除けのマントの端をきつく握って身を縮めている。

頬が赤いのを通り越して青くなり始めていて。

周りの面々もそろそろ限界に近い。

さて、どうしたものかと八戒が本気で考え出したとき、目の前にちょうど良いものが見えてきた。

 

 

八戒は膝の上に乗っているジープの背中を撫でながら辺りを見回す。

「ここなら、風も防げるし、大丈夫ですね」

 一行は運良く見つけた洞窟の中にいた。

寒さは感じるものの、風がないぶん暖かく感じる。

「そいえば、テントはこの間悟空が壊したんだっけな」

 呟くように言う静夜に向かって悟空は頬を膨らました。

「俺の所為じゃねーよ! 悟浄がからかってくるからいけねえんだぞ」

「おい、こらサル。何で俺を巻き込むんだ。大体お前がいつまで経ってもテント張らねーからいけないんだぞ」

「だからってテントの骨で頭叩く事はないだろ!」

「叩きやすかったからなー。お前の馬鹿でかい頭」

「ウキー!!」

「……いい加減にしろっ!」

 ズガン!! とハリセンの音が響く。

「てめーら、今度煩くしてみろ、そのアホ面に弾打ち込んで外に放り出してやるからな」

「三蔵、それなら銃弾を撃ち込まなくてもそのまま外に出せば、早かれ遅かれこの世には存在しなくなりますよ」

 八戒の鬼畜にもとれるフォローはいっきに三蔵の怒りを静めた。

「…八戒、こわい」

 絶対零度も負けず劣らずの悪寒の中、悟空は悟浄に小声で言った。

「あれはぜってー怒ってるって」

「なんで?」

「そんな事知るかよ」

「テント壊したから?」

「悟空、悟浄、何そこでヒソヒソ話してるんですか?」

 冷たい笑顔を浮かべている八戒に向かって2人は何でもないと言うようにブンブンとかぶりを振った。

その様子に三蔵は呆れた表情をし、静夜は苦笑していた。

「良いじゃんか、運良く風を凌げる所見つけたんだから。テントは次の街で買えばいいんだし」

 カラカラと笑い出しながら静夜は八戒に向かって言った。

八戒は静夜の笑みを見て頷いた。

「そうですね、今悟空と悟浄にいなくなられても困りますしね」

「そういうこと」

 楽しく話しをしている2人の様子に三蔵はイラついたように顔をしかめた。

それを見た悟浄は面白い物を見たように笑う。

八戒の発言に対する静夜の答えにムカッとは来たが、三蔵の表情を見たら笑わずにはいられなくなったのだ。

互いを思い合っているのに側にいないと不安になるのかと。

嫉妬をしているのが傍目から見ても分ってしまうほど、露骨な顔をしているとは三蔵自身思ってはいないだろう。

「静夜」

 悟空が静夜の腕をとって引っ張る。

振り返った彼女の近くによって小声で、

「何か、三蔵が怖い顔してんだけど……」

「えっ?」

 驚いて三蔵を見ると彼は顔を見られまいとしたのか顔を背けた。

その様子がガラにもなく見え、可愛いと思って笑い出した。

悟空は笑い出した静夜を見て首を傾げた。

「静夜、なんで笑ってんだ?」

「ん、三蔵が可愛いなって思ったから」

「…可愛い? 三蔵が?」

「うん」

 どこか嬉しそうに笑う静夜を見て悟空は首を捻った。

「三蔵が、あたしのコトきちんと思ってくれてるんだって分るから」

 嫉妬してるのがバレバレだ。

自分をこれほど愛していてくれてるのかと思うと嬉しくなる。

「そうなの?」

「そっ!」

 嬉しさに弾けそうな笑顔を見せられて悟空もつられ笑顔になる。

「おいおい、そこまでにしとけよ、さっきよりも三蔵様の機嫌が悪くなってきてるぞ」

 殺気を感じようと思えば感じれるほどにイライラが達しているのを感じた悟浄は2人の間に入った。

「――愛されてるねー。お前は」

「うん、嫉妬されるほどにね」

 からかいが空振り、悟浄はどう言って良いのか分らないように頭を掻いた。

嫉妬を気付いてるのに、逆に可愛いと言ってのけるこの少女には誰も敵わないと痛感した悟浄だった。

「にしてもホントに寒いわね」

 風が当たらないのに寒さは肌を突いてくる。

「雪でも降るのかもな」

 何気に悟浄が呟いた。

5人は寒いのを我慢して眠りに就いたのはその会話から少し経ってからだった。

 

