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いつから?/クリスマス・イヴのご予定/今年の目標/恋歌/思い出カーネーション/
「そういえば…」 コンサートが始まる少し前、慌しい外の喧騒など気にも留めていないのか、ナディアはふと思い出したかのように控え室の入り口に立って いるクラウドを見上げた。 「?」 なんだと視線を向けるクラウドは神羅兵のメットをかぶっている。 控え室にはナディアとクラウドしかいないのだから外してくれても良いのに、とナディアは心の奥底で無意識に思いながらにこっと笑った。 「クラウドはいつ、私のファンになってくれたんですか?」 「えっ……ああ」 急な歌姫の質問にクラウドは一瞬固まるがすぐに納得したように頷くと、初めて出会ったときのことを思い出しているのだろう決まり悪そうに、 口の端を上げた。 「誰にも言わないって、約束してくれるなら」 「ええ」 決まり悪そうな笑みの中に照れ臭さを感じ取ったナディアは微笑みながらこくりと頷いた。 頷いてくれたナディアにクラウドはありがとうと感謝を告げると今度は照れ臭さを前面に出しながら話し始めた。 「ニブルヘイムを飛び出して、神羅に入ったまでは良かったんだ。 でも入ってから少ししてだんだん不安になってきて」 「不安…? ホームシックですか?」 ナディアが小首を傾げて問う。 彼が神羅に来たのは14のときだと聞く。 ちょうど親に反発しつつもはやり親元を離れることに不安を感じる年頃である。 クラウドもそうなのかと首を傾げると彼はかぶりを振った。 「いや…確かにそれもあったんだろうけど…。 なんて言うか、言い表せない漠然とした不安に包まれてたって感じだな。 きちんとやってけるのかソルジャーになれるのか、とかいろんな不安が圧し掛かってたんだと思う。 それでどうしようって町をふらついてたそんな時にディナの歌が偶然耳に入ってきてさ」 街に取り付けてあったスピーカーから流れる、優しい旋律。 聞いたその瞬間、とても懐かしい気持ちになった。
まるで母親の子守唄のように、抱き締めてくれる腕のように暖かくて。 大丈夫だよ、頑張れ、と囁くようで。
心の中にあった漠然とした不安がいつの間にか消えていた。 そして心に残ったのは、自分なら出来るという自信と覚悟。 クラウドは自分を力付けてくれたこの歌を歌った存在に心から感謝したのだ。
「次の日から金が溜まったらCD買ったりザックスと知り合ってからはアイツに借りたりとかしてずっと聞いてたんだ」 クラウドがそのときを懐かしいなと呟きながら言う。 「ディナの護衛を依頼されたとき正直緊張したよ。ずっと憧れてた歌姫に会えるんだって…そんな人だろうって思って。 実際に会った時は本当にビックリしたな」 クラウドはナディアと初めて会ったときのことを思い出しているのだろう苦笑を浮かべている。 歌姫も彼に釣られて苦笑を浮かべた。 「まさかこんな子供だとは思わなかった?ですよね。あそこまで硬直されるとは思いませんでしたけど」 苦笑がくすくすと笑い声に代わる。 楽しそうに笑うナディアを見てクラウドはそれでも、と言葉を発する。 「ディアの歌のおかげで今俺はここにいる。あの歌が俺に力をくれたんだ。初めて聞いたあのときから、俺はディアのファン」 納得したか? と直接見えないメット越しにある彼の青い瞳はきっと穏やかに光っているのだろう。 やはり直接顔を見たかったなとナディアは無意識に思いながら嬉しそうに微笑んだ。 「ありがとうございます。クラウド」
コンサートが始まるまであと5分。 もうすぐ自分を呼びに来るだろうマネージャーが来るまでクラウドとナディアの間にはどこかふんわりとした空気 が広がっていた。
Fin あとがき 拍手ありがとうございます。 FF7よりクラウド←ナディアSSでした。
2005.12.6 |
仕事ですよ。 ここ一週間前からメディアや同業者から何回も聞かれた質問にナディアは微笑みながら同じ答えを繰り替えして いた。 そして、目の前にいる青年にも彼女はにこやかに笑って答える。 「二年前はちょっと仕事放棄してたんでやりませんでしたけど、メディアに出るようになってから毎年24日にはクリスマス・ライブをやっている のはクラウドも知っているでしょう? もちろん今年もやりますよ。 私を『運んで』くれるように依頼をしたのを忘れたんですか?」 「いや、忘れたわけじゃないんだけど…」 ニコニコと笑うナディアとは正反対にクラウドは困ったように言葉を濁す。 その表情にどこか焦りがあるのを当然ナディアは気付いていた。 歌姫がとある神羅兵に一目惚れして7年。 