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テーマ《チョコ》CASE1 擬似姉弟(現代パラ) |
バレンタイン近付く、二月の初め。 悟空と静夜は大型スーパーの特設会場に来ていた。 「うわぁ、スッゲェウマそー!!」 金色の眼をキラキラ輝かせている悟空を見て静夜は苦笑を浮かべた。 「売りモンなんだから食うなよ」 「…………食わねぇよ」 彼女の言葉が癪に障ったのか、悟空は視線だけを静夜に向けて頬を膨らました。 あまりに幼いその表情に、静夜は笑う。 「悪かった、悪かった。そんなに拗ねるなよ」 「良いけどな、別に」 笑う静夜を見てますます機嫌を損ねたらしく、悟空は頬を膨らませたまま視線を前に戻してしまった。 年相応に見えない姿に静夜は悟空にばれないように笑みを深め、自らも視線を前によこした。
目の前には茶色の軍勢。
有名ショコラティエが作ったものから、ゴディバやロイズといった有名ブランドまで。 所狭しと犇(ひしめ)いているチョコをじっと見詰めながら、おもむろに口を開ける。 「悟空、なに食いたい?」 「んー…」 先ほどの不機嫌はどこへやら。 チョコに夢中になっている悟空は静夜の言葉に答え、目線をあちこちに動かしていく。 「あ、これ食いたい!」 指差した先に張るのはガナッシュ。 「ガナッシュねぇ……いいかも」 「マジで! じゃあこれにしようぜ!」 静夜の言葉に悟空が嬉しそうに彼女の方を向く。 満面の笑顔を向けて来る悟空に静夜も思わず笑顔になる。 が、すぐに顎に手を当てて一瞬考える仕草をした。 「悟空、太真は何にするって言ってた?」 「太姉ちゃん? ザッハトルテにするって」 急に彼女の従姉の名前を出すものだから、悟空は首を傾げながら答ると静夜はしっかりと頷いた。 「解った。あっちがケーキなら問題はねぇな。これにしよう」 どうやら被る事を危惧していたようだ。 静夜の言葉に悟空の顔が再び輝く。 「やりい!」 にんまりと笑う悟空を見て静夜は歩き出した。 「行くぞ悟空」 「おう!」 二人は目の前にあるチョコを素通りし、食品売り場へと向かって行く。 「楽しみだな! 太姉ちゃんのケーキと静夜のチョコ!」 「ガナッシュだけじゃつまらねぇから、トリュフとか生チョコも作るか」 「マジ!? ますます楽しみになってきた!」 笑う悟空を見て静夜は申し訳なさそうに口の端を上げた。 「それはそうと、悟空悪かったな。こんなところまで付き合わせて」 悟空は一瞬キョトンとした表情を浮かべたがすぐにブンブンと首を横に振った。 「気にすんなよ! 三蔵達じゃ嫌がって付いて来ないだろうし、オレが食べたいの作ってくれるんだもんな! だから別に気にする事ないぜ!」 「そう? ありがとう」 「その代わり、激ウマいの楽しみにしてっから!」 「了解」 悟空の言葉に静夜は今度こそ楽しそうに笑った。
あとがき
拍手ありがとうございました! 最遊記現代パラで静夜&悟空でした。 補足説明で、静夜は今年のチョコを何にするかを悟空に選ばせてます。 そして悟空が選んだ物を自分で作る事に。 既製品を買わないのは低コスト確保のためです(笑) ついでに「何でアタシがあいつらのために大枚はたいて自腹しなくちゃならないんだ」との事(爆笑) ちなみに太真も同じ事をしてザッハトルテにしました。 悟空、役得です(笑)
2007.2.8 |
歌が、聞こえてくる。 満月の美しい夜、廊下を歩いている時だった。 遠くから幽かに聞こえてくる、歌声。 柔らかく、優しいこの声は今まで聞いた事がないような、それでいてどこかで聞いた事のあるような声で。 三蔵は心なしか早足になりながら歌の聞こえてくる方へと足を運んだ。
辿りついた先は、自分の部屋。 その縁側に、歌声の主がいた。 彼女は満月を見つめながら歌を歌っていた。 いつも力強く輝いている瑠璃色の瞳は、月の光と相まって優しく輝いているようで。 彼女の歌う歌など、これまで何回も聞いたというのに。 どうしてだろうか? どうして、今聞いている歌を初めて聞いたように感じるのだろうか?
