朝、維が学校に来るとダダダダダ、となんだか物凄い足音が…。

 足音と同時に近づいてくる『音』に維が顔を向けると、

 そこには土埃を巻き上げながら走ってくる人影がひとつ。

 維は昇降口で一緒になった一護と顔を見合わせる。

 あれは間違いない、彼だ。

 維はもう一度自分に向かって走ってくる人影に目を向ける。

 髪を結っている薄紅色のリボンについている鈴がりちんと鳴った。

「維ちゃぁぁぁぁん! おったんじょうびおめでとーーーーーー!!!」

  まさにマッハの如くスピードで維に近づいてくるのは彼女のクラスメイト。

 一護が反撃体勢を取ろうとするのを制し、維はニッコリと笑った。

「啓ちゃん、そのままの勢いで近付いてきたら、『浅野さん&敬語で話すwith水色君』の刑だからね」

  笑顔のままで啓吾の尤も嫌がる事を平然と言い放つ維の言葉に啓吾の足は当然止まり…。

「そ、そんな維ちゃぁぁぁんん!!!」

 彼女の前で涙を浮かべて再び猛スピードで近付いてきた。

 鬱陶しい事この上ない。

 自分を祝いたいと言う気持ちが『音』となって表れているのが聞こえる。

 自分を思ってくれている、彼の気持ちは嬉しい。

 とっても嬉しいが。

 やっぱり鬱陶しい事には変わりないので。

 維は最高にイイ笑顔を顔に貼り付けたまま、口を開いた。

「執行」

 浅野 啓吾の悲鳴と、黒崎 一護の溜息が廊下に響き渡った。

 

 

 

 教室に入った途端、クラスメイトがいっせいに維に近付いて来た。

「維ちゃん、誕生日おめでとう」

「維、これプレゼント」

「気に入ってくいれると嬉しいな!」

 口々に祝いの言葉を言われながらに渡されるプレゼントを維はとても嬉し

 そうにもらっていく。

 プレゼントの中身は本当にいろいろ多種多様。

 一つもかぶらないあたりがこのクラスの個性を現しているかのようでとても楽しい。

「維」

 声がかかって来たのでそっちを向けばそこには茶渡の姿が。

「チャド!!」

「ん」

 維が茶渡に近付くと彼は小さな紙袋を維に手渡す。

「開けていい?」

「ム」

 維の言葉に茶渡が頷くのを見て紙袋を開けると、維は顔を輝かせた。

「わぁ、綺麗で可愛い!」

 維が目を輝かせるその先にあるのは、ビーズで出来た犬のストラップ。

「ありがとう! 大切にするね!」

「ああ」

 維が満面の笑顔で言えば茶渡も嬉しそうに頷いた。

 

 

鞄がいつもよりも重い。

 しかし、この重みは幸せの重みで維は嬉しそうに鞄を緩く振りながら家路を歩いている。

 彼女の隣にはオレンジ頭の少年が一人。

「嬉しそうだな」

 彼がそう言えば維は満面の笑顔で答える。

「あったり前じゃん。自分の誕生日にこんなにたくさんプレゼント貰えるなんて、こんなに嬉しい事はないよ」

 茶渡からプレゼントを貰った後もプレゼントが終わる事はなく。

 織姫からは小さいが可愛らしいぬいぐるみを貰った。

 ちょっと彼女の趣味とは掛け離れていたので疑問に思ったのだが。

 どうやら、たつきが織姫の好みから上手く微調整をしてくれたようで。

 維好みの可愛らしいぬいぐるみは、彼女の一番のお気に入りになるだろう。

 そして、驚いた事に石田からもプレゼントを貰ってしまった。

 貰えるとは思わなかったと、維が言えば。

「仲間だからね」

  照れ臭かったのか、維には視線を向けないで眼鏡のフレームを上げる姿を見て、維はますます彼が好きになった。

 石田からのプレゼントは彼が作ったのだろう、しっかりとした作りの愛らしいランチョンマットだった。

 滅却師十字がついていたのには思わず笑ってしまったが、それでもやっぱり嬉しいものだ。

 帰る頃になってようやく『浅野さん&敬語で話すwith水色君』の刑が終わった啓吾は泣きながら、ウザいよ啓吾と水色に言われつつプレゼントをくれた。

 澄んだブルーが綺麗なCDのクリアケース。

 さすが普段から鬱陶しいがこういうセンスはなかなかいい啓吾である。

 水色も気分転換にと、アロマオイルをくれた。

 何もかもが―時々ズレた物もあったが―維のために考えて贈ってくれたもの。

 こういう無機質の『音』はあまり聞こえないというのに、

 それでも聞こえてくるように思えるのは、大切な人たちの思いが詰め込んであるから。

「すっごく嬉しい」

 にこっと微笑む維を見て、一護もつられて笑った。

「そうか」

「うん」

 二人はそのあと暫く会話もせずに帰路を歩く。

「でもね」

「ん?」

 もうすぐ維の家手前と言うところで、維は口を開き、くるりと一護の方を向いた。

 その表情は先ほどと同じ嬉しいと微笑む顔だったのに、なぜかさっきよりも綺麗で。

 一護は思わず足を止めてしまった。

 維は足を止めた一護を気にも止めていないようで、ただ笑顔のまま彼に向かって言葉を放つ。

「イッチーがくれた、このリボンがいっちばん嬉しかった!」

 維の髪を結わえているのは薄紅のリボン。

 それに付けられている鏡鈴がちりんと鳴った。

「だから、ありがとう一護!」

 笑う維を一護は暫く呆然と見詰めてたが、

 すぐさま我を取り戻すと維に近付いて。

 ぽん、と彼女の頭を撫でた。

「誕生日おめでとう、維」

 維はもう一度言ってくれた一護の言葉に目を丸めて彼を見上げる。

 一護は少し眉間に皺を寄せていたが、それは照れ隠しだと維は気付き、笑った。

「うん、ありがとう」

 二人は顔を見合わせ、暫くの間笑い合っていた。

 

 

Fin

 

 

 

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あとがき

維の誕生日おめでとう小説でした!!

やー、なにこの快挙!!!

いつも二年三年経たないと書かない誕生日小説をこうすぐに書く事になろうとは…ってか何時も書く機会を逃してるって言うのは禁句。

維は学校が主で結は瀞霊廷が主でした。

や、最初に維の場面で敬語はいつもの如くの鬱陶しさで維に近付くというあの場面が頭に浮かんでね。

『浅野さん&敬語で話すwith水色』はそのまんまで捉えてくださればダイジョブです。

えっと…一応補足説明を。

一護は実は一番最初に維にプレゼントと誕生日おめでとうの言葉を渡してます。

偶然、啓吾襲撃前にバッタリ会ってんじゃせっかくだしと言う事で一護あっさり渡してます。

なので維にとって一護の「誕生日おめでとう」は二回目になるんです。

 

こんなところでグダグダの補足をしなくちゃイケなくなった私の文章のへたっぴぽさとか申し訳ないと思いつつ。

 

誕生日おめでとう!

維!!

 

 

 

2006.2.3

加筆修正:2012.4.1