紆余曲折を経て歌姫としては奇跡をしか言いようも無い幸運に恵まれ、歌姫と神羅兵は恋人となった。 想いを重ねて初めてのクリスマス。 色々考えていたのだろう青年の焦った表情の理由も解っているナディアは嬉しいと思いつつ笑みを浮かべたままクラウドに話しかけた。 「ライブは今年もお昼に始まって夕方には終わりますよ。何も心配することは無いと思うんですけど?」 クリスマス・ライブは夜に予定のある人たちのために昼に始まり夕方に終わるというのが決まっている。 ナディアの言葉にクラウドはそうではないと首を横に振る。 「それは毎年聴きに行ってるから知ってる。俺が言いたいのはディアの予定だ。ライブが終わったら打ち上げがあるんだろ?」 毎年ライブの後にライブにかかわった人々が集まって打ち上げをし、それが夜遅くまで続くのをクラウドはしっかり知っている。 憮然とした表情で言うクラウドにナディアは楽しそうに笑った。 「ところが今年はそうでも無いんです」 「…?」 どういうことだと視線で訴えるクラウドにナディアは声を弾ませる。 「今年はライブが終わってすぐに私を大切な人のところへ『運んで』くれるように依頼してあるんです」 「……!」 驚くクラウドの表情にナディアはとても楽しそうに笑顔を浮かべる。 「しかも依頼料は前払いで、ライブの特S席を渡してあるんです」 クラウドはしばらく呆然としたようにナディアの前に突っ立っていたがそのうちにガシガシと頭を掻いて、静かにナディアに問う。 「依頼はキャンセル可能か?」 「キャンセルしたいんですか?」 「まさか」 クラウドはイタズラが成功したように意地悪く、しかし嬉しそうに笑うナディアに向かってゆっくりと頷いた。 「その依頼、お受けいたしましょう。歌姫殿?」 クラウドの表情は穏やかで。 ナディアは本当に嬉しいと笑う。 「よろしくお願いしますね」
クリスマスの予定は、とても素敵なものとなるだろう。
Merry Christmas!!
あとがき 拍手ありがとうございます! FF7 ADVENT CHILDRENでクラウド×ナディアでした。 2005.12.23 |
「歌手業をやめられますように」 「…またそれか?」 「いけませんか?」 「ディアの一ファンとしては複雑なところだな」 「私としてはそろそろシルバーアクセサリーの彫金師を目指したいんですけどね」 「何でそんなに歌手を辞めたいんだ? 歌が嫌いってワケじゃ無いんだろ?」 「もちろん。歌は大好きですし、これからも歌い続けていきますよ。 でもそれを多くの人に聞かせるというのは、もうそろそろ良いんじゃないかって思うんです」 「……」 「私はもともと不安になっている人々や傷ついているこの星を元気付けるために歌ってきました。 でも今この星の災厄も去り人々を蝕んできていた星痕症候群も治せるようになりましたし…。 私の役目はそろそろ終わりだと思っているんです」 「ディア…」 「でも…」 「ん?」 「あともう二、三年は頑張ろうとは思ってますけどね。まだ情勢は不安定ですし」 「…そうか」 「はい。ところでクラウド」 「なんだ?」 「クラウドの今年の目標はなんですか?」 「俺か…?」 「はい」 「…考えてなかった」 「―――クラウドらしいですね」 「笑うな」
Fin
あとがき 拍手ありがとうございます! FF7ACでクラウド×ナディアでした。
2006.1.1 |
街のどこからとも無く聞こえてきた歌にエアリスはピタリと歩みを止めて上の方を見た。 歌の発生元は近くにあった大型テレビ。 そこには最近ようやくメディアに姿を現し始めた歌姫の姿があった。 月光色の髪にアクアマリンの瞳。 のびやかに美しい声で彼女が歌うのは、恋歌。 しかし、その歌から出ているのは決して幸せな恋の歌ではなく。 愛しい人の帰りを待つ、哀しい恋歌。 まだ十五歳になったばかりの少女が歌うにはあまりにも切なく哀しい歌。
最近、彼女はこう言う曲を歌うようになった。 いや、歌わざるを得ないと言った方がいいのかもしれない。 彼女はこうして想いを歌にする事で心の均衡を何とかして保とうとしているのだろうから。
エアリスは歌姫の笑顔を思い出して溜息を吐いた。 歌姫が自分に好きな人の話をしてくれた時、彼女はとても嬉しそうに恥ずかしそうに微笑んでいた。 片思いで、これからもっといろいろ話をしたりして仲良くしていきたいと語っていた彼女の相手。 彼は一年位前から行方が解らなくなっていた。 エアリス自身の初恋の人と共に。
時に一緒に泣いて、時に慰め合って。
その度に哀しそうに笑う彼女の表情は今ブラウン管の向こう側に映っている表情そのままで。 今まで優しく穏やかな歌が多かった彼女の新しい一面だと、評論家やメディアは彼女の恋歌を高く評価している。 当然、それに倣ってか街の人間も歌姫の新しい歌にますます心を奪われていく。 しかし、エアリスはそうは思わなかった。 思えなかった。
