The Famous Girl

 

 

 なぁんか、痛いんですけど。

 ユフィは眉間に浅い皺を作りながら思っていた。

 彼女が今いるのは、とある町。

 宿で一泊しているので、当然ユフィ自身が怪我を負っている訳ではない。

 彼女が痛いと思っているのは、視線。

 そう、ユフィは先程から突き刺さるような視線を数箇所から受けている。

 コレが自分に注目しているものであったなら、まあまだ許せる。

 しかし、そうではないのだ。

 ユフィはとばっりちを受けている状態に等しい。

 眉間の皺をさらに深めて、ユフィは自分から二、三歩前に居る三人を睨むように見ていた。

 

 視線の先には三人の少女。

 しかも美人。

 いや、そのうちの一人は美人というよりも可愛いのかもしれない。

 まあこのユフィちゃんには及ばないけどね!

 とユフィは思っているとか、いないとか。

 どうやらユフィは綺麗系ではなく可愛い系だと自覚している模様。

 ―――ユフィの考えはさておき。

 とにかく、目立つ三人が目の前に立っている。

「これなんかどう?」

「そうですね…、こっちの方が似合うと思いますけど?」

「そう? 私はあっちの方が、好きかも」

 どうやら、小物を売っている店を覗いているらしい三人はそれぞれ髪飾りならなにやらを手にして、自分で付けたり相手に付けたり。

 楽しそうに騒いでいる。

 笑いながら話している姿はまさに仲の良い友人といって良いだろう。

 見ていれば、ほんわかと和む三人を、周りの人間はジッと見つめている。

 ユフィが感じている視線は、実はこの三人を見る周りの人間。

 確かに見目麗しい三人が楽しそうに笑っているのだから、注目を集めるのも無理はない。

 しかし、三人を見つめているだろう人々の視線の多くは、三人のうち一人を見つめている。

 ユフィが自分と同じ可愛い系であるだろうと思っている少女。

 笑う彼女の顔を見て、人々は小声で何かを喋っているのを、見ずともユフィは感じていた。

 先程からユフィを巻き込みながら突き刺してくる視線の行き先。

 淡い金色の髪が陽の光に当たってキラキラしている。

 ユフィは、溜め息を吐いた。

「確かにね、アタシも初めて見た時はビックリしたけどさ。みんなの気持ちは解るけれどさ…」

 この視線の痛さは何とかできないものかと、もう一度溜め息を吐く。

「ユフィ、どうしたんですか?」

 視線の的がユフィの溜め息を聞き止めたらしく、振り返った。

 アクアマリンの瞳が心配そうに自分を見ているので、ユフィは手を軽く振った。

「だいじょーぶ。なんでもない。心配しないで、ナディア」

 ナディアという名前の視線の的はユフィでも気付く痛い視線に気付いていないのか、小首を傾げている。

「そうですか、平気なら良いんですけど…」

 ジッとユフィを見つめるその顔はまさしく、彼の存在にとてもよく似ている。

 名前からして同じっていうのが、もうダメだと思うんだよねぇ、ホントどうすればここまで良く似るんだろ。

「あの!」

 ユフィの思考を遮るかのように、声が聞えた。

 緊張に震えた大きな声に、二人は驚いて声のかかった方を見ると。

 二人組の少女が立っていた。

「あ、あの…」

 ギュッと両手を握り締めた少女が、興奮を押さえるためかどことなく震える声で、ナディアを見つめて聞いた。

「あの! 歌姫のナディア・ディマンドさん、ですか?」

 その言葉にユフィはヤッパリと軽くこめかみを指先で触れた。

 ユフィが隣にいるナディアと似ていると思っていた存在。

 この世界にいる殆どの者がその名を知らぬ程の歌姫。

 一緒に旅をしている彼女は本当に、歌姫に良く似ているのだ。

 いつか間違えられて声をかけられるのでは、と思っていたが。

 まさか本当に来るとは。

ユフィの聞えない思いを他所に、期待と緊張に揺れる少女二人組を見て、ナディアは一瞬目を見開いたあと苦笑を浮かべた。

「違いますよ、ごめんなさい」

「えー!!」

 少女二人が声を上げた。

「うっそー! すっごく似てるのにぃ!」

「わかる! 本当にソックリ」

 間違いだったはずなのにそれでも尚興奮する二人に、彼女は困ったように笑っていた。

「よく言われます。今度ご本人にお会いする時があったら、比べてみると良いかもしれませんよ」

 二人はすんなりと頷いていた。

「そうします! あ、間違えちゃってすいませんでした。行こう!」

「うん! 今度は間違えないようにしますね!!」

 それにしても本当にソックリだったよね!

