嘘を吐いたあなたに罰を与えるわ

それは、報いよ

 

 

 

Animal Trail

 

 

 

「八戒、どうしたのさ?」

 静夜がいぶかしげに聞いてきた。

ここ一週間、八戒はどこか上の空だった。

運転しているときでも、心ここにあらずでもう少しで木にぶつかりそうになるなんてことはざらで。

宿についても八戒の上の空は消えず、イライラしてきた静夜は直接本人に聞いてみることにした。

「ここんところずっと心あらずって感じなの、気付いてないだろ?」

「え、そうですか?」

「…やっぱり」

 大きく息を吐いて静夜はベッドに腰掛けている八戒の隣に座る。

「ホントにどうしたんだよ?」

「なんでもないですよ、ただ秋ですからね。哀愁を感じてしまうんです」

「…嘘はもっとマシなのにしとけよ。八戒がどうしてこうなのか、大体想像つく」

 静夜は少し黙ってからこう言葉を放つ。

「清一色を倒す前の八戒」

「…………!!!!!」

 バッとものすごい勢いで静夜を振り返る八戒。

「あれだろ? 花喃さん」

 驚く八戒にそう言って、静夜は申し訳なさそうに目を伏せた。

「ごめん。余計なこと言って」

 

 

八戒がいくら清一色の、過去の呪縛から放たれても、決して消えない思いがある。

この世で愛していた恋人への想い。

 

 

 

「いいですよ。静夜の言ったことは本当ですから」

 八戒はにこっと笑った。

そして、悟空と三蔵には言ってないんですけどね、と前置きをして話し出す。

「花喃と僕は実は双子だったんです」

 静夜は相槌を打たずに聞いていた。

きっとそれが一番いい方法だから。

「双子ですからね。誕生日も一緒なんですよ」

「あ……」

 小さく声をあげる。

「そういうことです」

 静夜の言わんとすることが分かって八戒は薄く笑った。

「……そっか。誕生日なんだよね、今日」

 

 

 

だから、あんなに苦しそうだったのか。

愛する人と一緒だから。

いやでも思い出すから。

 

 

 

「三蔵にも分かっちゃってますね」

「悟浄も気付いてるよ…って言うか、みんな気付いてる」

 八戒が元気ないのは誕生日だからだって。

花喃と同じ生まれた日だからだって。

「困ったなぁ」

 本当に困ったように八戒は苦笑いをする。

「僕は確かに過去を振り切りました。でも、やっぱり、彼女を助けられなかったのは事実ですから」

 静かに目を閉じた八戒に静夜はしばらく黙っていた。

そうしてそっと立ち上がると、彼の前に立つ。

ケモノ            ミチ

「八戒。Animal Trail って歌、知ってる?」

 

ケモノ            ミチ

「Animal Trail? ですか?」

「うん」

「ああ。確か、ラジオで流れてましたね。それがどうかしたんですか?」

「それ聞いたときさ。なんだか…」

「なんだか?」

「花喃さんのこと歌ってるみたいだった」

「えっ?」

 

西への旅を始めてそんなに経ってないとき。

ジープのラジオで聞いた歌。

 

 

 

たどり着た先に見せつけられたのは

最期まで続くだろう、悪い夢

 

 

「そのあたりのフレーズんとき、八戒痛そうな顔したの、覚えてる」

「そこじゃないですよ」

「え?」

「僕が痛いと思ったのは2番の最後のフレーズです」

八戒は自嘲的な薄い笑みを浮かべた。

「あの時は、本当に驚きましたよ」

 

まるで自分のことを歌っているような、そんな歌。

 

腹に残っている傷は雨に疼き

愛しい花は毒に犯され

刃を抜いた

 

あまりに痛くて

顔をしかめた。

 

「それ、最後のフレーズじゃないわよ」

 今度自分が驚く番。

「歌ってみる? 最後の詞<コトバ>」

 そう笑った彼女はとても暖かだった。

 

 

嘘をついたあなたに罰を与えましょう

月の光のように永遠に消えない傷を

でも、忘れないで

あなたはわたしを愛してくれた

だからその報いに

あなたの生きる先を

ずっと見守っていくから

 

 

 

 

「そうも言えないかな?」

 静夜は優しく笑う。

八戒はそんな静夜を見て苦笑した。

「まったく、貴女は…」

 

どうしてそう…人の心を軽くさせるんでしょうね。

 

「ありがとうございます」

 八戒がそういった次の瞬間。

 

パーン!!

 

「八戒! 誕生日おめでとう!!」

 クラッカーの音と共に悟空の声。

驚いてそっちを見ると嬉しそうな悟空と不機嫌そうな三蔵と悟浄がいた。

どうやらクラッカーの音が耳に響いたらしい。

「皆さん、どうしたんですか?」

「何言ってんだよ! 八戒今日誕生日なんだろ? だからこうしてお祝いにきたのに。

それにさ、八戒ここんところ元気なかったからこれで思いっきり元気付けようと思って!」

 悟空が頬を膨らましてから笑顔になる。

当の本人は悟空の言葉に目を丸めたが、それでも、次第ににっこりと悟空に笑みを返す。

 

 

 

 

 

「本当に、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

花喃

 

 

おめでとう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

八戒、誕生日おめでとう!!!!!

八戒「ありがとうございます」

悟浄「しっかしこれ書いたのは一年前だろ?」

ギク!!!

悟空「で、誕生日に間に合わなくて一年間保留にしてたんだよな?」

…………はい。八戒ごめん。

八戒「いいですよ、去年は大変だったんですから」

あ、ありがとう…

三蔵「でもな」

三蔵「他の連中のヤツもきちんと祝ってやれ」

………………………………。

さらばじゃ!!!

『…………ハア』

Image Song/ Cocco 『けものみち』

 

2002.9.20

改稿 2005.11.6

改稿その2:2008.5.16

 

 

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