Canzone di Benedizione

 

 

 

 クラウドは小さく、しかし嬉しげに笑っていた。

 両手には、同僚から贈られた贈り物。

 初めてここに来たときはあまり馴染めなかった自分が、こうしてプレゼントを貰うほどにいろんな人と親しく過ごせるようになるとは。

 少しでも自分が成長した証のように思えて、贈られた物をそっと抱きしめる。

 自室に戻ってきて、プレゼントを机に置いたちょうどそのタイミングでポケットに入っている携帯電話が震えた。

 誰だろう。

 電話を開けると、クラウドは破顔した。

 陽気な親友からのメール。

 内容は、これから行くから外に出ていろ、と言うもの。

 門限はとっくの昔に終わってしまったが、夜間外出の許可さえ取れば何とかなる。

 クラウドは逸る心を抑えて、部屋を出て行った。

 

 

 外に出ると、バイクに跨った陽気な親友が手を上げて自分を迎えていた。

「ザックス!」

「よ! クラウド!」

 ザックスに近付くと彼はズイッとクラウドに何かを差し出した。

 色気も何もない、クラフトの袋。

「誕生日おめでとう。これ、プレゼントな」

 ニッカリと歯を見せて笑うザックスに、クラウドもつられるように笑いながら差し出されたプレゼントを受け取る。

「ありがとう、ザックス。開けていい?」

 袋を両手で持ち、声を弾ませて聞けば、

「おっと。それは後にして、とりあえず乗ってくれ」

 ザックスの言葉にクラウドは目を見張った。

「乗る? それに?」

 バイクに視線を送ったクラウドを見て、ザックスは頷いた。

「そ! 距離短いし、風に当たるから大丈夫だろ?」

 乗り物酔いが酷いクラウドに確認するように言えば、クラウドは頷いた。

「うん。大丈夫だとは思うけど…でもなんで?」

 小首を傾げるクラウドに対し、ザックスはにんまりと笑うだけだった。

「秘密。行けば解るよ」

 理由を言わないザックスに対し、クラウドの表情が怪訝なものになる。

 怪しい。そう視線で訴えるクラウドにザックスは笑うだけだ。

「別に取って食いやしないって。行けばお前絶対喜ぶから」

「…喜ぶ?」

 訝しげな表情でクラウドが言えばザックスはそう、と肯定した。

「ほら、早く乗れって。あんまり遅くなるとマズいんだよ」

 早く早く。

 そう急かすザックスの行動の意図がさっぱり掴めぬまま、しかし、悪いようにはならないだろうと言う予感を持って。

 クラウドはザックスが乗るバイクの後ろに跨った。

「乗ったか? 行くぞ」

「うん」

 クラウドが答えた瞬間、バイクは爆音を鳴らして走り始めていた。

 

 

 バイクは夜のミッドガルを横切っていく。

 しばらくすると、高速で流れていた風景が緩やかになり。仕舞いには完全に止まっていた。

「着いたぜ」

 ザックスの言葉が聞こえたときにはバイクの動きも止まっていた。

 クラウドはバイクから降りると辺りを見渡す。

 そこは、現在建設中のプレートだった。

 ところどころに公共の施設が見えるがどこも建設中の空気をかもし出していた。

 普段見せる夜のミッドガルとは違った雰囲気にクラウドは不思議な気分に陥りながら、目の前の建物を見た。

 野外ステージである。

 そのステージに、誰かが立っている。

 暗がりにぼんやりと灯る、月光の色にも見える淡い金の髪。

 クラウドは目を丸めた。

 驚くクラウドを見て、ザックスは満面の笑みを浮かべる。

「ほら、行ってこいよ」

「え?」

 唖然としていたクラウドはザックスの言葉で混乱して行く。

「なんで…なんで、彼女がここに!」

 なぜ、どうして。

 現実味がない現状に大きく目を丸めているクラウドへ、ザックスは笑うだけで何も言わない。

「そーゆーことは、本人に直接聞くんだな」

「でも!」

「ほら、早く行けって! いつまでも女の子を待たせるもんじゃないぜ」

 なおもザックスに言い募ろうとするクラウドの背中をザックスは強く押し出す。

「ザックス!」

 予想以上の力で背中を押され、クラウドが非難に満ちた声でザックスを呼び振り返ったときには、

「終わったら迎えに来るからな!」

 バイクに跨りのんびりと手を振った後でバイクを走らせてしまった後だった。

 

 

 

 遠くなっていくザックスの姿を見ていたクラウドだったが、彼の言うとおりいつまでも彼女を待たせるわけには行かない。

 意を決してクラウドはステージへ向けて歩き始めた。

 早足になっていたのは、しょうがない事だろう。

 ステージに近付くにつれ、彼女の表情もはっきりとしてきた。

 ザックスとの掛け合いが聞こえていたのだろう。

 彼女はおかしそうに、申し訳なさそうに笑っていた。

 クラウドが近づいて行くのと同時に、彼女は今まで立っていたステージから飛び降りる。

「ディア!」

 飛び降りた彼女を見て驚いたクラウドは無意識のうちに走り出していた。

 幸い、彼女は無事に地面に着地してクラウドを出迎えていた。

「こんばんは」

 複雑そうな表情を隠した笑顔で。

 クラウドは彼女の数歩前で立ち止まると、走ってきたため荒くなった息を整えようと大きく息を吐いた。

 そして、彼女の名を呼びながら一言、こう告げた。

「ナディア。驚かさないでくれ」

 本当に驚いたのだと、小さくもう一度息を吐くクラウドにナディアは、

「ごめんなさい」

 と、小さく頭を下げて謝った。

 少しして、ナディアが頭を上げるとクラウドはどう何を言っていいのか解らないと言った風な表情を浮かべていた。

 なぜナディアがここにいるのか。

 なぜザックスがクラウドをここに連れてきたのか。

 クラウドには突然すぎて、よく解らなかった。

 そんなクラウドの動揺がナディアにも伝わり、そろそろ言わなくてはいけないと。

 彼女はぐっと腹に力を入れて気合を入れ直す。

 そして、満面の笑顔を浮かべた。

「誕生日、おめでとうございます」

 この言葉が、クラウドの笑顔を引き出してくれるようにと願いながら。

 

