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屋上/今年最初のお願い事/テーマ《チョコ》/優しさカーネーション/質問です。/

 

屋上

誰もいない屋上に一人オレンジの髪が揺れる。

昼休みは五分も前に終わりを告げていたというのに彼は何故か一人ぼう、とフェンスの向こうにある空を見上げていた。

「ていっ!」

 ガクン!

心ここに有らずといたように空を見ていたせいか、いきなり体のバランスが崩れたのには本当に驚いた。

なんとか倒れないように身体を支えて一護は思い切り後ろを振り返る。

「よっ!」

 振り返った先には心底楽しそうな笑顔を浮かべる少女が一人。

彼女が中学時代からの腐れ縁だと解ると一護はこめかみに青筋を浮かべながら怒鳴った。

「テメェ…維! 何しやがる!!」

「んー? なんかイッチーがボーっとしてたから膝カックンを…」

「するな! んなもん!!」

 鋭く睨む一護はハッキリ言って迫力がある。

しかしそんな一護の表情や突っ込みに怯えることなく維はけたけた笑うだけだ。

「あたしに気付かないでバック取られるイッチーが悪い、ってか珍しいよねイッチーが気付かないなんて」

「…確かに」

 人の気配に敏感なことを自覚しているからこそ、一護は維の言葉に素直に頷く。

もちろん、敏感なのは生きている人間に限ったことではないが。

どうしたものだろうと、珍しく自分の感覚が鈍っていたことに疑問を感じて首を傾げている一護に維はさらに楽しそうな

口調で恐ろしい事を口にした。

「ちなみに今は授業中です」

「………マジかよ!?」

「マジ」

 維のにーっと浮かべる笑顔の真顔に一護は頭を抱えたくなった。

その容姿とは反対に至って真面目な彼は授業をサボるということはあまり無い。

ヤバいなぁと一護は一瞬思ったがしかし目の前にいる維を見て器用に方眉を上げる。

「…じゃあお前、何でここにいんだ?」

 訝しげに聞いてくる一護に維は笑顔のまま答えを伝える。

「自習。プリント出てたけどすぐに終わっちゃって暇だったし、イッチーがいなかったからちょっと『音』聞いて探しに。

そしたらボーっとイッチー空見てるからつい…」

 ぜんぜん悪意の無い笑顔を浮かべる維を見て一護はただため息を吐くだけだった。

「そうかよ」

「うん。それにしても、本当に珍しいよね。イッチーがここまでボーっとしてるなんて」

  なんかあった? と心配そうに一護の顔を覗き込んでくる維に彼は首を横に振った。

「いや、べつに何にもねぇよ。心配させて悪かったな」

 じっと自分を見つめてくる黒い瞳は太陽の光を浴びて深い紫に染まっていた。

言葉に出さずに心配だと伝えてくる瞳に、一護は安心させるため維の頭をくしゃりと掻き回す。

「ちょ! ばっ! イッチーやめてやめて! 髪がアレだから! ボサボサになるから!」

 くしゃくしゃに掻き回される髪を心配して維は慌てて自分の頭上にある一護の腕をペトペチと叩く。

ペシペシと数回叩かれて一護はようやく維から手を離し彼女を見て、笑った。

「ぷ、お前髪すげーな」

「イッチーがやったんじゃん、もう」

 笑う一護に維は頬を膨らませつつぼさぼさになった髪を整える。

そして、ふと視線を空に向けると。

そこには雲が風に流されゆったりと動く青い空。

維は髪を整え、手をかざして空を見上げる。

誰もいない静かな屋上。

ゆったりと時を伝える空。

「イッチー」

 なんとなく、ボーっとしていた一護の気持ちが解った気がした。

「ん?」

 一護が自分に答えてくれると維は仰いでいた空から視線を一護に戻すとにまっと笑みを浮かべた。

「こういうのも、たまには良いよね」

 維の言葉に一護は何のことだと頭を捻ったが、あまりに維が楽しそうに笑うものだから。

「そうだな」

 とりあえず、頷いてみたのだった。

 

 

 

 

Fin


あとがき

拍手ありがとうございました。

BLEACHより一護&維でした。

2005.12.7

 

 

 

今年最初のお願い事

「ねえ、維ちゃん」

「んー?」

「初詣でなにお願いするか決まった?」

「うーっと…今年はみんな大怪我をせず平凡に暮らせますように、とかそこら辺かな?