 今度ライブいつだったっけ、近くで見れれば良いなぁ。

 キャーキャー言いながら去っていく二人を見つめていると、周りの人々の視線も離れ始めていた。

 本人かどうか解らないから見ていたのであって、正体が本人で無いと解れば見ている必要もなくなるということなのだろう。

 視線がほとんどなくなった頃、

「お疲れ様。ディア」

 ほう、っと息を吐くナディアの肩を優しく叩かれた。

「エアリス、ティファ」

 肩の力を抜いて安堵の表情を浮かべるナディアはエアリスを見て気の抜けた笑顔を見せた。

「さすがに手馴れてるわね」

 苦笑を浮かべながらティファが言うとナディアはコクリと頷いた。

「何回も同じ事をしてますからね。慣れてきますよ」

「それにしても、本当に人気者、だね」

 笑うナディアにエアリスが楽しそうにコロコロ笑う。

 …ん?

 エアリスの言葉に、ユフィはどこ引っ掛かりを覚えた。

 人気者なのは、歌姫であって目の前の存在ではないはず。

 確かに歌姫と似ていてよく声をかけられるのであれば、確かに人気とも言えようが。

「その人気者が、こんな所にいるなんて想像もしない人が多いんですよ。だからよく似た人違いですって言えば、大抵は退いてくれるんです」

 ユフィの疑問など知る由もないナディアがこれまた引っ掛かる言葉を言っていた。

 それはまるで、歌姫本人であるかのような口ぶり。

「なるほど」

 ティファが感心しているのか、深く頷いている。

「確かに、有名人が自分の身近にいるって普通は考えられないわよね。どこか遠い存在みたいに思うもの。それを逆手に取ってるのね」

「本当は、すぐ近くにいるのに、ね。不思議」

 エアリスがナディアを見つめれば、彼女は困ったようにもう一度笑った。

「本人がこんな所にいるなんて知られたら、皆と一緒に旅なんて出来ませんよ」

「それもそっか」

 うんうんと納得したエアリスはナディアと顔を見合わせると、クスクスと笑い合った。

「……ねえ」

 ユフィの硬い声が三人の耳に届く。

「どうしたの、ユフィ?」

 ティファがユフィに近付くと、彼女は微かに震えていた。

「ユフィ?」

 訝しげにユフィを見ているティファに気付いていないのか、ユフィは震える声でナディアに問うた。

「さっきから聞いてると。ナディア、あんた…ホンモノ?」

 ナディアの答えは、実にシンプルだった。

「ええ。あれ? もしかして教えてませんでした?」

 

 

「ウソーーーーーーーー!!!」

 ユフィの絶叫が響き渡った。

 

 

 

 

