いつものようにジープで暑く照り付けている荒野を駆けているのは一際目立つ5人の人物。

今日もハリセンの音が響くかと思いきや、どうやら違うようだ。

「静夜の髪ってさ、ホント不思議だよな」

 

 

Blue

 

いつもなら、悟浄と騒ぎ立て三蔵のハリセンを食らっているはずの悟空が珍しく静夜の髪を見つめていて、こんなことを呟いた。

その科白の静夜はおろか、他の3人も呆けたような表情となる。

「…不思議って、どこが?」

悟空の呟きの発端となった静夜が先に我を取り戻し、悟空の顔を覗き込んだ。

その動作で彼女を彩る青い髪がサラサラ動いた。

青というより濃紺に近い髪を見て悟空が答える。

「よくわかんねぇけどさ、なんか、不思議な気分になる」

「あたしの髪の色?」

「たぶん、そうだと思う」

 そっと手を伸ばし、髪の触れる。

朝、よほど疲労が溜まっていたのか、静夜は出発ギリギリに起きたらしく、まともな準備が出来ずにジープに乗り込んだ。

そのせいで、いつも結んである髪がそのまま下ろしてあった。

手に触れた先の髪もサラサラと流れていく。

「青の髪なんて珍しいからな」

 自分の髪を一房つまんで静夜は笑った。

「何でそんな色してんだっけ?」

「おい、サル。んなことも忘れたのか?」

「なんだよ、悟浄。じゃあお前は覚えてんのかよ!?」

「そ、そんなの当たり前じゃねーか!」

「嘘だな…。なんだよ自分だって分かんないくせに!!」

「なんだと、この大バカこざる!」

「うるせー! 触覚ガッパ!!」

「誰が触覚だ!!」

「うるせえ!!」

 ズガン!! 一際大きいハリセンの音。

仲良く叩かれた個所を抑える2人を見て笑うのは八戒。

「あはは…。相変わらずですねぇ。静夜の髪が青いのは一種の遺伝みたいなものですよね」

「そんなところかな」

 髪を摘んだまま頷く静夜。

「前にも言ったと思うけど、あたしの生まれた村の人間は皆青い髪をしてたんだ」

「あ! 思い出した! 青い髪って女の人が多かったんだよな」

 手のひらをぽんと叩いて悟空が聞いてきた。

「そっ! 昔話であたし…たちの祖先は天界から降りてきた天女の末裔だってことになってるんだ。

その天女の髪が青かったってことでウチの村の女の人は皆青い髪の人が多いんだって。

でもさ、そんなものは御伽噺だから、あんま本気にすんなよ」

「…御伽噺、なの?」

 悟空が怪訝な顔で聞いてくると、静夜はあっさりと頷く。

「当然。大体天女がいちいち下に降りてくるなんて、そんなことあるわけないだろ?」 

「ま、そりゃそうだな」

 悟浄が頷き返す。

「そうかな〜〜?」

 悟空は頭をひねる。

どこかで見たことあるんだけど。

 

 

アオい髪

静夜の髪より明るい、青の髪

風と桜にゆれてサラサラと…

 

「どうした、悟空?」

 静夜が悟空の前で手を動かした。

悟空が驚いたようにバッと静夜を見た。

その驚いた顔が可笑しくて静夜は吹き出した。

「ど、どうして笑うんだよ!!」

「ご、ごめん…。で、でも……あはははは……!!」

 一度笑い出したらしばらくは止まらない彼女を見て悟空は頬を膨らます。

「静夜!!」

 顔を赤くして大声を出した悟空を見て、よほど可笑しかったのか、悟浄も笑い出す。

「なんだよ、悟浄まで!!」

 悟浄だけでなくおまけに八戒と三蔵までもが笑っている気配を感じた。

もう恥ずかしくてたまらない悟空は頬を膨らましたまま不貞腐れてしまった。

しかし、笑っている静夜の髪を見て表情が元に戻る。

「でも、静夜の髪って不思議だけど、綺麗だよ」

 悟空のポツリと呟いた言葉に静夜は笑いをとめる。

そして、悟空を見つめた。

「三蔵の髪も悟浄の髪も綺麗だけどさ、静夜の髪も綺麗で、俺好きだよ」

 太陽の色をした、三蔵。

燃え盛る炎のような色をもつ、悟浄。

なら、静夜は…?

「静夜の髪ってさ、夜空の色みたいなんだもん」

 月を美しく映えさせる夜の空の色。

見るだけで、落ち着いてくる、不思議な色。

言葉で伝えなくとも、静夜には悟空の思っていることが分かったのか、そのうちに微笑んで頷いた。

「ありがとう悟空。あたし、そう言われるのが一番好きなんだ」

 ジープの走行でおこる風にのって濃紺の髪はサラサラとなびいていた。

今まで暑かった風がそのときだけは、涼しく思えた。

 

 

Fin


くたばれあたし…………。 

静夜「まったくだ。って言うか、なんでこうも悟空が多いの?」

4月だから、悟空月間というところで。

静夜「あっそ…。ってじゃあ11月はきついな。三蔵と悟浄同じ月だから」 

はうわ!! Σ(@ロ@)ま、まずい!?

静夜「しらねー」

 

2001.4.5

 

 

 

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