星が瞬く空の下で
囁くように聞こえてくるのは
世界を愛し世界に愛されている
歌姫の声
Diva
旅の途中、次の目的地へと辿り着く前に日が沈んでしまった。
夜の中でも先へと進むことは出来たのだが仲間たちの疲労を見た彼らのリーダーが野宿を決定した時には、すでに太陽が
完全に沈み月が新たな光を生み出し始めていた。
森の中、焚き火を囲んで各々に寛いでいると、ふと何かが聞こえてきた。
なんだろうと耳を澄ましたとたん、彼らの表情が穏やかになる。
緩やかに、優しく、囁くように
闇に浮かんだ月と話をするかの如く聞こえてきた旋律は聴くモノ総ての心を凪いで行く。
先ほどまでおしゃべりをしていた黒髪と栗色の髪を持つ二人の女性は互いに微笑み合いながら旋律に耳を澄ませ。
久々の野宿で落ち着かなかったのかそわそわしていた大柄な男はピタリと身体を動かすのをやめて肩の力を抜いて座り
直した。
焚き火の炎を見ていた獣は身体をうつ伏せて焚き火と同じく炎を灯す尾をゆったり揺らしながら目を閉じて旋律に聞き
惚れて。
仲間内でトラブルメーカーと密かに呼ばれている忍びの少女は近くにあった巨大モーグリのぬいぐるみに背を預け眠りの
準備に入る。
巨大モーグリの本当の持ち主も気持ち良さそうに風に乗って運ばれてくる旋律にあわせて耳を動かし。
仲間から少し離れた木に寄り掛かっていた赤いマントの男も目を閉じそのまま旋律の流れを追う。
短くなった煙草を携帯していた灰皿に捨てていた男もまたにやりと笑い新しい煙草を取り出しゆっくりとした仕草で吸った。
各々がそれぞれの胸に想いを乗せて旅をしていく中、何度この音に癒されたことだろう。
何度、勇気付けられたことだろう。
何度、心の奥底を締め付けられただろうか。
深い森に途切れることの無い音が流れる。
一体どれくらい経ったのだろうか。
かさりと誰かが立ち上がる音。
仲間たちは立ち上がった方を見て、笑った。
皆の視線の先にはチョコボ頭の青年が一人立ち上がっていた。
きっと彼女を迎えに行くのだろうと悟った仲間たちは青年と目を合わせる前にもう一度旋律の中へと戻っていく。
きっともうすぐ消えてしまうこの旋律をもう少し聴いていたかったから。
青年はそんな仲間たちの気持ちに気付いたのだろうか、顔に苦笑を浮かべると彼も仲間たちと同じなのか実にゆっくりとした
歩調で歩き出していった。
暗い森の中
少し歩いたところで森が開ける場所がある。
果たして彼女はそこにいた。
彼女を照らしている月の光と同じくらいに淡い金の髪は月明かりによって、金の色を強めているかのようだった。
青年に背を向けている位置に立っている彼女は、彼に気付かないのか歌を歌っている。
先ほどまで自分たちが聞いていた音、旋律。
聞くモノ総てに何かしらの想いを呼び起こす、不思議な歌声。
時に緩やかに、時に優しく、時に悲しく、時に激しく。
彼女の歌は世界に愛され、今では彼女の名を知らぬモノはいない。
世界の歌姫。
星の、歌姫。
「ナディア」
青年が彼女の名を呼ぶ。
瞬間、夢が覚めたかのように歌は止み、彼女が振り返る。
彼女は青年がそこにいたことに気付いていなかったようで驚きに目を丸めている。
アクアマリンの眼が見開くのを見て青年は苦笑しつつ、もう一度彼女の名を呼び、戻ろうと声をかける。
彼女は青年の言わんとしている事に気付き、にこっと微笑んで頷くと青年の近くまで歩み寄る。
青年の前まで来るといったん立ち止まり、彼女は彼と眼を合わせ微笑み合うと再び歩き出した。
その後を青年も歩き出し、二人は肩を並べて仲間たちの元へと帰っていく。
その場に残ったのは、歌姫がずっと囁くような歌を誰よりも近くで聞いていた月だけ。
彼らが星を救う過酷な旅の中での数少ない穏やかな夜だった。
Fin
あとがき
FF7です。
私が始めてオリキャラの小説を書いたのが、実はFF7なんですよ(笑)
サイト出したときにはもうFF8だったし、流行遅れだなぁと思ってやらなかったのですが、今回AC出たしこのまま外に出さないのもなぁと思い、
ここに誕生させました。
今回も例に漏れずオールキャラなんですが会話がオリキャラ・ナディアの名前だけ(笑)
森の中、野宿している面々がナディアの歌を聴いて和んでいる中、クラウドが彼女を迎えに行くという、そういうのをイメージしてたんですが。
や、イメージしてたとおりに話が書けたのは良かったんだけど…会話分が無いという珍しいのができたなぁ。
…まあ、いいか気に入ったし(おい)
これからもちょびちょび書いていくので新たに生まれた私の娘をよろしくお願いします。
2005.12.1