梅雨の長雨も、一休みということなのか。 空は久しぶりに太陽と青空を見せた。
維は機嫌よく外を歩いている。 手にはコンビニのビニール袋がひとつ。 数日ぶりの太陽と青空を見ていたら、どうにもこうにも外に出たい衝動に駆られた。 今日は日曜。 学校も用事も何も無い。 思い立ったら即行動がモットーでは無いが、せっかくの梅雨の中休み。 散歩をするのもいいだろうと。 そこまでは良かった。 意気揚々と外を出たまでは良かった。 しかし、現実と言うのは厳しいもので。 昨日まで降っていた雨の影響か、空気がいつも以上に水分を含んでいたのだ。 おかけで、空はとても良い天気なのに、歩く維の周りに纏わり付く空気はジメジメの ジトジト。 元々、乾燥している地域では無いのに、いつも以上の湿気の多さに辟易していた維。 もうやめて帰ろうかと思っていたその時、目に付いたのはコンビニ。 しかも、新商品のカップアイスが出たと友人たちから聞いたコンビニ。 我ながら現金だとも思いつつ、維は今までのジメジメジトジトなどスッカリ忘れて、 コンビニへと入っていったのだった。
至極ご満悦な維が奏でる鼻歌に合わせて、袋はゆらゆらと揺れている。 「早く帰って、扇風機に当たりながら食ーべよっと」 その瞬間を思い起こしているのか、維の笑顔はにやけっぱなしである。 気分良く鼻歌を奏でながら、コンビニ袋を揺らしていると。 ふわり。 涼しげな風が維の頬を撫でていった。 あまりの涼しさに維は驚いて足を止めて、風の吹いてきた方を見る。
小さな公園があった。
そこら辺にどこにでもある、小さな児童公園。 維はジッとその公園を見つめていたが。 そのうちにしっかりとした足取りで公園の中へと入っていった。
休日だと言うのに、人があまり居ない公園の中を歩いていくと、目の前に大きな木 が現れた。 大樹と言うにはいささか物足りなさを感じるが、それでも涼を取るには十分な大きさ である。 公園を作った人もそう思ったのだろう。 木の下には木製の背凭れ付きベンチが一つ。 維が木を見つめていると、先ほどと同じ風が維の体を通り過ぎる。 涼しく、優しい風。 維は木とベンチを交互に見た後、にんまりと笑った。
ベンチに腰掛け、コンビニ袋をその横に置くと、維は袋を開けた。 取り出すのはもちろん、さっき買ってきたカップアイス。 アイスの蓋を開け、アイスと一緒に付いてきたスプーンの包みも開ける。 スプーンを利き手に、アイスをもう一つの手で取った。 「いただきまーす!」 維は小さな声でハッキリと言ってからアイスを食べ始めた。 アイスの冷たさが口の中に広がっていく。 「んー! 美味しい! ヤッパリあっつい時はアイスだよね!!」 嬉しそうにアイスを食べている維。 さらさらと木陰になってくれている木の葉の音もやはり涼しくて。 こういうところで美味しいもの食べるのも良いかも、と素敵なものを見つけたかの ように笑顔を浮かべていた維の耳に。 「こんなところでなにやってんだ?」 聞き慣れた『音』と声が入り込んできた。 維は驚くことも無くスプーンを銜えながら、顔を上げると。 そこには死覇装姿の一護の姿があった。 一護の姿を見つつ、維は銜えていたスプーンを取り出すと怪訝な表情を浮かべた。 「何って、見りゃ解るじゃん。アイス食べてるの、アイス。 この状況見て解らないなんて、イッチーなんかヤバくない?」 怪訝そうに、心配そうに聞いてくる維に一護は近付くと。 こつん。 手の甲で軽く維の頭を叩いた。 「ばぁか。そんなの誰だって見りゃ解るだろうが。 オレが聞きたいのは、何でこんなところでアイス食ってるんだって事」 軽く叩かれた箇所をスプーンを持ちながらさすっていた維は、にこりと笑った。 「ほら、今日って久しぶりに晴れたでしょ? だから散歩してたんだ。 で、途中で新商品のアイス売ってるコンビニに見つけてアイス買って。 家で食べようと思ってたらこの公園見つけてこの場所が凄く涼しげだったので、 ここで涼みながらアイス食べてたわけ」 維はここで一度言葉を切り、一護の顔を覗き込んだ。 「イッチーは虚退治?」 小首を傾げる維に、一護は頷いて応えた。 「ああ。ついさっき倒してきたんだ」 「ルッキーは? 一緒じゃないなんて珍しいね」 死神化した一護の傍にいつもいる、小柄な美少女の姿が無いことを疑問に思った のか維が再び問えば。 一護はあー、と頭を掻いた。 「なんか別の用事があるみたいで、ここに来る前に別れた」 「家に帰る途中だったんだ?」 「まあな。そしたらお前がここでなんかしてるの見つけてよ。 声かけたんだけど…まさかアイス食ってるとは思わなかった」 一護は維の手にあるアイスを見て苦笑を浮かべた。 確かに、今日の湿度の高さを考えれば、外でアイスを食べようだなんて思いもしな いだろう。 実際、維自身も家で食べるつもりだったのだから。 維も一護に釣られるように苦笑を浮かべた。 「確かにね。でも、ここスッゴイ涼しいの、イッチーも解るでしょ」 維の声に呼応するかのように、風が木を通り過ぎた。 さらさらと、違う涼しげな空気を運んでくる風と、暑い太陽の光を程よくさえぎる木陰。 同じ外界のはずなのに、まったく違う空気を持つこの場所の居心地の良さに、 一護は頷いていた。 「ああ」 一護の言葉に、維は嬉しそうに笑った。