不意に、歌が止んだ。 彼女の事だ自分に気づいたのだろうと。 「静夜」 そう、声をかけようとした瞬間。 瑠璃の瞳が自分を見た。
「おかえり」
瑠璃が優しい輝きのまま、微笑んだ。 三蔵は彼女の言葉に頷く事で返すと、その隣まで歩いて行き、座った。 「こんな時間に何してやがる」 三蔵が言えば、彼女は笑った。 「こんな時間って、まだそんなに遅くはないだろ?」 「この前までしんどそうにしてた奴がなに言ってんだ」 「ついこの前までって…もう半年近く前の話じゃねぇか…」 三蔵の言葉に静夜が苦笑を浮かべると 「なあ?」 自分の腹を見て同意を促すように優しく撫でた。 静夜の撫でる仕草を見てつぶやくように言った。 「デカくなったな」
彼女の中には、命が息づいている。
しかも一つではない、二つの命。 もうすぐ、彼女は母となる。 そして、彼は父となるのだ。 母となる女は父となる男の言葉を聞いて笑った。 「そりゃもう臨月だからな。双子じゃなかったらもう少し小さいんだろうけど…」 悟空が日に日に大きくなる腹を見てスゲェスゲェと言っていたのを思い出したのか、彼女の笑顔は少し楽しそうだ。 「…さっきの」 「ん?」 三蔵はしばらく自分の腹を撫でていた静夜を見ていたが、何かを思い出したかのように小さく口を開いた。 「さっきの歌はなんだ?」 「歌? ああ」 三蔵の問いに静夜は一瞬首を傾げたが、すぐに何の事なのか解ったのは、頷いた。 「あれを聞くのは初めてだっけ?」 三蔵は頷いた。 「正直言って驚いた。お前、子守唄を歌えたのか?」 そう、彼女が歌っていたのは子守唄。 母親が子供を癒す、優しい愛の形のひとつ。 「まあな。今までいろんなところに行って聞いてきたし…それになんとなく思い出せるんだぜ」 静夜は笑っていた。 その顔は今まで見ていた彼女のものとは違う。
母の、顔。
「何でだろうな。昔の事なのに、自分が母親になったせいかな? 思い出せるんだ。母さんが歌ってたの」 そっと自分の腹を撫でる。 「不思議なもんだよな」 「…だが、悪くはない」 「……うん」 二人は互いに顔をあわせる事なく月を見上げた。
欠けていない月をどのくらい見ていたのだろう。 「もう一度」 声が聞こえてきた。 「はじめから歌え。続きが聞きたい」 静夜は声の主を見るが、彼は月を見ている。 「人にものを頼む言い方じゃねえよな」 その言葉はあまりに偉そうだが、とても優しく聞こえたのは幻聴ではないだろう。 だが、それを言える雰囲気でもないし。 静夜はしょうがないと三蔵と似たような口調で愚痴ってから、歌を歌った。 これから生まれてくる命にありったけの愛をこめて。
あとがき 拍手ありがとうございます! 最遊記で三静でした。
2006.12.20 |
それは、学校帰りの悟空と偶然に出会って久しぶりに肩を並べて歩いている時の事だった。 ぴたり。 悟空が急に足を止めたのだ。 久しぶりの再会で話が弾んでいたというのに、悟空のいきなりすぎる行動に天蓬も思わず足を止めた。 「悟空?」 天蓬は立ち止まってしまった悟空を訝しみ、彼の方に視線を向けると今度は目を丸めてしまった。 悟空が立ち止まっている処は、花屋だったのだ。 あまり悟空のイメージと結び付け難いその花屋で彼はとある花を、それは真剣に見詰めていた。
色とりどりのカーネーションを。
悟空は暫くカーネーションをジッと見詰めていたが、そのうちに小さく溜息を吐くと天蓬の事を思い出したのだろう、 大慌てで彼の傍に戻ってきた。 「ごめん、天ちゃん! 急に立ち止まったりして」 目の前で両手を合わせて謝ってくる悟空に、天蓬はにこりと笑って首を横に振った。 「謝らなくてもいいですよ。急に立ち止まったのには驚いちゃいましたけど…。 でも悟空、どうしてカーネーションを見てたんすか?」 ごく当然な天蓬の問いかけに、悟空は一瞬ウッと息を詰まらせる。 「そ、それは…」 「それは?」 天蓬がにこやかな笑みを浮かべたまま悟空に視線を合わせていくと、悟空の頬がだんだん淡い桃色に変わって行く。 「えーっと………天ちゃん」 少し、小さい声で天蓬を呼ぶ悟空に、 「はい」 彼は柔らかく頷いた。 「これ、誰にもナイショな」 桃色に染めた頬のまま、悟空は実に照れ臭そうに口を開いた。 「太姉ちゃんに似合うカーネーション、探してるんだ」 悟空の言葉に天蓬は目を見開く。 「カーネーション? 太真にですか?」 「うん」 しっかりと悟空は頷いて、チラリと後ろを振り返った。 視線の先は、さっきまで見ていたカーネーション。 「ほら、もうすぐ母の日だろ…だから」 「…ああ」 天蓬はようやく合点が行き素直に頷いた。
