『白崎さん…』
「んな名前で呼ぶんじゃねぇよ」
誰が白崎さんだ。
一護は胡坐を掻き、膝の上で頬杖をつきながら不機嫌に言い放った。
青い。
雲ひとつないこの世界に。
異質な存在が入り込んだのはつい先ほどの事だ。
何者かと出向いてみれば。
《自分》がよく知る者の一人だった。
「帰ったのか…?」
一護の背後から声がかかる。
その声を背に受けて、一護は胡坐を掻いたまま頷いた。
「ああ、ついさっきな」
濡れ羽色の髪を飾る三つの鈴。
「まさか、ここまで渡って来るとは思わなかったぜ」
彼女が何者で、どういう《力》を持つのか。
一護は表にいる自分よりもよく知っていた。
だが、まさかここまで渡って来れるとは思わず、最初に目にした時はらしくもなく驚いていた。
しかし、彼女がここまで来れたのは偶然だったらしい。
自分が出向いた時にはもう、彼女はこの世界から弾き出されようとしていた。
「一護の意識と同調らしい。渡って来れたのも、彼女の意識と一護の意識が混ざり合って混合したせいだろう」
しかし、それはとても稀な事である。
いくら彼女にその《力》があろうとも、他者の意識の中に入る事は不可能と言っても良いのだ。
一生に、出来るか出来ないかの確立。
おそらく、彼女は二度とここにやって来る事はないだろう。
一護ははん、と鼻を鳴らした。
「運が良いんだか悪いんだか、解んねぇヤツだな」
「触れ合っていた、というのも原因のひとつかもしれんな」
呆れたように一護が、淡々と相手が言った時、外界が騒がしくなった。
―――何でお前がいるんだよ!
―――なんとなくフラフラしてたらイッチー見つけて、あんまり気持ち良さそうだったから…。
―――お前まで寝るのか、それで!
―――だって気持ち良かったんだもん。
―――だったら、一声かけるくらいしろよ!
―――や、実は一回起きたんだけどね、まだ時間があったし、イッチーもまだ寝てるから良いやって…。
―――おかげで授業始まったけどな。
―――あう…ごめん。…でも、この時間って現国だし、別にサボってもイッチーと私だったら平気平気!
―――んなわけねぇだろ!!
―――ぎゃーーーーーー!!!
「…起きたみたいだな」
「賑やかなこった」
互いに顔を合わせる事もなく。
二人は青い空を見上げていた。
一護と残月
2007.6.8