 絶叫したユフィを何とか宿まで連れ帰る事に成功した三人。

 あれでまた人が集まったらとんでもない事になっていたかもしれないと思い、思わずエアリスたちは溜め息を吐いた。

 そして、ベッドの上で呆然と座っているユフィを見つめる。

「えっと…ユフィ、ごめんなさい。隠してたわけじゃないんですけど。もう皆解ってたから、スッカリ説明するの忘れてたって言うか…」

 一応謝罪と説明をするべく、ナディアが声をかける。

「……今までソックリさんだって思ってたんですね?」

 聞けば、ユフィは頷いた。

「名前、教えた時点で解ったと思ってたんですけど…」

「………同じ名前だって思ってたんだよ!」

 半ば逆切れするかのようにボスンと、ベッドを叩いたユフィであったが。

「ファーストネームはとにかく、ファミリーネームまで一緒って言うのは、まず無いと思うんですけど」

 私のフルネーム珍しいから、と冷静に答えられてしまい、ユフィは枕に突っ伏して顔を埋めた。

「だって、星の歌姫だよ。そんな凄い人が、まさか身近にいるとは思わないじゃんかフツー。

そうじゃなくてもアタシもファンなのに、本人目の前とか本当に無理。ってかもう目の前にいて一緒に旅してるんじゃん。あーもー」

 くぐもった声で目の前にいる歌姫のファンであることを暴露しつつ混乱しているユフィ。

「まさしく、さっきの子達と一緒だったのね」

「ブラウン管の世界は遠いから、まさか身近にいるとは思わなかった。そういうこと」

 混乱のあまり言うべきか、驚きのあまりどう対処して良いのか解らないと言うべきか。

ベッドに倒れたユフィを見てティファとエアリスは感慨深そうに呟き合う。

 もそりと、ユフィが動く気配がして見れば。

 ユフィが枕から顔を上げてティファとエアリスを見つめていた。

「っていうか、二人は解ってたの?」

 もそもそと口を開いたユフィに二人は頷いていた。

「私たちはもともとミッドガルにいたし。

ディアには発売前の歌、何度か聞かせて貰ってたし。歌うところも何回かメディアで見てるから一回も疑ったこと、なかった」

 これはエアリス。ナディアと長年の友であるからこそ出来る業である。

「私は最初、ユフィと同じで驚いて信じられなかったんだけど。クラウドが間違いないって。私も歌うところ実際に見せてもらったし」

 これはティファ。そういえばクラウドも歌姫のファンであったし、実際に聞けば間違いは無いだろう。

「あー…」

 エアリスとティファの話を聞いて、ユフィは再び顔を枕に隠した。

 解らなかったのは自分だけかと思いつつ、それに気付かなかった自分はまだまだだと思っている。

 そのとき、ふとユフィの頭にある事が過ぎった。

 ユフィはもう一度枕から頭を離し、目の前にいる歌姫を見た。

「ユフィ?」

 真っ直ぐに自分を見詰める視線にナディアは目を瞬かせる。

「ねえ」

 ユフィが口を開いた。

「アンタみたいな人が、どうしてクラウドや皆と一緒に旅に出てんの?」

 世界に知らぬ人など殆どいないだろう、人々に愛される声を持つ歌姫。

 そんな彼女が何故、ある意味過酷になるだろう旅に身を投じているのか。

 純粋な疑問を問いかければ。

 ナディアは柔らかく、しかしどこか決意を現しているかのような強い笑みを浮かべた。

「本当を見つけに行くためです」

 本当、と言うのがユフィにはいまいち解らなかったが、ナディアの決意の強さだけは届いてきた。

 だから、

「じゃあ、頑張んなきゃね」

 軽い口調で言ったならば。

 世界で有名な少女はにこりと笑っていた。

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

何か中身が無い話になっちまった感がι

ナディアの有名人っぷりを書きたかっただけといえばそう(おい)

ファンに声をかけられて、違いますよ似てるって言われるんですと言う、ある意味お約束を書いてみようかなと。

実はユフィも最初はナディアが歌姫だと知らなくて同名のソックリさんだと思ってました。

で、この話で一気に素性が解ると言う。

私の中でユフィはコンドルフォート付近の森で仲間になっている設定です(エンカウント率低くて苦労したな、そういえば)

ミッドガルから一緒のメンバーは知ってるけど、後のメンツは…どうなんだろう?

シドはユフィと同じことになりそうだ、今回の反省を生かして自己紹介のときに言ってそうだけど。

ヴィンセントは今までずっと寝てたから、あんまり関係ないか。逆に有名なのに驚いて納得しそう。

それにしても、ここはどこの町だという(笑)

コスタ・デル・ソルにしようかと思ったんだけど、あそこは皆してバラバラだから(笑)

ゲームには出てきてない、普通規模の町だと思っていただければと思います(投げた)

 

 

 

 

2008.2.27

 

 

 

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