悟空にとって、自分を引き取ってくれた金蝉は当然の事。 その時すでに傍にいた太真にもとても懐いていた。 年齢的には母親と言うよりも姉なのだろうが、誰よりも幼い悟空を慈しみ、愛していた太真の姿はまさしく母と言っても過言ではなく。 悟空にとって、太真はとても大切な女性なのだ。
「太姉ちゃんの誕生日とかもスッゴイ大切だけどさ。 なんていうか…それだけじゃ、ありがとうって伝えきれないって言うか…」 まだ少し照れ臭いのだろう、悟空は頬を掻いていた。 「だから母の日に?」 照れながらも太真を思う悟空の心に、天蓬も優しい笑顔を浮かべる。 それに気付いていない悟空は、しっかりと頷いた。 「ありがとうって言える日は多い方がいいなって、オレ思ったから」 悟空の金晴眼はどこまでも澄んでいて…どこまでも純粋に輝いてる。 後二年ほどで成人を向かえるとは思えない、その純粋な光に天蓬は思わず目を細め。 「悟空は本当に良い子ですね」 悟空の頭にポンと手を置いて優しく撫でた。 幼い頃によくされた動作に悟空は一瞬固まったが、そのうちに気持ちよさそうに目を閉じた。 三、四回くらいゆっくりとした動作で頭を撫でた天蓬は、優しい動作で悟空の頭から手を放すと目を開けた悟空の目をしっかりと見た。 「悟空はどんなカーネーションがいいんですか?」 そう聞いてくる天蓬に悟空は首を傾げて、嬉しそうに目を輝かせた。 「天ちゃん、手伝ってくれんの!?」 キラキラと目を輝かせる悟空に天蓬は笑いながら頷く。 「ええ。今日の悟空の門限までですけどね。折角ですから手伝いますよ」 「サンキュー天ちゃん!」 本当に嬉しそうが悟空を見て天蓬は笑みを深める。 「どういたしまして。それで、悟空はどんなカーネーションが欲しいんですか?」 再び先程と同じ事を聞きながら歩き始めた天蓬に、悟空も嬉々としながら答えつつ歩き出した。 「ホントは真っ赤とかがいいんだろうけど、でも太姉ちゃんのイメージじゃないんだよな。やっぱりピンクとか薄紅とか…」 「確かに、太真にはパステル系ですね…何件か花屋をまわって見ましょう」 「おう! ………あ、でも」 先程まで嬉しそうだった悟空が少しだけしょんぼりと表情を曇らせる。 「どうしました?」 「ちょっと、今更なんだけどさ…。 太姉ちゃん、まだお母さんになってないのに母の日だってカーネーションあげて、怒らないかな…」 今更ながら、太真へ母の日の贈り物をする事への戸惑いを感じ始めたのか、悟空の表情は少しずつ沈んでいく。 天蓬は今までそれに気付いていなかった悟空の言葉を聞いて、一瞬呆れてしまった。 しかし、それもまた悟空らしくて、天蓬は大丈夫だと声をかける。 「大丈夫ですよ。きっと悟空からありがとうと言われて、太真は凄く嬉しくなる筈ですよ」
太真に似合うカーネーションと感謝の言葉を悟空が手渡せば。 きっと、彼女は嬉しく微笑むに違いない。 誰もが愛する、あのふわりとした笑顔を。
その瞬間を天蓬は想像し、きっとそのようになるはずだと悟空に言えば。 太真が大好きな悟空は安心したように笑ったのだった。
Fin あとがき 拍手ありがとうございます。 最遊記現代パラネタで悟空と天蓬でした。 外伝組は現世組より年上設定なので、悟空を幼少期(外伝で言うところのチビ)から見ていたのです。 そのため、現世組と違って悟空の事を自分たちの子供のような視線で見る事が多いのです。 2007.5.11
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