そういうひぃちゃんは?」

「私? 私はねぇ…今年もおいしいものをたっくさん食べられますようにかなぁ…?」

「えー? 私、ひぃちゃんは私と同じことお願いしてくれると思って楽しみにしてたのに…」

「えっ?」

「ひぃちゃんはイッチーとか周りの皆が怪我をしないように元気で今年も無事で過ごせますようにってお願いしたいんだと

思ってたんだよ?」

「………」

「違う?」

「―――維ちゃんって本当に鋭いよね」

「ひぃちゃんみたいに優しくはないけどね。結構あくどいって自覚はある」

「なにそれ」

「あー、笑うことは無いと思うんだけどなぁ」

「ごめん。でも同じお願い事でも神様聞いてくれるかな?」

「むしろダブル効果で一人よりも効くと思うよ。

だから一番素直に願いたいことを願えば良いと思う」

「そっか…じゃあ私も維ちゃんと同じだね」

「よかった。ひぃちゃんと一緒のお願いなら百人力だよ」

「かなうと良いね」

「ってか、全力で叶えさせないとね」

「そうだね」

 

「私たちの大切な人たちが、どうか元気で一年を過ごせますように」

 

 

 

 

Fin


あとがき

拍手ありがとうございます!

BLEACH 現世で維&織姫でした。

補足でひぃちゃんとは維が織姫につけたあだ名です。

織姫→姫→おひめさん→おひいさん→ひぃちゃん

 

2006.1.1

 

 

テーマ《チョコ》 CASE2 腐れ縁(維&一護)

「うわー、美味しそう!」

 目をキラキラ輝かせるのは維。

彼女の隣で何処かウンザリしたような表情を浮かべているのは一護。

「あ、これ可愛い!」

「おい…」

「うーん、どれにしよっかなぁ」

 チョコを見詰める維に一護が声をかけるが、維は気付いていないらしく一護の言葉をスルーする。

小さくだが、一護の米神に青筋が走った。

「おい」

「うーん…ん? なに?」

 声色が少し険しくなったのを聞き維は面倒くさそうに一護を見詰めた。

なんだオメェ邪魔すんじゃねぇよと言わんばかりの視線に一護の青筋が大きくなる。

「てめ、何のつもりだ」

「何のつもりって…べつにいいじゃん。イッチーチョコ好きでしょ?」

 不機嫌を前面に出したドスの聞いた声を聞いて維は怖がる事もなく一護に言葉を返す。

あまりにもアッサリとした返答に一護は眩暈がするかと思った。

確かにチョコは好きだ。

好物だ。

しかし…。

「だからってこんなところに連れてくんな…」

 

 

目の前には茶色の宝石。

 

 

