しゃらりと差し出されたそれは、鈍く銀に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

WRO―世界再生機構―に立ち寄った時、偶然そこにいたナディアに連れられヴィンセントはエッジのとある家の中にいた。

「ここに住んでいるのか?」

 何かを探しているのか、部屋の奥の方でごそごそと音を立てているナディアの背中に向かってヴィンセントが声をかける。

 すると彼女は遠くから、ええと声で答えを返してきた。

「ミッドガルは完全とは言えませんが封鎖されてますし、新しく建てられた事務所がこの近所なものですから」

 最近は良くライブに行くからあまりここには帰って来れないのだけれど、と言いながら彼女は探し物を見つけたようで。

ナディアは手に何かを握って部屋の奥から出てきた。

彼女はヴィンセントの前に立ち、握っていた何かを差し出す。

「どうぞ」

「………なんだ?」

 差し出されたのは、白い布で包まれた何か。

あまりに急な出来事だったのでヴィンセントは思わず目を見張った。

といっても、殆どの人が見たら変化していないように見える小さなものだったが。

しかし、共に旅をしてきた仲間だからなのか、彼女はヴィンセントの変化に気付き笑った。

「貴方に会ったら渡そうと思ってたんです。開けてみてください」

 ほんわかと笑うナディアに促されヴィンセントは布を外していく。

 

 

それは鈍く銀に光る三つの頭を持つ獣。

 

 

「最近良くリーブさんが貴方をWROに呼んでると聞いて、もしかしたらまた危ない目に会うかもしれないと思って…」

 一年前の事を思い出しているのだろうか、ナディアは不安そうな表情をしていた。

「これを、私に?」

 歌姫はこくりと頷く。

「ええ、微量ですが魔力を込めてみました。あまり当てには出来ませんが、お守りみたいなものだと思っていただければ…」

「作ったのか?」

 魔力を込めたという言葉を聞いてヴィンセントはもしやと思い聞いてみた。

既製品でも守りの力を込める事は出来るが、相手の事を思いながら一から己の手で作った物の方が遥かにこの効果は高い。

ナディアは心なしか安堵したように笑った。

「久しぶりだったんですけど、上手に出来てホッとしています」

 その言葉にヴィンセントの予想が当たっていたと確信した。

彼女の趣味が銀製品を作ると言う事だと聞いていたからもしかしてと思っていたのだ。

「そうか……ありがとう」

 ヴィンセントの言葉にナディアは微笑んだ。

「どういたしまして」

 ナディアの笑顔を見て、ヴィンセントは手の中にある銀細工を見た。

「君の作ったものならば、とても安心できる。クラウドも言っていた」

「え…?」

 いきなり恋人の名前を出されて目を丸めるナディアに気付いているのか、ヴィンセントは言葉を続けていく。

「ナディアの作る物は優しい祈りが込められていると」

 クラウドの耳を飾っているクラウディ・ウルフのピアスは彼女が作ったものだ。

せめて心穏やかであるようにと願いを込められたピアスは今も彼と共にある。

「…………聞いたんですか?」

 心なしか頬が赤いナディアを見てヴィンセントはどこか懐かしさを思い出しながら頷いた。

「彼がピアスを大事そうに扱っていたものだから、つい」

「……………そうですか」

 完全に真っ赤になった顔を見せまいとしたのか、ナディアは俯いてしまった。

その初々しい動作にヴィンセントは思わず口の端を上げ、もう一度銀細工を見つめた。

 

 

三つの頭を持つ獣。

 

 

「ケルベロス、か…」

「はい」

 ヴィンセントが息を吐くように呟くと、ナディアは顔を上げて頷いた。

 

 

ケルベロス。

 

 

死の国の門を守る獣。

死してその地に来た者を歓迎し守り。

死してその地から逃げようとする者を捕え貪る。

 

死と魂の守護者。

 

ナディアはポツリとつぶやく。

「ヴィンセントに何かを作ろうと思った時、この獣が頭をよぎったんです。

何故だかは良く解らないんですけど、でもその獣は貴方に良く似合うと思ったんです」

 

 

死した魂を在るべき場所に送るもの。

 

 

もしかしたら、彼はケルベロスと同じような存在なのかもしれない。

ケルベロスの姿がよぎった瞬間、そう思った事はナディア自身も記憶に無い事だった。

歌姫はただ、それを作りヴィンセントに渡しただけ。

 

 

 

 

 

 

混沌と言う名を冠した魔犬が、星の命を守護し葬送歌を吼える。

 

その瞬間より、遥か前の出来事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Fin


あとがき

本当はDCが発売されたときに書こうと思ってた話。

今更ながらに日の目を見せてみました(爆)

ヴィンセントの銃に付いていたケルベロスモチーフの銀細工を見た時に浮かんだネタ。

我が歌姫の趣味がシルバーアクセ作りだったのでこれをディナが作ってヴィンちゃんにプレゼントと絵が脳みそに浮かび…。

これはイケる!と思って脳内で生成。

発酵して腐り落ちる前に何とか形に出来て良かった良かった。

ちなみにナディアは皆にシルバーアクセサリーを作ってはプレゼントしてます。

将来のための第一歩らしいです(笑)

 

この世界に、ギリシア神話なんて無いのにどうしてケルベロスなんて…とか思っちゃったのは禁句ですかそうですか。

でもケルベロスとヴィンセントって言うのは確かにどこか似通ってるなぁとおもいます。

最初は死の門番と命を運ぶものだろぉ?と思って全然共通性が見つけられなかったというか…。

でもよくよく考えるとこの二つって結局は『死と魂を見守る者』なんですよね。

そう考えるとケルベロスを持つヴィンセントってのはしっくり来るなぁとか思いました。

 

 

2007.1.29

 

 

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