一護がコンビニ袋を挟んで維の隣に座る。 彼の隣で、維はアイスを食べ続けていた。 風が、時折木の葉を通じて二人に優しく吹きかかる。 涼しくて、静かで、心地よい。 一護は上を向いて、さわさわと風と共に動く木の葉を見つめていた、そのとき。 「イッチー」 維の声が聞こえてきた。 何だと思って一護が維の方を見た瞬間。 「あーん」 目の前に指し出れているのは、ココア色のアイス。 甘い匂いからしてチョコレートアイスだということは解った一護だが、 何でそれを維が差し出してくるのか解らなかった。 「なんのつもりだ?」 不可解な行動をしてくる維に思わず眉間に皺を寄せる一護。 しかし、維にはどこ吹く風のようだ。 「何のつもりって…。お裾分け」 「お裾分けって…お前なぁ、人に食いさし渡すのかよ」 きょとんと言う音が聞こえてきそうな維の回答に、一護は思わず項垂れた。 「あー、うん。でもイッチーチョコ好きでしょ? 気にすること無いと思うんだけど…」 一護が何を言いたいのか解ったようで維も少し気まずそうに、しかし問題無し といった感じで話す維に一護はますます項垂れる。 「確かにチョコは好きだけどな…」 「誕生日」 一護の言葉をさえぎるように言った維の言葉に、一護は思わず顔を上げた。
7月15日。 黒崎 一護が生まれた日。 さすがにこの日は朝から家中―特に父親の一心―が賑やかになるので、 一護自身今日が自分の誕生日だとは覚えていたのだが。
一護が顔を上げるとそこには、少し照れくさそうに、嬉しそうに笑う維が居た。 「一応プレゼントとかは用意したんだけど、明日ガッコで渡そうとか思ってて 今日持ってないの。 でも、今日会えたでしょ? だから何かあげたくて…」 スプーンを持ったまま、維は楽しげに笑う。 「食べかけの物じゃ、ホントにカッコ付かないけど。後でキッカリまともなの渡すから」 ね? そうにこやかに言われてしまえば一護には断る理由などなく。 仕方がないと、溜息を吐きながら一護は差し出されたアイスを口に入れた。 ひんやりと甘くて冷たい物が口から喉へと通っていった。 「美味しいでしょ?」 そう自信満々に聞いてくる維に、 「おう」 一護はしっかりと頷いていた。
ふわり。 風がもう一度、通り過ぎる。 「誕生日、おめでとう。一護」 風が吹く中で維は嬉しそうに言葉を一護に贈る。 「ああ…。ありがとう、維」 維の言葉に、一護もまた柔らかな表情を返したのだった。
Happy Birthday ICHIGO!!
あとがき 一護誕生日おめでとう!! ぎりぎりで申し訳ない(苦笑) 去年の掲示板を見てくれた人(ほとんど居ないと思われる)には解ると思うけど…。 タイトル内容のほとんどが、去年の一護の誕生日に書いた物ほぼそのまま。 …と言っても、あのあと掲示板が消失。 何とか救出に成功したものの、この話だけ見事に助けることが出来ず…。 運良くこんな感じで書いたんだということは覚えてたので、 去年こんなの書いたよなぁと言うことで、記憶を頼りに再構築。 今回は掲示板じゃないのでかなり大幅に改造され、話が長くなってます。 ってか一護の誕生日なのに維が出張ってますね。 あちゃー(苦笑)
まあ、そんなこんなだけど。 一護、誕生日おめでとう!! これからもいろいろ大変だけど頑張って!!
〜おまけ〜 「あ」 再びアイスを食べ始めていた維が、急に声を上げた。 「なんだよ」 「よくよく考えるさぁ…」 一護の言葉など聞いているのかいないのか、維は自分の手にあるスプーンを まじまじを見つめて。 こうのたまった。 「これって、間接キス?」 「!!」 ゴッ! 鈍い音があたり一面に響く。 「〜〜〜〜〜! い、いきなり何するのさ!!」 「いきなりじゃねぇよ! お、お前なに言って…!!」 思い切り力を入れられ殴られた頭を抑えつつ、一護を睨み付ける維に対し。 一護は維に発言に、思い切り動揺を隠せないようで、顔を真っ赤にしている。 顔を真っ赤にした一護を見て、維は何とかして立ち上がり。 一護の肩を叩いた。 「そんなに気にすること無いって! 友達なんだからこれくらいふつーふつー!!」 「普通って…」 にっぱりと、何の感慨も無く平然と言い放つ維の笑顔を見て。 あからさまに動揺した自分が馬鹿みたいだと、一護は深い溜息を吐いたのだった。
一護はトシゴロの男の子(一応、維は女の子という認識) 維はそんな一護の《ただ》の友達(異性として意識してるのかも怪しい)
2007.7.15
|