今、二人がいるのはチョコレィト専門店。

季節が季節なのでいろんな種類のチョコを求め女性たちが大勢店の中を闊歩している。

店にいる男性は、一護だけ。

紺一点だからか、とにかく目立つ。

先ほどから、女性たちがチラチラと自分を見ているのが解る。

幸いな事に維が隣にいるので付き添い程度に思われているのだろうが、これでもし一人だったらと思うとゾッとする。

別にバレンタイン自体にあまり興味はないが、それでも男のプライド、と言うものはあるのだ。

「私だって別に嫌がらせで連れてきた訳じゃないよ」

 この時期にこんなところに連れてきやがってと言う一護の不満が『聞こえた』のだろう、維が一護を見つつ頬を膨らませた。

「本当はひぃちゃんたちと一緒に行きたかったのに。都合付かなかったんだから仕方がないじゃん」

「じゃあ一人来いよ、こういうトコは…」

 一護の言った言葉は至極正論である。

しかし、維にはその正論は通用せず。

「だって、それじゃつまんなかったんだもん」

 真顔で答えて来る維に溜息を吐くしか道はなかった。

「それじゃあ、別にオレじゃなくても良かっただろう?」

 尤もな一護の言葉に、維はムッと口を尖らせてから淡々と説明していく。

「石田ッちは私の不穏な気配を感じて早々に逃げた」

 石田らしいと言えば彼らしい。

「チャドは付いてきてくれると思ったけど、こんな人多い処にチャドみたいな大きな人連れてくるのもなんだったし…」

 確かに優しい彼の事だから付いて来てはくれただろうが、流石にこの人の多さではチャドも相手も可哀想だ。

「水色君はおねーさんと待ち合わせがあるからって、笑顔で拒否られたし。啓ちゃんは煩いから論外」

 水色の笑顔は想像しやすく、啓吾に関しては一護も同じ事を思ったので問題はない。

「そう考えると、イッチーしかいなかったんだもん」

「消去法かよ」

 逃げる事が出来なかった自分を棚に上げ、一護が維から視線を逸らしもう一度溜息を吐こうとした時。

「……それにさ」

 小さい、息を吐くような声。

それが維の声だと気付いた一護は維の方を見る。

彼女は一護から視線を離し、前のチョコを見詰めていた。

「せっかくなんだからリサーチしたくなったんだ。好きな人の好きなチョコレート」

 吐息の如く小さな声で。

それでもハッキリ言うものだから。

一護も思わず維から視線を離し、目の前にあるチョコを見詰めた。

 

人が歩き回る店の中。

 

互いを見る事が出来なくなった一護と維は暫くその場所に突っ立ったままだった。

かすかに耳を赤く染めて。

 

 

 

 

Fin


拍手ありがとうございました!

BLEACHで一維でした!

腐れ縁と書いてありますが、一応恋仲です(笑)

紺一点は紅一点の男性ヴァージョンだと思ってくだされば。

元ネタは長野まゆみ先生から。

漢字の美しさと言葉の響きで一気に惚れました(苦笑)

 

2007.2.9

 

 

 

優しさカーネーション

 五月、ゴールデンウィークを過ぎたあたりから、町は再びピンク色に包まれる。

 しかし、バレンタイン時の鮮やか過ぎるピンク色ではなく、どこか落ち着いた優しいピンク色ではあるが。

「母の日って言えばカーネーションだと思ってたけど…最近はそうじゃないんだよね」

 デパートやコンビニの柔らかいピンク色を、横目に維は隣を歩いている一護に声をかける。

「バラとかガーベラとかでも良いみたい…ネット見て知ったんだけど、それならレパートリーも多くていいよね」

 しかし、一護は聞いているのかいないのか、脇目も振らず真っ直ぐに歩いて行く。

 

 彼の『音』は少し、乱れていて。

 雨の、音がした。

 

 母親の事は少しだけ、吹っ切れているはずだ。

 とはいえ、やはり思うところがあるのだろう。

 相変わらず一護は母親の事となると、少し慎重になる。

 これが父親の一心あたりなら、この状況を逆手にとって笑い話にしてしまうのだろうが。

 生憎、維は一護の家族ではない。

 

 触れてはならない場所の把握なら、長い付き合いだ。

 解っているつもりではある。

 しかし、だからと言って変に気を使うのも長い付き合い故に馬鹿馬鹿しい感じがしてならないし。

 なにより、自分らしくない。

 

「イッチー」

 だから、触れてはならないその直前まで。

「今度の日曜日、私に付き合って」

 ゆっくり、ゆっくり。

「バラとか、ガーベラでもいいんだけど」

 そっと、そっと。

「ヤッパリ母の日って言ったら、カーネーションだから」

 優しく。

「買いに行くの、付き合って」

 柔らかく。

「んで、赤いのとピンクのと……」

 傷付けないように。

「白いの、買って」

 近付いて。

「真咲さんの…お墓」

 その心を。

「行こうよ」

 腕を伸ばして。

「ありがとうって、言いに行こうよ」

 抱き締めた。

 

 

 ギュッと、手を握られた。

 予想していなかった事に維は心の奥底から驚いて、自分の手を握った一護を見上げた。

 彼は維の方を見ずに、前の方を向いている。

 しかし、握った手はとても、強い。

「イッチー…?」

 あまりに手と顔の行動がチグハグ過ぎて、維が少し困ったように一護に声をかけたとき、

「―――カーネーション、お前持ちだからな」

 しっかりした、一護の声がかかって来た。

 維は一瞬、目を大きく見開いたが、すぐに頬を膨らませた。

「えー、自分の分は自分で買うけどさぁー。イッチーの分はイッチーが買うべきだと思うんですがどうですか?」

「お前に付き合ってやるんだから、お前持ちに決まってんだろ」

 ハッキリと、心なしか偉そうに言ってくる一護に維はますます頬を膨らませる。

「そう言うのなんて言うか知ってる? 横暴って言うんだよ、オーボー」

「うるせえな」

「ぎゃー! 手痛い! 握りすぎ! 強く握りすぎだから!!」

「そうか? オレは普通だけど?」

「そりゃ、握ってる方は痛くないでしょーよーーーーーーー!!!」

 半端なくキツく握ってくる一護を涙目で睨みつつ。

 維は一護が少し、嬉しそうに笑っているのを見た。

 

 雨の『音』は、すこし小雨になっていた。

 

 

 

Fin


拍手ありがとうございました!

