無力さ
一護は項垂れていた。
誰にも顔を見せないように俯きながら、自分の両手を見詰めている。
「オレは…無力だ…」
見詰めている両手をギュッと強く握り締めた一護を見て、茶渡は首を横に振った。
「一護…違う、お前だけのせいじゃない」
気遣うのではなく、真実を言うようにハッキリした口調で言う茶渡に対し。
今度は一護が首を横に振った。
「いや…オレが悪いんだ…」
あの時。
あの時、きちんと止めている事が出来れば…。
あの時、しっかりと見ていれば…。
こんな事にはならなかったというのに…。
「悪い、チャド…」
俯いたままで謝罪の言葉を口にする一護に、茶渡はもう一度首を振った。
「さっきも言ったが、これは一護だけのせいじゃない。
きちんと止める事が出来なかったのは、オレも同じだ…。
お前だけが無力さを感じる事なんて、何ひとつない」
茶渡がそう言うと、ようやく一護は顔を上げた。
一護は茶渡と目が合うと、少し弱ったように笑い頷いた。
「ありがとう」
感謝の言葉に、茶渡も笑みを浮かべた。
「行こう、一護。こんなところで落ち込んでいても、維は見つからない」
「ああ」
一護はしっかりと頷くと、足取りを確かに歩き出した。
茶渡もその後に続く。
目の前に広がるのは、大量の本棚。
一護は思わず眩暈を起こしそうになったが、何とか耐える。
「まずは、アイツが行きそうなところを片っ端から当たってみっか」
「そうだな」
茶渡の言葉を耳にしつつ、一護は思わず溜息を吐いた。
「ったく、維のヤツ。すぐに出るからどこにも行くなっつったのに…」
「一週間ぶりだと、言ってたからな…。本の誘惑に勝てなかったんだろう」
授業で使う資料を、維と一緒に町で一番大きい図書館で借りようとしたのがそもそもの間違いだったのだ。
本好きの維は一護たちがどこにも行くなと釘を刺したにもかかわらず、彼らが目を話した隙にふらりとどこかへ消えていたのだ。
一護はもう一度溜息を吐いた。
「ヤッパリもうちょっとキツく言っとけば良かったか?」
一護の小さい心の声は見事、チャドによって否定された。
「いや、無理だろう。ここに入ってから、維はオレたちの言葉を聞いてるようで聞いてなかったからな」
文字通り、言葉が右耳から入って左耳に抜けた感じだったというのを聞き、一護は堪らずオレンジ色の頭を盛大に掻いた。
「だー! あんの馬鹿! 見つけたらタダじゃおかねぇ!!」
場所が場所なので小さく、しかし盛大に叫びながら一護と茶渡は維を探すため本の森へと足を踏み入れて行くのであった。
しっかりと止められず、結局迎えに行く事となった、自分たちの無力さを噛み締めながら。
Fin
あとがき
拍手ありがとうございました。
黒崎一護的5のお題、2《無力さ》でした。
いかにもシリアスで使われそうなこのネタを敢えてギャグに使って見ましたがどうでしょう?
この、いかにもシリアスに見えて実は…と言う思わせぶり勘違いネタ(フェイントネタ?)って初めてだったんですが、ヤッパリ面白いですね(笑)
時期的には中学三年生くらいです、まだすべてが始まる前のお話。
維は完全な活字中毒者であります。
2007.5.14