 

 

朝、三蔵は目を覚ますと、最初に肌を刺すような寒さを感じた。 

上半身を起こして辺りを見れば、他の3人はまだ寝ていたが、愛しい人の寝ていた所には誰もいなかった。 

「外に出たのか…?」

 この寒い中何を考えてるんだ、と1人ごちて近くに置いてあった経文を纏い、風除けのマントを着て洞窟の外に出た。

瞬間、冷たい風が体に叩き付けられ目を瞑る。

そっと目を開けると今度は目を大きく見開いた。

目の前には一面に広がる銀の世界があった。

洞窟を出て銀色の中を2、3歩歩くと、太陽の日でキラキラ光る雪の先に瑠璃色の光。

「静夜……」

 小さく呟いただけだったが静夜は気付いたのか後ろを振り返った。

三蔵がいることに驚いたのか、目を瞬かせている。

彼は静夜の近くによってくるとマントを外して静夜の頭に掛けた。

「うわ! 何すんだよ!」

 いきなりのことで慌てている静夜の非難の声を無視して不機嫌に、

「何でそんな格好をしてるんだ」

「へ?」

 大きな目を更に大きくして自分のなりを見た。

いつも着ている上着は脱いだままで下の半袖姿のままだった。

それに加え風除けのマントをしていなかったのだ、三蔵にそんな格好と言われるのは当然だった。

「…雪があんまりにも綺麗だったから忘れてた…」

 決まり悪そうに、恥ずかしそうに笑う静夜を見て三蔵も笑みを浮かべようとした。

しかし、静夜の顔を見つめると眉をひそめる。

「お前、何時から此処にいるんだ……!」

「? 何時からって?」

 声色が硬くなった三蔵の様子に静夜は首を傾け暫らく黙った。

「…30分くらい前かな?」

「!! …っばか!!」

「!! 馬鹿とはなに……っ!?」

 言い返そうとした時頬に温かいものが触れた。

三蔵の手が静夜の顔を挟んでいた。

「冷えてるぞ」

 氷のような冷たさに顔をしかめる。

彼女の頬の色が寒さの赤を越えて青くなっていた。

凍死寸前のように見えたのだ。

実際に触れてみるととても冷たい。

「ずっとここに立ってたからね」

 何処かほっとするような声で静夜は呟くと自分の頬を挟んでいる三蔵の手に手を重ねた。

「あったかい……」

 頬と同じように冷たい手を重ねられ顔を歪めたが、うっとりとして目を閉じた様を見れば誰だって黙ってしまうだろう。

急に恥ずかしくなり、それを隠すように突っぱねた言い方をした。

「お前が冷たすぎんだよ」

「そうかもね。でもホントに暖かい」

 目を開けて嬉しそうに笑う。

トクン…

体の底が熱くなってくる。

暖めているのはこっちなのに逆に熱くさせられるとは。

細められている瑠璃色の瞳は潤んでいて、頬は次第に温かさをます。

それに連なるように唇が赤くなってくる。

赤く、綺麗に…

「静夜…」

 呟き程度の声は確かに耳に届いた。

声に含まれた意味を理解し目を閉じる。

その動作に声を発した方も目を閉じ、顔を愛しい人に近づけた。

唇が今まさに触れようとした瞬間、

「三蔵……?」

 その場の雰囲気を欠くにふさわしい声が聞こえた。

 

 