BLEACHで一護&維(雰囲気的には一維)でした。

時期的に、二年生の時をイメージして書きました。

全てが一通り終わった後の母の日、そんな感じです。

一護も真咲さんの事は吹っ切れてると言うか、一応決着を付けた感じと言う事で一つ。

 

2007.5.11

 

 

 

 

質問です。

貴方の初恋はいつですか?

そして、相手は誰ですか?

 

 

「俺はおふくろ、かな」

「ああ、やっぱり。イッチーそんなイメージだよね。お母さん大好きっ子だし。

で、真咲さんと結婚するんだって言って一心さんとケンカしたんでしょ? しかもスッゴイ盛大なの」

「何で知ってんだ!?」

「……本当にやったんだ」

「!! おま、カマ掛けやがったな!?」

「え、何で私が怒られんの!? そんなお約束な事するイッチーの方がいけないんじゃんか!」

「悪かったなお約束な事で!」

「や、お母さん大好きで大切にするのは良い事だよ! 小さい時なら誰でも経験するって。

私も最初お父さんと結婚したいって言ってたらしいから」

「お前の初恋の人って、親父さん?」

「うーん。自分じゃ覚えてないからカウントして良いか解らないんだよね」

「質問から考えれば自分の初恋はいつだって事だから、自分がこれがそうだって言う方が良さそうだよな」

「確かに、じゃあお父さんはノーカンで。そうなると…うーん」

「いないのか?」

「………気になる人なら、いたかな?」

「マジ?」

「うん。でも、それが恋かどうか、良く解んない」

「なんだよそれ」

「すっごく気になる人なんだけど、会ったら凄く大好きになるって言う確信はあったんだけど。

でもそれは恋って言うよりも友情とか好奇心かもしれないし」

「ちょっと待て」

「なに?」

「会ってもないのに気になるってどういうことだよ」

「『音』だよ」

「『音』ぉ?」

「ずっと聞えてきてずっごく気になってたの。いつまで聞いてても全然不快にならなくて、凄く不思議な『音』を出す人。

会ってみたいって、ずっと思ってた」

「ああ、そういうことか。でもそれって立派に初恋なんじゃねぇの?」

「そうかな? ただの好奇心が乗じてって言うのも、あると思うんだけど」

「でもよ、その『音』の主の事、ずっと思ってたって事だろ?

他に脇目も振らずにソイツに会いたいって思ってたんなら、恋って言えるんじゃないか?」

「んー…」

「なんだよ、なんか問題でもあるのか?」

「それが初恋だとすると、私とんでもないくらい長い間、片思いしてたって事になるのかなぁって」

「はあ? どういう意味だよって、なんで俺をジッと見るんだ」

「や、なんとなく」

 

 

 

Fin


拍手ありがとうございました!

BLEACHで一護&維(心もち一維)でした!

一護の初恋は真咲さん。

これは絶対にガチ。

そして、真咲さんと結婚するんだと言って本気になった大人気ない一心さんと盛大な親子喧嘩をして欲しいと心の奥底から思います(笑)

維の初恋は…ちょっと悩みました。

一護同様のお約束で維のお父さんにしようかと思ったんですけど…それよりも維には気になる存在がいたのを思い出して。

物心付いた時から、おそらく聞えていただろう『音』の主。

でも、その気になる存在が本当に恋心だったのかと言えば、ちょっと違う感じです。

確かにその『音』に興味がありすぎて他の事(恋愛)に気が向かなかったのですが。

やっぱり好奇心かなぁ。

大半の好奇心と、ちょっとの恋心で(笑)

維が気になっていた『音』の正体はSS《SUONO DI ANIMA》で明らかになっています。

 

2007.12.18.

 

 

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