 

 ナディアの言葉に、クラウドは目が覚めるような感じがした。

 いままでいろいろなことがあって上手く処理し切れなかった事柄が一気に昇華されていく。

「もしかして…」

 クラウドが改めてナディアを見ると、

「はい」

 彼女ははにかんで見せた。

「クラウドの誕生日に、何を贈ろうかって、ずっと考えてたんです」

 ナディアは軽く俯き両手を胸元でぎゅっと握り締める。

「色々考えて、何を贈れば喜んでもらえるんだろうとか、誰かと被ったらどうしようとか、色々…本当に色々考えたんです。でも考えれば考えるほど解らなくなって…」

「うん」

 止まってしまったナディアの言葉を促すように、クラウドは頷いた。

「ザックスや、友達に相談して…もう一度考え直して、これにしたんです」

 ナディアは顔を上げた。

「クラウド。貴方の誕生日プレゼントとして私の歌、受け取ってくれませんか?」

 真っ直ぐにクラウドを見つめる目は真剣で、どこか不安げだった。

 その不安の意味をクラウドは悟り、胸の奥が熱くなった。

 こんな自分のために、彼女は懸命に考えてくれたのだ。

 自分が生まれた日の贈り物を。

 自分にとって夢みたいな贈り物を、それでも喜ぶかどうかと不安になる彼女を見て。

 クラウドは口を開いていた。

「ディアの歌が独り占めできるなんて、思わなかった。凄く贅沢で、罰が当たりそうだな」

「そんなこと…!」

 ナディアの目が少し見開かれて、揺らだ瞬間。

「ありがとう」

 クラウドは笑った。

 心の奥底から沸き出た、純粋な歓喜の笑顔を。

「凄く、嬉しい。最高の誕生日プレゼントだ」

 屈託のない、本当に嬉しそうな笑顔を見て。

「ありがとう、ございます」

 ナディアは目を細めて微笑んだ。

 

 ステージの客席に座るクラウドを見て、ナディアはステージには立たず彼から数歩離れた場所に立つ。

「聴いてくれる人が一人なのにステージに立つ意味はないでしょう?」

 笑ってナディアが理由を口にする。

「私一人なので、アカペラになっちゃいますけど…」

「構わないよ」

「ありがとうございます」

「……なんか、緊張して来た」

「なんでクラウドが緊張するんですか?」

「いや、だって。さっきも言ったけど本当に凄いことじゃないか」

 ずっと憧れてきた歌姫が自分だけのために歌うのだ。

 しかも、いずれ多くの人々の心を掴むだろう歌姫が。

 緊張するのは当然の事だろう。

 しかし、それは歌姫の方も同じだ。

「私だって緊張してるんですよ?」

 なにせ、好きな人の目の前で歌うのだ。

 緊張するのも仕方がない。

 ナディアの告白にクラウドは驚いた。

「ディアでも緊張するんだな」

「クラウド。私を何だと思ってるんですか?」

「あ、ごめん」

 心外だとでも言いたげなナディアの口調にクラウドが慌てて謝ると、ナディアは笑った。

「心を込めて精一杯歌います」

「楽しみにしてる」

 クラウドのその言葉に偽りはなく。表情もとても楽しげにしているのを見て、ナディアは胸が熱くなる。

 彼のために歌いに来たのに、自分が嬉しくなってどうするのだろうと。

 それでも嬉しいと強く思う。

 この人が好きなのだと、確かに想う。

「はい。……クラウド」

 歌い始める少し前。

 ナディアがクラウドの名を呼ぶ。

「なに?」

 呼ばれた事に応えると、彼女は今日一番の笑顔を浮かべた。

「本当に、誕生日おめでとうございます」

 貴方が生まれてきてくれた事に、何よりの感謝と喜びを。

 胸で言葉を続けると、ナディアは息を吸って歌い出した。

 とどまる事を知らぬような歌声を聴きながら。

 ふと、クラウドは先ほど浮かべたナディアの笑顔を顧みる。

 歌もだが、あの笑顔こそ、一番の贈り物のような気がする。

 心の片隅で、小さくそう思った。

 

 

 

 

 

Happy Birthday! Cloud!!


あとがき

クラウド誕生日おめでとうございます!!

7本編が発売して12年。このサイトにFF7がコンテンツ加入して数年。

ようやくクラウドの誕生日が出来ました。

最初、何を贈ろうかと本当に迷いましたι

ナディア同様思い切り悩んだ結果、ナディアの独占コンサートに。

ウチ設定でクラウドはナディアのファンだし、ナディアも一番好きなモノでクラウドを喜ばせる事が出来るから一石二鳥!

と言う考えに。

実は、この話を書く前にザックスとエアリスに相談すると言う話を書いてました。

しかし、思ったより長くなったので、その部分はカットしました。

メインはクラウドの誕生日だし、ね。

後日談的な意味でもしかしたら出すかも(おい)

 

なにはともあれ。

クラウド誕生日本当におめでとう!

貴方が心穏やかに幸せになれる日を心から願っています。

 

2009.08.10

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