悟空は寒い風が入ってきたので目を覚ました。

三蔵同様に辺りを見渡すと、静夜と三蔵が寝ていた場所に2人はいなかった。

外に出たのかと思って外に出る。

雪が一面に広がっているのを見て驚いたが、その先に、金の光と瑠璃色の光を見つけた。

2つの光りは重なっていて何かをしようとしているようだったが、寝ぼけてまだ目がはっきりと見えていない悟空には何をして

いるのかさっぱり分らなかった。

「三蔵……?」

 金の光を発しているの誰かは分ったので、声を掛けてみる。

目はさっきより冴えていたがまだよく見えなかったので目をこする。

擦り終えて目を開くと、金の光を発している三蔵と、それに重なっていたはずの瑠璃色の光りを纏っている静夜は離れて

いた。

 「おはよう、静夜」

 さっきのことは気のせいだと思った悟空は静夜の方によって挨拶をした。

「おはよ、悟空」

 静夜は笑顔を向けて挨拶を返す。

その頬はとても赤かった。

しかし、悟空はそれを寒い為だと思ってどうしたとは聞かなかった。

「雪、降ったんだな〜。静夜ずっとこれ見てたのか?」

「うん、あたしは一番最初に起きたんだ。んでその後三蔵が起きたの」

「寒くないか、そのカッコで」

「全然平気。心配しないで」

「でも見てる方は寒いですから早く上着てくださいね」

 悟空と静夜の話にやんわりと入ってきたのはさっき起きたのだろう八戒だった。

その手には静夜の上着があった。

「八戒、おはよう」

「おはよう!」

「おはようございます」

 静夜と、悟空が挨拶をして、上着を着ているころ、八戒と同じ頃に起きた悟浄は三蔵の方へ歩いていた。

「残念だったね〜、三蔵様」

「なんのことだ」

 声色が想像以上に恐ろしかったので悟浄は両手を挙げる。

「俺に当るなよ、サルに甘〜い雰囲気壊されたからって」

「…見てたのか?」

「サルが起きてすぐにな。遠くからだったけど何してるかはすぐに分ったぜ」

 寒さとは別の理由で赤くなっている三蔵を見て楽しそうに笑う悟浄。

三蔵はその笑みを見て不愉快そうに顔をしかめ、そっぽを向いてしまった。

その仕種が拗ねた子供のように見えたのでますます、悟浄は笑みを深めた。

「三蔵!!」

 悟空の声が聞こえたのでそちらを向くと、悟空がこちらに向かって来ている。

後ろには八戒と静夜が続いていた。

三蔵はいつもの仏頂面に顔を戻すと八戒に声を掛ける。

「八戒、この雪でジープは動くか?」

「ええ。少し辛いですが全く動けないって事はないですよ」

「よし、とっととこんな寒い所から出るぞ」

「りょう〜かい」

 悟浄が悟空をからかいながら荷物の置いてある洞窟へと戻っていく。

八戒は苦笑しながら後を追う。

「…残念だったな〜、もうちょっとだったのに…」

 思わせぶりな声が聞こえ、三蔵が隣を見ると静夜が意味ありげな笑みで見上げていた。

何がというのは間抜けな話だろう。

ねえ、と同意を求めてくるはねっ返り娘に三蔵は口の端を上げた。

「…そうだな」

「…ホントにそう思う?」

「ああ」

「だったら…」

 悪戯を思いついたような笑みを浮かべたと思ったとき、襟元を掴まれグイッと引き寄せられた。

暖かく甘いものが唇に触れる。

長いような短いような妙な時間が去ったのは何が起こったか理解したときだった。

「てめえ……!!」

 口元を押え、今まで見たことさえないくらい赤くなった三蔵の顔を見て嬉しそうに静夜は笑って恋人の首に腕を回す。

「街に着いたらさ……一緒の……で……いいよね……」

 耳ともで囁かれた言葉にますます赤くなる三蔵を腕を外して面白そうに見る。

しかし、その顔も三蔵に負けないくらい赤い。

それを見て三蔵は気分を直し照れ隠しに手の甲で静夜の額をコン、と叩くと洞窟に向かっていった。

慌てて三蔵の後を追いかけ腕を組む。

ふと前を見ると悟浄と八戒と悟空が3人それぞれの表情で見ていた。

悟空は顔を真っ赤にしていたし、八戒は苦笑していた。

悟浄は静夜の言葉が聞こえたのかにやにやと笑っていた。

たじろいだ三蔵を引っ張るように静夜はどんどんと3人に近づいた。

「ごちそーさん」

 悟浄の第一声に静夜はいたって平然として、 「どういたしまして」 と言い放ったので、毒を抜かれた悟浄は唖然とした間抜け

た顔をした。

飄々と言い放つ静夜を見て三蔵は敵わないと、八戒と顔を合わして苦笑した。

やがてジープのエンジン音と共に賑やかな声が響く。

大地を覆う雪は彼らと、そして、そこにいる恋仲の2人を静かに見守っていた。 優しく、ただ優しく……

 

 

Fin

 


あとがき

メッチャ時間かかるじゃん!!(立ち上がるのに)

しかも恥ずかしいし!!

三蔵「なら出すな!」

ハリセンはやめとくれ!!

私もかなり恥ずかしい!!

でも雪が降るこの時期じゃないと出せんから出す。

確か、自分はアマアマを書いたことがない。

だから書いてみようと思って書いた奴だって事は覚えてる。

でも、恥ずかしいし………殺られる!!!!(逃走)

八戒「逃げましたね…」

悟浄「後で覚えてろよ」

悟空「…あ、この感想もしよかったら頼むな」

 

2002.2.16

改稿 2006.5.1

 

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