確かに切なくも美しい歌だ。
それは認めよう。 だけど、彼女はそんな歌よりももっと優しくて明るい歌が似合う。 哀しい恋歌よりも、幸せな恋歌を歌ってほしい。 「ナディア…。いつか、歌えるといいよね」
エアリスは微笑みながら恋歌を歌うナディアを切なそうに見上げたまま、呟いた。
あとがき 拍手ありがとうございました! FF7でエアリス視点のクラ←ディナでした。
2006.12.20 |
「クラウド。依頼の最中で申し訳ないんですが。別件の依頼をひとつ、頼まれてくれませんか?」 今日の分のライブが終わった時の事。 ナディアがとても真剣な表情でクラウドの声をかけていた。 彼女をライブ会場へ運ぶ兼彼女の護衛依頼の最中であるクラウドは、ナディア本人の急な依頼に目を見張った。 「ああ、別に構わないが…。どうしたんだ?」 何か心配事でも? と心なしか不安そうにナディアを見詰めて来るクラウドに彼女はふるりと首を横に振る。 「いえ、別にそんな深刻な事ではないんです。これを…」 そう言って、ナディアは今まで手にしていたモノをクラウドの前に差し出した。 「エッジにいる母に、届けて欲しいんです」 「これは…」 クラウドの目の前に差し出されたのは、カーネーションの花束。 真っ赤なものから薄いピンクまで色とりどりの色を付けるカーネーションを見て、クラウドはナディアを見た。 彼女の目はとても真剣な物のままだった。 「つい一昨日思い出して…慌てて花屋で買い付けたんです。でも、今はライブツアー中でエッジに帰る事が出来ません。だから…」 「俺に?」 クラウドが問えば、ナディアはコクリと頷いた。 「貴方なら、急がなくても母の日には間に合うと思って…」 ダメですか? 聞いてくるとナディアにクラウドは首を横に振った。 「いや大丈夫だよ。――でも、そうか…。母の日か…」 何処か懐かしそうに呟くクラウドを見て。 ナディアはふと、いつかの悲劇を思い出した。 「ごめんなさい…もしかして、思い出させてしまいましたか?」 とても申し訳なさそうに俯いてしまったナディアを見て、クラウドもかつての悲劇を思い出した。 しかし、それ以上に昔の暖かい記憶を思い出し、クラウドは笑った。 「ディアの謝る事じゃないさ。むしろ感謝してる」 目の前の歌姫を安心させるためにとても穏やかな口調で言えば、彼女は少し瞳を揺らしながらクラウドを見上げた。 「本当ですか…?」 心配で揺れるアクアマリンの瞳の中にいる自分を見て、クラウドは頷いた。 「ああ、あの時の事よりも昔の事を思い出した」 「母の日の、思い出?」 ナディアが聞くと、そうだとクラウドは答えた。 「昔は絵を描いたり、花を摘んで渡したりってやってたのに、神羅に行ってからしてなかったなって。 ディアが依頼をしてくれなかったら、もうすぐ母の日だってコトも忘れてた。だから、感謝してる」 クラウドの言葉を聞いて、ようやくナディアの顔に笑顔が戻ってきた。 「そうですか…それなら、いいんですけど」 ナディアの笑顔を見て、ホッと胸を撫で下ろすクラウド。 彼は口を開いた。 「依頼は引き受ける。…で、感謝ついでと言ってはなんなんだが…」 「はい」 ナディアが改めてクラウドを見ると、彼は少し頬を染めて聞いて来た。 「カーネーションのある花屋、教えてくれないか? あと、少し依頼に時間がかかるかもしれないんだが…それに関しては大丈夫か?」 ナディアは一瞬目を丸めたが、すぐに笑顔を浮かべて頷いた。 「はい、大丈夫です。花屋の場所は後で地図に書きますね。 依頼の時間については私の花束を贈っていただけたら、あとは気の済むまで使ってください。 二日間はここ近辺での移動だけなので護衛の心配はありません。 その間にカーネーションを買ってニブルヘイムへ行ってきて下さっても大丈夫ですよ」 ナディアにはクラウドの言いたい事が解っていたようで。 にこりと微笑むナディアに一瞬驚いていたクラウドだったが、ふっと薄く笑った。 「ありがとう、ディナ」 依頼に関してもだが、感謝したいのはそれだけではない。 母の日を思い出させてくれた、その感謝もきっと彼女は解っている事だろう。
Fin あとがき 拍手ありがとうございました! FF7でクラウド&ナディア(心持ちクラディナ)でした。 最初は結構シリアス系になってしまいそうで大変だったのですが、それだと長くなってしまいそうだったので大幅変更。 クラウドがちょっとお母さんっ子になってしまいましたが、この程度ならマザコンとは言わないでしょう。 むしろお母さん思いのイイ男だと思います。
2007.5.11 |